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冬萌における彼と彼女の延長戦

今日の更新になります!

 吹雪……とは言えないまでも、ふわふわとした雪が、笠木の頭に積もっていく様子を俺は見ている。


 先刻、俺の後ろを歩いていた人間からしても、俺の頭も似たような状態なのだろう。


 そんな笠木は歩みを止め、茫然としている様子が後ろ姿から伝わってくる。


 俺達はアニメショップから数分歩き、賑わう駅前とは逆の方向である全国でも指折りの歓楽街方面へと足を運んでいた。


 近づくにつれて、この歓楽街特有の形容しがたい油っぽさが、冬の空気に混じって纏わりつく感覚は好きではないのだが……問題はそこではない。


 調べなければ普通は入り込まないような路地へ入ると、出張を前提としたビジネスマン向けのホテルの看板が幾つも目に入る。


 その中で尤も主張が控えめとも言える、細長い印象を与えるビルの二階に、笠木の目的地は存在していた。


 しかし、本来の目的地である二階ではなく、階段横の壁に設置されている営業時間が記載された看板を見て笠木は微動だにしなかった。


 それもそのはずだ。


 路地を曲がるまでは、この店が目的地だと知らなかった俺でも多少なりガッカリしているのだ、最初から目的地と設定していた笠木は俺よりもガッカリしている事は背中から伝わってくる。


 笠木が食べたいラーメンは、知る人ぞ知る。というジャンルのラーメンではなく、「味噌ラーメンならコレ!」と言わんばかりの有名店であった。


 俺はこの店舗なら敢えて醤油を推したいのだが、一般的には、やはり味噌ラーメンを掲げる店なのだ。


 だがしかし……営業時間外ならどうしようもないという現実。お昼を誘ったのは失敗だったか? と考えて俺は笠木へ別の提案をする事にした。


「……別の店でも行くか? 味噌ラーメンなら――」

「ダメ! 絶対ここで食べる!」


 薄々気付いていたが、笠木は変なところで強情だ。田中も苦言を洩らすように以前に言っていたのだが、こういう部分で後退する事を知らない。


「とは言っても、あと数時間あるぞ」

「……待つもん、絶対」


 可愛いな、おい。

 いや……待て、木立純一。今はそこじゃない。


 確かに中毒性があるくらいに味のいい店舗だが、朝よりも降り注ぐ雪の粒が大きく、これから徐々に気温も下がっていく事を考えると、せめてどこかへ移動しなくてはいけない。


 まぁ……素直に帰宅するという選択肢もあるのだが、笠木は一人でラーメン屋へ入る事に抵抗があるタイプだ。


 その情報を知っている俺としては笠木に別れを告げて一人帰宅するという考えは無い。


 見るからに落ち込んでいる笠木を視界から外して、辺りを見回すと、雪を避ける為に傘を差している人たちだって少なくはない。


 どこか喫茶店で時間を潰すにも数時間の猶予がある、普段街へ出ない俺が笠木へ提供出来る場所なんて頭に浮かぶわけが無いのだ。

 

 どうしたものかと考えていると……笠木は俺の方を振り向き、俺を上から下へ見定めるように顔の角度を変えていく。


「木立くん……綾香の紹介してくれたお店で何も買わなかったの?」

「ん? あぁ……色々な事情があり、まともに見る事が出来なかった」

「私も……ちょっと色々あって、見れなかったかな?」


 笠木は主人公からの返答を待つギャルゲのヒロインの立ち絵のように俺の顔を見続けてくる。


 何? これ、俺の返答待ってるの? ギャルゲの主人公か胡散臭いメンタリストでも連れてきてくれ。


 生憎のところで俺の眼前に三つどころか、一つの選択肢すら出現する事は無いのだ。


 そんな俺の状況を察してか笠木は、肩を竦めて微笑むような表情をする。


 どうやら時間制限のある分岐点だったらしく、俺が笠木の言葉に返答する事も無く、笠木は会話を続け始める。


「木立くんは相変わらず変なところで察しが悪いよね」

「察しが悪いどころか、性格も悪いけどな」


 俺と笠木のやり取りではあるのだが、久々に言えた気がする。相変わらず笠木は俺の自虐ネタにクスリとも笑う事はないのだが、安心感が生まれてくる。


「そういう言い回しするのも五月の頃から変わらないんだね」

「……変わってるぞ、俺的には自虐のキレが良くなったと言いたい」

「それはどうかなー? じゃあ寒いし行こっか?」


 先ほど同様に行き先を俺に言わないまま、笠木は頭上や肩に積もる雪を払いのけて歩き始める。俺はその後ろ姿を追い、横に並び歩き始める。


 久しぶりに笠木の横に並んだ気がして、気恥ずかしさと戸惑いがあり打ち消すように俺は笠木へ質問を投げかける。


「どこに行くんだ?」

「今日、私と木立くんが、お互いに顔を見合わせた場所かな」


 地下鉄? え? 普通に帰るの? いやないな。


 だとしたら先ほどの会話が不自然だ、恐らく笠木の中では地下鉄の事は回数に入っていないのだろう。

 

 という事は、俺は笠木と服を見に行くのか……あれ? まずくない?


 自虐ではないが、容姿はもちろん、俺は服のセンスに自信を持っちゃいない。基本的に俺の服は田中か母親が選んでいる。


 そんなファッションセンスが育まれる事なく生きてきた俺が、笠木と服を見に行く……?


 俺のセンスの無さが露見してしまう事は避けられないのだ、こんな時に浮かんでくるのが、藤木田大先生の顔なんて皮肉だ。


 興味が無い事で聞き流していた藤木田大先生のファッション談義や、ショップ店員である田中の言葉をもっと聞いておけば良かったと、後悔する日が来るなんて思いもしなかった。


「木立くん……? なんか顔色悪そうだけど大丈夫?」

「……顔色はいつも通りだ、顔が悪いだけだから気にするな」


 オーケイ、俺。

 自虐ネタを披露出来るくらいに冷静だ、思い出せ! 藤木田大先生の言葉と田中ママの言葉を……!

最後までみていただきありがほーです!

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