冬萌の雪は俺の思考を覆いつくす
今日の更新になりますです!ありがとうございましたた
田中と他愛も無い会話をしつつも学校へ到着し、下駄箱で靴を履き替えて教室へ向かう。そして俺は最近違和感を感じている。
「綾香、おはよ!」
田中が教室へ入り、最初に挨拶してくるのは笠木であった。
俺は田中の後ろに隠れるように教室へ侵入しているので、笠木の表情は見えないが、声色から笠木の家での出来事は無かった……と言うより田中の策略通りに笠木には何も悩みは無くなったかのように明るいトーンで田中へ挨拶を告げていた。
「雪、おは! 今日めっちゃ寒くなかった? ホントに有り得ないんだけど!」
さっきも聞いたような台詞だ、この会話にどんな意味があるのか俺には分からんが、田中には入り口の前で突っ立ってるのを止めてもらいたい。
俺が通れる隙間が無い。
「あ? 今日は木立と来てねーのか?」
太い声で少々威圧を感じさせるように池田が田中に尋ねる、恐らく池田本人にそのつもりは無いのだろうが、声質のせいで多少損をしていると思う。
「ん? 後ろにいるけど……アンタもパッと挨拶くらいしないから空気になんだかんね、ほら挨拶!」
田中は入り口で突っ立ていた身体を少しだけ、斜めに逸らし自身の子供を紹介するかの如く俺の姿を陽キャに認知させる。俺は赤ちゃんに近い存在なのかも知れない。
「……おはよっす」
いつまでも慣れないのが、この光景だ。陽キャに注目されると、身体が強張って声が小さくなるし、敬語なんて使いたくないのに敬語もどきのように中途半端な語尾を付けてしまう。
「木立ぇ! お前いっつも元気ねーな、おい!」
「マジそれな! 来る途中で綾香姐さんに毎回ヤキいれられてんのかと思うわ!」
「いやいや、姐さんとかアタシそーゆうキャラじゃないかんね!」
陽キャの朝の雑談を俺は聞きつつも違和感を感じているのだ、最近は陽キャが俺と田中の色恋のような関係に一切口を出さなくなった……と言うより、イジらなくなっているのだ。
まるで日常の風景、在って当然であるかのように振る舞っているのだ。
「んじゃ、俺は席に行くわ」
俺は陽キャ軍団と雑談する田中に軽く挨拶をして自席へ戻ろうとすると高橋が俺に話しかけてくる。
「おい、木立ぇ! お前もカラオケいくべ?」
何の話だよ? また俺の知らないところで陽キャ主催イベントの話でも進んでいるのだろうか?
「後でグループチャットに返信しろ」
あれだけ、俺を嫌っていた池田ですら俺に話しかけるようになっている、あの青春臭い一幕で俺をライバル兼友人とでも認識してしまったのだろう。
そう、第二の違和感は……まるで陽キャが俺の友達のように俺に話しかけてくる事だ。別に悪い話では無いのだろうが、俺の陰キャとしての価値が薄れてきている気がしてならない。
いや、陰キャに価値って言うほどの物はないのだけれども。
何にせよ、俺の立ち位置が最近行方不明である事に変わりはない。宿泊研修はともかくとして……夏祭り、体育祭、文化祭という苦行とも言えるイベントをどうにか攻略していく事によって俺の認知が上がっている事は分かっていた、良い意味でも悪い意味でもだ。
しかし、考えたって仕方のない事だと俺は自席へ向かう途中に、陰談を繰り広げているであろう友人の席へ向かう。
「おはよさん」
俺が挨拶すると藤木田は俺に挨拶を返さぬまま、両手で頭を支えて肘を机につけて何か悩んでいるようなスタイルとなっていた。
「藤木田はどうしたんだ?」
俺は藤木田の前に座る彼女持ちの黒川に尋ねると、彼女持ちの黒川は相変わらずと言ったように戯言を真顔で喋りだす。
「藤木田に本日の予定を聞かれてな、クラウドさんと夕方に会う約束をしていると伝えたら悲しそうな顔をしてな……」
黒川が、彼女持ちの黒川に転生を果たして祝福したい気持ちはあるが、友人として遊べる時間が減ってしまった事に今更気付いてしまって悲しんでいるのか……。
友情を第一優先している藤木田らしい悩みだが、こればかりは慣れるしかない、黒川が選んだ道なのだから。
そんな俺の考えをぶち壊すように、黒川は言葉を続けてくる。
「それで三人で遊ぶことを提案したら、頭を抱えてしまってな……木立、頭痛薬を持っていないか? 藤木田が心配だ」
……俺はお前の頭が心配だ。
「そうか……藤木田お疲れさん」
「えぇ、嬉しい気持ちもあるのは事実ですが……流石にちょっと。と言いたくなるような返しで某、別の意味で頭が痛くなりましたぞ……」
俺と藤木田の会話が分からないか、そもそも読み取る気が無いのか黒川本人はキョトンとした表情を浮かべている。
そんな中で、藤木田は気を取り直したように俺へ尋ねてくる。
「木立氏は今日のご予定はいかがですかな? 某はもちろん空いておりますぞ!」
「いや、藤木田は俺とクラウドさんと遊ぶ予定がある」
「今日は田中と買い物に行く、すまんな」
黒川の返答を無視するように俺は藤木田へ返答をする、この状況で藤木田に言うのは気が引けるが、俺は田中と付き合っているわけでは無いので納得するだろう。
俺の言葉で藤木田の顔が絶望の表情に変わる様は見ていて少し笑いそうになるが、先に予定を入れてきた田中の勝ちだ。
いや、藤木田や黒川が先に俺との予定を入れようが変わらずに、田中に譲る形で俺は田中と遊びに行く事になるのだが……。
「某……もしかして、いえ、そんなはずは……!」
「どうした? 陰キャみたいな独り言を喋りだして」
藤木田は俺の返答もお構いなしで一人で自問自答するかのように何やらブツブツ喋ったりゴワゴワした天然パーマを掻きむしっていたが、ようやく落ち着きを取り戻して口を開く。
「某、木立氏と黒川氏以外にもクラスに話せる生徒は多いのですが……女子で話せる方がおりませんぞ……」
「いや、お前色恋にはあまり興味無いからいいだろ、俺だって別に田中と付き合ってるわけじゃないしな」
藤木田は駄々を捏ねる子供のように首をぶんぶん振り始めた、これは良くない予兆だ。
俺は黒川の方へ目配せすると黒川も流石に気付いたのか、眉間に皺を寄せている。
「黒川氏と木立氏と、一緒がいいのですぞ! 某も話せる女子くらいいても罰は当たらないのですぞおおぉ!」
時折、極稀……藤木田は予想だにしないタイミングで発作を起こす、急にファッションに目覚めたり黒川とクラウドさんのデートを尾行したり、口の悪いコスプレイヤーの写真を撮りたいなど……。
そして今回は、俺と黒川では対処が難しい話題を提供してくれている。そもそも騎士王ことロリ子と接点あるんじゃないのか?
「騎士王がいるだろ、あれで我慢しとけよ」
「某、騎士王殿の蒼い鳥のSNSを通じての連絡は可能ですが、個人的な連絡先は貰っていないでございますぞ……」
ロリ子は趣味だからな……趣味とプライベートは完全に別世界と考えるタイプであり、個人的な連絡先はあまり教えたくないのだろう。
俺はハロウィンイベントの件で連絡先知ってるんだけれども……。
「まぁ、今日はどれだけ泣きつかれようが先約があるんだ、諦めろ」
「じゃあ、明日は某と遊んでくれるのですかな?」
正直、面倒ではあるが、藤木田の駄々を抑える為には付き合うしかないだろう、別に藤木田と遊びたくないわけではないが……二日連続で遊ぶというのは俺の中では、基本的に無いのだ。
何故なら二次元コンテンツが俺を待っているからだ。
「まぁ……黒川はどうする?」
「明日だな、了解した」
藤木田と黒川はともかく、田中だったり陽キャのイベントだったりと、俺の予定が決まってゆく現状に違和感を隠せない。
今の俺は陰キャと呼べるのだろうか? その考えの中で文化祭で笠木から放たれた言葉がチラつくが俺はまだ確信を持てないでいた。
最後まで見ていただきありがとうございましたた!




