冬萌の回想録
きょの更新です!
「あの……この件については勘違いで終わったと思ってたんだけど、木立くん……本当にストーカーだったりしないかな? その部分くらいは信じていいかな?」
十二月某日、クリスマスまで残り僅か、定期の期末試験をそれなりの成績で楽々とクリアし、冬休みまで残り僅かという、とある日。
俺は、笠木から訝し気な視線を送られていた。俺と笠木が会話をする場所はイレギュラーな事が無い限り、学校というフィールドによって繰り広げられる。
そんな中、街中のとある店で俺は笠木と学校外での予期せぬ出会いを果たしていた。
俺は即座に否定をしたいが、現状では説得力に欠ける。笠木からの信頼がそれなりに低い時に、こんな事があっては弁解の余地も無いと俺は言わせていただきたい。
「そのだな……本当にたまたまとしか俺には言いようがないんだが、というか笠木は何でこんな店にいるのか俺としては不思議で仕方がない」
俺の言葉に笠木は少しだけ嫌なところを突かれたような表情をする。俺の前では八方美人を止めて唯の美人である笠木が、こんな場所にいる理由は俺も知らない。
「欲しい物が無かったから……来ただけ」
田中から聞いていた通りだったが……少なくとも普通の女子高生が来る店ではない。それは笠木の欲している物が少しだけ、マニアックな物である事を表していた。
「そうか、俺がここにいる理由は聞かなくても分かるだろうから言わなくていいな?」
「うん、藤木田くん達との会話から……ただ、絶対おかしいよ! 何で行く場所に必ず木立くんが来るの!?」
そんな事を俺に聞かれても知らない、偶然の産物だとしか言いようがない。文化祭前の俺なら素直に喜んでいた、今日という日を笠木デーとして、祝日に設定するように行動を起こすまである。
しかしだ、嫌われていると分かっている状態で笠木と会うのは一度だって気まずいのに……本日の笠木との遭遇回数は五回である。
本当にストーカーをしていると思われても仕方がない。どうしてこうなってしまった? 俺はそう言いたいのだ。
金曜日の夜、俺は週五で働くとか地獄でしかない。と不労所得者への道筋を考えながら自室に引き籠っていた。
そして何をするにしても元手となる資金が必要と判断した俺は、財布の中身を確認するが千円札が一枚、そしてクリスマス賃金が貰えるまで、数十日……理由は田中に買ったマフラーと自分の分のマフラーで両親から受け取った十一月の給与を使い切る寸前だったのだ。
「今月の新刊すら買えねぇ……いやそれでも一冊は買える。待てよ……クリスマスとかどうすんだ俺?」
俺の財布がすっからかんだと分かると恐らく田中は、優しい優しい女神の田中は全額を出してくれるだろう、しかしだ……モヤシで貧弱で陰キャの俺と言えど、男としてのプライドが無いわけじゃない。
しかしアルバイトや貯金すらしていない俺の金銭事情は八方ふさがりだ、いや笠木にも嫌われてるし何なら陰キャだし人生自体が八方ふさがりだ、うん。
見ていても増えるわけのない財布をボーッと眺めていると、珍しく社畜の父親が開けっ放しだったドアから姿を見せていた。
「なんか用?」
思春期の男子高校生の部屋を勝手に覗くとか俺以外だったら万死に値するぞ、同じ男なら理解してほしいところだ。
いや、ドア開けっ放しにしてたのは俺なんだけどね。
そんな俺の迷惑そうな声色に、顔色を変えず父親は鞄からくたびれた財布を取り出し、俺に諭吉を二枚手渡してきた。
「え? 俺の給料日!?」
あまりに驚いて、小遣い支給日の事を給料日と素直に口から出てしまった事は反省したい所存であるが、父親はそんな俺の舐めた発言を聞き流すかのように口を開いたのだった。
「クリスマスって聞こえてな。必要なんだろ?」
「まぁ……多少なり必要になる予定かも知れん」
必要な用事が無くたって、金はいつだって必要ではあると、矛盾に聞こえるが矛盾ではない言葉を心の中で唱えてみる。
「俺も学生時代はな――」
これは父親特有……と言うよりも大人特有の病気である。過去の栄光だったり過去の自分を語りたくなるのだろう、担任の佐々木もホームルームで誰も興味が無い青春時代の話を、スイッチが入ったように語り始める時がある。
よって、この話は長くなるし視聴率が悪い深夜アニメよりもツマラナイと判断した俺は、無言でスーツ姿の父親を廊下へ押し出しドアを閉める。
何にせよ、俺は臨時ボーナスを手に入れた。実際のところ父親もボーナス支給日だったのだろう。
まさに僥倖である、普段なら用事が無ければ金が有ろうが無かろうが、引き籠っている俺なのだが、諭吉が二枚となると多少なり気分が高揚してしまい、欲しい物は直ぐに脳内でリストアップが出来た。
そう、調子に乗ると昔から俺はロクな目に遭わない、そもそもこれが間違いだったのだと俺は今更になって言いたい。
最後まで見ていただきありがとうございました!




