冬萌の彼と彼女のエピローグ?
きょの更新です
さて……どうしたものか。と俺は言いたい。
場所は服屋という雰囲気すら何もないが、あの流れは感動のエピローグへ繋がる布石だと思っていたのだったが、少しだけ鼻と目を赤くした笠木、午前中に俺と笠木がエンカウントしたカフェにて俺は面談をするように笠木を前にして冷や汗を掻いている。
「木立くんって本当に何するか分からないよね……」
「いや……そのですね、あんな場所でいきなり泣き出すとは思わないし、なんならこの状況すら予想してなかったと俺は言いたい……です、はい」
意味が分からない、笠木が怒っている……ような雰囲気を出している理由が俺には見当も付かない。
俺が少しだけキョドっている雰囲気を察したのか笠木は肩の力を抜いたように呼吸を整えた様子であった。
「ずっと……待ってた、誰かが助けてくれるの」
ポツポツと笠木は語りだす。それはまるでエピローグを少し先に控える青春ラブコメのヒロインのように。
「でも、誰も助けてくれなかった。当たり前だよね……だって現実にヒーローはいないんだもん、だから……誰もならないなら、私がヒーローになるしかないって思ったの」
「それで、この雑誌を見てたのか?」
俺は手に持っていた袋から一冊の書物を取り出す、如何にもなコスチュームに身を包んだ男性ヒーローが胸の位置まで拳を持ってきて堂々たるポーズが表紙の雑誌。
対象年齢は恐らく高く見積もっても小学校中学年程度が見ると、想定され作られている本。そんな本を笠木はどんな気持ちで見ていたのか俺には分からない。
「木立くん……やっぱりストーカー?」
そうくると予想していた。しかし、笠木本人を目の前にして「笠木の事を理解する為に買った」と言って信じてもらえるのだろうか?
訝し気な表情をする笠木に対して、適当な言葉は出てこない中、俺よりも笠木が先に言葉を紡ぐ。
「木立くんの事だから何か理由があったんだよね、言いたくないなら聞かない」
「深い意味はないが……この本を笠木が見てたから、気付けたって感じだな」
笠木が目標にしていたものは、俺とは似て非なるヒーローだ。
俺が主人公としてのヒーローを目指すのと違い、笠木は救済者としてのヒーローを目指していた。
皮肉なことに、二人とも目標に近づく事すら出来ていないのが現状と言ってもいいだろう。
「いっぱい努力して頑張って……すごくすごーく頑張って誰かの助けになろうって思ってたんだけど、宿泊研修で自分の事すら助けられなかった、それなのに他の人を助けるなんて烏滸がましいよね」
自虐的に嗤う笠木を見て、どうにか助けになる言葉をかけてやりたい気持ちを俺は抑える。ここは俺の気持ちを優先するポイントではない、俺はこれまでの答え合わせをしなくちゃならない。
「それで逃げ出しちゃったんだけど、木立くんが来たでしょ?」
「あぁ……」
「中学時代の私が本当に縋りたかったヒーローがいたんだって! 特撮じゃなくて現実のヒーローが私を助けに来てくれたんだって思っちゃったの、それが凄く嬉しくてもう一度頑張ってみようって決意したの」
笠木の罪は妄信だ。
口では青春ラブコメはファンタジーと豪語するくせに捨てきれないペテン師を、ヒーローと誤認してしまったのだろう。
本当に皮肉だ、俺の目標が笠木の目標を潰してしまっていたのだ。
「それでね、私を救ってくれた木立くんと綾香の役に立ちたいって思って、綾香の件に繋がるんだけど……あの時は本当にごめんね」
「それはもういい、あれは俺達二人とも悪いって事で終わりだ」
「相変わらずヒーローでいるんだね、そういう事にしておくね、ありがとう」
笠木の手助け、そして遠回しな忠告を無視した結果……俺は田中の好意を利用して状況の改善に躍り出たが笠木に阻止……いや、救われたのだ。
「体育祭前に綾香との関係が悪化した時も……結局木立くんに全部押し付ける形になっちゃった、それで私って何も出来てないんだなって……無力なんだなって」
「無力なんかじゃないだろ……笠木、それに藤木田とか多方面の力を借りなきゃどうしようもならなかった」
笠木は少しだけ間違っている。
俺の言葉通りに、俺が一人で何かを解決出来た事は一度もない。いつだって誰かの手や知恵を借りてようやく一歩前に出ているだけの話だ。
だが、この笠木の自信の無さは……俺が作り上げてしまったんだ、俺が笠木の言葉を否定出来る権利なんざ無い。
「文化祭だって準備に手が回らなくなったし、三谷さんたちに詰め寄られた時も、ミス北高を前に逃げ出しちゃった事も全部全部……木立くんに助けられて、それで悟っちゃったんだ、私はヒーローになれないって……」
俺が笠木の成長する機会を全て目標の為に壊していたんだ、笠木の言葉通りに笠木にしてみれば俺は悪で妥当だ。
結果的に自分の目標からも遠ざかって本当に何をしていたんだろう……そう思う。
「クラスのみんなもこれからは私じゃなくて、木立くんを頼りにすると思う……ううん、絶対そうなるよ」
笠木の言葉は否定出来ない、俺も感じていた。
俺は既に【青春の隅っこの方】にはいない。
笠木のポジションを奪い取り、追い込んでしまったのは紛れも無い俺だ。
「でも……今日、少しだけ嬉しかった。木立くんの言葉で役に立ちたい人の為に役に立てたんだって、本当に嬉しかった」
俺は笠木に聞かなければならない事を口にする。
「笠木は……まだヒーローになりたいのか?」
笠木は俺の問いかけに一呼吸だけ間を空けて答える。
「私には荷が重いかな!」
口調からは諦めたような明るさと真実が含まれていた。
なのに……そんな辛そうな顔をする、何でこの雑誌を手に取ってたんだよ。
言えよ、ヒーローになりたいって!
だけど、笠木から全ての機会を奪ってしまった俺が掛けてやれる言葉は存在しない。それはあまりに残酷だ。
何も言い出せずに俺が俯いていると笠木は、空気を変えるように話題を提供してくる。
「じゃあまだお店開くまで時間あるし、少しだけ楽しい話でもしよっか? 綾香とのデートはどこにエスコートするつもりなのかな?」
「……デートってわけじゃないが、田中は派手なのが好きだから――」
会話が頭に入ってこない、取り繕うだけの文字を並べているだけだ。
これでいいのだろうか?
俺と彼女の物語はこれで……終わるしかないのかもしれない。
最後まで見ていただきありがとうございました!!!




