冬萌と隠し事
今日の更新分でございますのです(*´ω`*)
俺は職員室前で田中を待つ。
ちょっとした話し合いにしてはやけに長く、スマホで時間を確認しても藤木田とは三十分以上話していた。
一学期と比べて田中のギャル度は下がっているし、高校生なら常識の範疇と言えるくらいの化粧になっている。
そもそもウチの学校は外見についてはそこまで煩くないし、外見を注意するなら何故このタイミングなのか? という疑問が浮かぶ事から、別の用件で呼び出されている事は明らかだ。
そう考えている内に職員室のドアはゆっくり開き、田中かと思い顔を向けると、田中では無く担任の佐々木が出てきた。
「おう、俺に用事か?」
「いえ、田中が職員室に用事があるって聞いたんで待ってたんです」
俺の言葉で担任の佐々木は首を傾げる、そもそも職員室に用事があるからてっきり担任の佐々木と思っていたが……。
「田中? 職員室に居なかったんじゃないか? 俺は見てないな、お前らどうせスマホ持ってんだから連絡すりゃいいだろ」
田中が職員室にいない……? どういう事だ、もしかしたら入れ違えで教室にでも戻っているのかも知れん。
「それより木立、お前やるじゃねぇか?」
何の話だよ、今はお前に構ってる暇は無いんだ。生徒の気持ちを考えてもらいたい、放課後という貴重な時間を教師に割くなんて愚行である。
手短に聞いて終わらそう。
「試験の点数の話ですか?」
佐々木はニヤニヤした顔で楽し気に話してくるが、俺は佐々木と話しても別に面白くもなんともないのだが、変に目を付けられても困るので大人の対応をしよう。
「いやいや、田中を待ってたって事は付き合ってんだろ? 俺はお前が冴えない奴だと思っていたが……見直したぞ!」
そう言って俺の肩をポンポン叩くが、女生徒を待っている。という事を付き合っている。に脳内で変換するところが佐々木の恋愛経験の少なさを表してる。
いや、俺も無いんだけどね。
それでも、こういった拗らせ方はしたくないな、話を流した方が良さそうだ。
「はぁ、ありがとうございます。じゃあ田中探しに行くんで失礼します」
「おう! また明日な!」
佐々木は別に悪い担任では無い、日によってはやる気が無さそうに見えるが……生徒側へ踏み込んでいくタイプの教師だ。
そのため、この流し方は罪悪感を覚えるが……まぁ田中が優先だ。
季節特有の早い陽の落ち方によって薄暗さを増した廊下を歩いて考える、それにしても田中が職員室に居なかった……佐々木の勘違いじゃなければ、田中が俺に嘘を吐いたという事になる。
俺に知られたくない事がある。そして田中の考えなら、少しの時間で終わる予定だったが、イレギュラーが発生して延長している。そしてスマホで俺に連絡を行えない状況。
うん、まったく分からん。
もう少し情報があれば辿り着けたかも知れないが、田中が俺に知られたくない事ってのが何一つ浮かばない。
そう思いながらも教室へ辿り着くと、藤木田の姿はもちろん、田中の姿も無い。
まぁ、俺が出来るのは待つだけだと考えていると、廊下を勢いよく走る音が聞こえてドアの方を向くと田中が勢いよくドアを開けた。
「マジごめん! めっちゃ遅れた!」
多少息切れをしてるようで田中はドア側の席にすわって息を整えている。
「あぁ、それで用事は終わったのか?」
「ちょい、待って! めっちゃ走ったから一休み!」
田中はダラーとした体勢で机に身体を預けている、何をそこまで走る理由があったのか。
少しばかり息を整えたのか田中は机から身体を引きはがし立ち上がる。
「結構待った感じ……だよね?」
確かに時間で言えば、結構待った。
しかし……藤木田と会話したり職員室まで行った事で、体感としてそれほど待っていない。
「時間だけならな、ただ藤木田と話してたから時間は潰せた」
「眼鏡? いないじゃん」
そりゃさっきまでの話だからな、それよりも田中は一体どこで何をしてたんだ?
「藤木田は先に帰った、それで佐々木に進路相談でもしてたのか?」
俺の言葉に反応した田中は視線を逸らす、というか笠木と違って随分と分かりやすい。まぁ言いたくないなら別に無理強いはしない、隠し事の一つや二つくらい誰でもある。
「えぇっと……そんな感じ! とりま陽落ちてるから、さっさと行くよ、ほら鞄持って!」
「はいよ」
田中の急かす様な態度に違和感を覚えながらも、教室を後にする。
「それで駅の方に行くのか?」
「んーその方がアタシとしては選び甲斐があるんだけど……アンタって人混み嫌いっしょ?」
「そうだな、なにより……この時間はリア充多い、オシャレなコーヒーショップで甘すぎるコーヒーもどきを飲んだりしている姿が想像出来る」
「いやいや、アンタも他の人から見れば似たようなもんだかんね……」
そう言って田中は眼を細くして俺を見る……いや睨んでくる。
まぁ……付き合ってはいないがそう見えるのだろうか? でも男の方が身長小さいって珍しいだろ。弟枠としてなら納得出来る。
田中と玄関を目指し、歩いているとタイミングが悪く担任の佐々木が職員室へ戻ろうとしていた。
「おう、木立! 田中見つかったみたいだな」
この流れはよくない、俺の本能がそう告げている。別に俺に非があるわけじゃないのだが……。
「あ、はい。さようならです」
「……何の話?」
田中が隠している事を聞かざるを得なくなってしまうので俺は、佐々木に軽く挨拶をして去ろうとするが、田中の言葉に反応して佐々木は、言ってはならない一言を発する。
「さっき木立が職員室の前で田中待ってたんだよ、それで田中はいねーぞって伝えてやったんだよ。田中も彼氏に居場所くらいちゃんと伝えとけな、そんじゃあな!」
そう言って笑顔で佐々木は職員室へ戻っていく、詳しい説明をありがとう佐々木。佐々木が悪くないのは分かっているが……恨む事にさせてもらう。
「……アンタ知ってたの? アタシが職員室にいなかったって」
「ま、まぁ……でも言いたく無さそうだったしな」
こういう空気は苦手なんだが……俺にはどうしよもない。
「隠す内容でも無いんだけど、個人的に言いたくないって感じ。別にアンタに都合の悪い話とかじゃないから、そこは安心していいかんね!」
「俺に都合が悪くないなら関係ないな、ただ多少なり心配はするから連絡くらい欲しかったところではあるな」
「それはマジごめん! スマホ弄れる雰囲気じゃなくて……でもアンタでも心配とかするのがアタシ的にはビックリなんだけど……」
何? 俺が人の心を忘れたモンスターみたいな言い方止めてもらえるかな?
まぁ、実際のところ気にならないわけじゃないが、俺は田中の彼氏でも無ければ家族でも無いのだ。触れて欲しくない部分には触れない方が良い。それは少なくとも今の俺の役目じゃないのだから。
最後まで見ていただきありがとうございました!




