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青春と二次元欲張りセットは濃すぎる件について

 感じる……フォースを。


 俺は六時限目の授業中に得体の知れない感覚を味わっていた、この教室は陽キャやリア充と呼ばれる存在はいるが授業妨害などはなく授業中は静かな教室である。

 よって傍から見れば何一つ変哲も無い、いつも通りの授業風景である。


 しかし、先程の授業中に笠木に見られていた時よりも多くの視線を感じていた、何故だろうか? 理由があるとするならば、グループチャットでの変態とも捉えられて仕方のない発言のどちらかだろう。


 否……そんな事くらいじゃ浴びないしキョロ充の高橋くらいしかイジってこないだろう、入学してこれまで三回と少数ではあるが高橋にイジられた事はある、高橋は些細なドジやミスにさえ獲物を見つけたハイエナのように涎を垂らしながら突っかかってくる生粋のキョロ充だ、その高橋ですら今回はイジってこない。

 それどころか高橋に関しては前の席から振り返り俺の方をチラチラ見すぎなのだ。

 話は逸れるが、高橋は将来あまり悪い事をしない方がいい、絶対に碌な結果にならないだろうと思う。


 高橋は頻繁にコチラをチラ見して目が合えば前を向き直すというまるで付き合い立てのカップルのような反応をする。高橋とボーイズラブとか本気で勘弁なのでその説は冗談で在ってほしいと願う。


 他にも笠木や陽キャ軍団のロリ子もチラチラと俺を見ている事はわかっている、ケバ子と授業中から休み時間にかけて寝ている田辺や池田は別枠だ。

 何か悪い事をしたわけではないが謝った方がいいのだろうか? と考える、また藤木田は先ほどの事件で肉体と精神を摩耗したせいか珍しく寝ているようだった。

 普段、いないもの。とされている俺を認識してしまうと厄災が降りかかるのにバカな奴らだ。


 こんな自虐をするくらいに余裕があるのも事実、入学して色々あったせいか俺のメンタルは随分と成長しているようであった。

 しかし、良し悪しは知らないが俺が注目されている事は間違いない、肝心の藤木田は寝てるし起きてても正直この件に関しちゃ手に余るだろうし……笠木に聞いてみてはどうだろうか? と考える。



『あのさ、俺クラス中から注目されてない?』

『は? キメーんだよ、自意識過剰過ぎない? 陰キャのくせに』


『俺の事どう思う?』

『は? キメーんだよ、さっきトイレで鏡見てきたんじゃねーのかよブス!』


『得体の知れないフォースを感じる……』

『は? キメーんだよ、その歳で中二病かよ、氏ね!』



 ダメだ、どのパターンも笠木からの口撃でライフが無くなるイメージしか浮かばない、笠木はそんな事言うタイプではないと分かっているが陰キャ的思考のおかげでポジティブな映像が浮かび上がらない。


 六時限目が始まってそれなりに時間は経っているにも関わらず何もしてなくても注目を浴び、俺が机やイスを軋ませる音を立てただけでそれ以上の視線が集まるのだ。

 流石に、面倒というより、これまでの人生でこれだけ注目されることが無く少しばかり嫌な気分だ。やむを得ない状況なので隣の席のエンジェルである笠木に話しかけて確かめようかと迷う。


 というか自分から笠木に話しかけるのは初めての体験になる事、今の状態で笠木に話しかけたら笠木も注目の的にしてしまうのではないか?

 しかし、それ以外に今は手がない。いくらメンタルが強くなったとはいえ、元々弱メンタルなんだ。そろそろ問題解決に着手したいところだ。


 俺は意を決して笠木に話しかける事にした。


「あの……笠木さんちょっといいでしょうか?」


 笠木は少しビクッとして俺の方を向く。話しかけられたのがビックリしたのか、このクラスの他の生徒同様に理由は分からないが俺を警戒しているのか現段階ではわからなかった。

 

「どうしたの? 消しゴムとかシャープの芯ないとかかな? というかそんなに畏まらなくてもいいのに……」


 笠木の表情自体は普段と変わらずあまりの美しさに石化してしまいそうだ、笠木メデューサとか俺を主人公で連載してもらいたい。


「あっはい……えっと、さっきのチャットで挨拶返してくれてありがとう、なんか打ち間違えちゃって誤字ってるんだけども」


 笠木は一瞬だけ俺を怪しむのような表情をしていたが、普段の顔にすぐ戻り俺に返答をしてくる。


「そんな事くらい気にしなくてもいいかな? って思うよ……本当に誤解なんだよね?」


 気にしなくてもいいと言いながらも、俺と目線を合わせずに聞いてくるのだ。

 笠木の中で俺は変態だと疑われてるに違いない。しかし怯えている笠木も可愛い。


「い、いや本当に、そういうつもりじゃ……」


 何これ? グループチャットで笠木に擦り寄るどころかドン引きされているなんて、つくづく俺に青春ラブコメは訪れないらしい。


「じゃ、じゃあ……信じるね、信じない事には始まらないもんね!」


 今までどんな生き方をしてきたらこんな聖人が生まれるのだろうか? 世界に十数人しか存在しない聖人で魔法名とかあるのだろうか、聞いたら俺惨殺されちゃう。 それとも異能の右手の能力に芽生えて異能者同士の戦いに巻き込まれちゃうのだろうか?


 うん、大丈夫……まだ冗談を言える余裕はある。


「えっと……ありがとう、それで聞きたい事があるんだけどいいかな?」


 笠木は俺への警戒を完全に解いたようで何か怖がってる様子等はない、このタイミングだ。

 幾多のギャルゲで鍛えた俺の会話力はここで勝負を仕掛けろと言っている! 笠木が本性を隠していたり演じていない限りはいける!


「なんかさっきからクラス中の視線が向けられている気がして、勘違いかな?」


 笠木は俺から目線をズラす。

 例えば今、笠木の頬をペロンッと舐めたとしよう

《この味は! ……ウソをついてる『味』だぜ……ユキ・カサキ!》という名言が出てきそうなくらいわざとらしい笠木の動作。


 この反応、確実に知ってるだろ、しかも何かあまり言いたくないというより関わりたくないみたいな感じ、そしてこの反応をするという事はクラス中から俺が注目されてるのは間違いないのだろうと考える。


「……殴らない?」


 笠木は怯えるような素振りをしつつ答える。


 殴らない? あれオカシイな、ココは金と暴力と絶望の街! みたいなモノローグなんて俺は知らない、世紀末かな?


「え、殴らないってなんの事?」

「……さっき廊下で木立くんが藤木田くんに土下座させて、その後引っ張っていって藤木田くんをボコボコにして泣かして帰ってきたって噂が流れてて……私は違うと信じたいんだけど、藤木田くん今も泣いてるよね?」


 先ほどの休み時間の光景が頭にアンチ走馬灯のように高速で流れる、そして俺は理解した。

 変態の部分よりも廊下での藤木田土下座事件のインパクトが強すぎたのだ。

 俺は友人を廊下で土下座させトイレでボッコボコにする異常者と思われている事を、異能者同士の戦いではなく異常者同士の戦いと思われていた事を悟る。


「あれは、殴ったとか喧嘩じゃなくて色々あった結果、勘違いから藤木田が恥ずかしさで泣き崩れて、ついでに今寝てるだけでして……」


 笠木はキョトンとした顔をして俺と藤木田のやり取りを想像して微笑む。


「そうなんだね、二人とも大人しそうだしそんなのあるかなーって半信半疑だったんだよね、誤解解くの難しそうだったら私からみんなにチャットで回しておく? グループチャットの件もあるし」


 笠木の親御さんは人間なのだろうか、人間ながら天使を産み落としてしまったのだろうか? それとも一種の悟りを開いてしまった可能性すらあるな、俺もあやかりたい。


「あっ……ありがとうございます! お願いします!」


 俺は陰キャ癖で頭を下げながら下請け営業マンのように相手の手を握ってしまった。そんな事を授業中にしてしまったら誰だって驚くだろう。

 笠木が驚いて「キャッ!」と可愛らしく小さい声で叫んでしまうのも仕方がない事だったのだ。


 教壇前に立つ教師ですらチョークを止め、こっちに興味が無かったケバ子でさえも俺と笠木を見る、教師が声を掛ける前に笠木が席を立ちあがり伝える。


「えっと、すみません、窓に大きい虫が張り付いててビックリしちゃいました」

「おーそりゃ仕方ねー気にすんな」

 

 そう言って教師は黒板の方を振り向き授業を再開する。


「アハハ……ごめんね、驚いちゃって」

「いえ、あのいきなりすみません、癖で手を握ってしまって……申し訳ないです」


 俺もすかさず笠木に恥をかかせてしまった事を謝る、笠木の表情は多少苦笑いをしているが、そこまで気にしている様子はなかった。


「それじゃあ、後は私がどうにかしておくから安心してね!」


 そうして笠木は授業に戻る姿勢をとり、俺も困惑しながら笠木ウォッチングをせずに授業に集中したフリをする。

 会話のキャッチボール出来たんじゃないか? 藤木田に報告だな。何よりアクシデントは起きてしまったが笠木の手を握ってしまった。


 俺は自身の青春ラブコメの躍進を確信し内心打ち震えていた、その反面で笠木は授業に集中出来ず周りの小声が聞こえていた。


(あのヤバイ奴、笠木になんかしたんじゃね?)

(さっきまで何か話してるのみたし絶対脅されてるって!)

(雪、かわいそう……)

(大人しい顔してガチめの犯罪者かよ、こっわ)


 更なる誤解を産んでしまったようだが、もう俺じゃどうしようもならん。


 夜に自室でスマホを眺めていると頻繁に通知がくるようになっていた、また藤木田が打った「よごしてね?」という誤字にも反応をしているところを見ると誤解が解けたみたいであった。

 中には、挨拶や返答があったり、あれだけ俺にビビっていたキョロ充の高橋がイジってきた事が何よりの証拠だ。


「高橋これで四回目だぞ、お前だけは絶対に卒業前に復讐してやるからな覚悟してろよ」


 俺は内心イラつきを覚えながらもグループチャットをスクロールしていく。


「どれだけスクロールしても新しい通知が届きやがる、こいつら暇人か?」


 俺も会話に参加していないがグループチャットを見ている時点で同様に暇人とブーメランを投げる発言と捉えられてもおかしくない事を悟ったが、脳内から削除することにした。

 通知を切って好きな事をしたら良いものの現在のグループチャットの会話に笠木も混じっている事から目を離せない。


「笠木のアイコンはポメラニアンか、猫のイラスト描いてたのに犬飼ってんだな、かわいい」


 俺も笠木のポメラニアンに転生したらなんて事を考えたりと自室での俺はダラけ切っていた、そしてグループチャットの本来の目的であるクラスイベントのボーリングについてのメッセージが届いた事で俺は思い出す。


「あぁ、そういえばボーリングか、小学校以来だな」


 俺は思い出す。


 小学校の時のレクリエーションの時、参加人数とグループ分けが上手くいかず一人だけのグループとして参加させられた事、スペアやストライクを取っても誰も褒めてはくれないのにガーターやスペアを取り損ねた時は、これでもかというくらいに煽られた、当時は何故自分がこんな拷問じみた事を有料でさせられなければならないのかと、幼いながらも理不尽さを感じた記憶がある。


「今思えばアレって完全に人間の本質出ちゃってるよな、DNAに他者を蹴り落とせとでも書いてあんのかね?」


 ベッドでスマホを弄っていた彼は多少の暑苦しさを感じて半回転しベッドの上を移動する。

 少し冷えた布団が心地よく彼は眠気を感じていた。


「とりあえず通知切っとくか、特に俺に対するメッセージなんて来ないし、来ても藤木田だろう」


 流石に高校生にもなってブーイングをするなんて高橋くらいしかやらないだろうと考える、何より今回は藤木田と同じレーンなので以前よりはマシなイベントであると思い眠りについた、そして


 早々に眠りに落ちていた俺は一件のチャットに気付かなかった。


 朝、俺は目を覚ますとスマホを手に取らず身支度を整える、そしてスマホを一度も確認せずスクールバッグに突っ込んだ。

 俺は結局のところ変わらず陰キャであり、一般人にありがちなスマホ中毒者ではない為、スマホを小マメに確認するという概念が存在しなかった。

 

 通学路で藤木田と遭遇し共に登校をする、今期のアニメについて語り合いながら俺は俺なりの青春を過ごせている、しかし青春には様々なスパイスが存在しており俺は昨夜投じられた、ひとさじに気付かないままであった。


「だから木立氏の二次元欲張りセットよりマシでございますぞ!」

「アレはまた別であって今期の異世界転生枠多すぎだろ、何が何だかタイトルじゃわからねぇよ」

「見ないのでございますか?」

「……見るけどさ、だからってお前のオススメのアレはやり過ぎだろ、義妹に従妹に女教師に生徒会長を手玉に取る平凡な高校生がどこにいるんだよ」

「いないからこそ楽しめるのではないですか」

「案の定両親は海外出張だし、実は異能持ちで俺ツエー可能、日常ハーレムと異世界の兼業とか詰込みすぎだろ、羨ましいどころか殺意しか湧かねぇ自信がある」

「でも見るのでございましょう?」

「まぁ……」


 五月にして俺達の青春はささやかながら色づき始めていた、俺達の青春には未だ恋愛要素が無く友人が少なく平凡以下とさえ評されるくらいだろう、しかし俺達は笑いあっていた。

 しかし微量ながら足されたスパイスは俺の青春に少しづつ浸透し変化をもたらすのであった。

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