冬萌における青春ラブコメの話
今日の更新でふW+W+
「暗い話しちゃうんだけど、私の中学時代は何となく分かってるよね?」
笠木の中学時代、今よりも笠木が陰キャだった時。宿泊研修でざっくりとだけ聞いた嫌な話だ。
「あぁ、さっきから暗い話には変わりないから気にするな」
笠木としてもあまり言いたくない話をするのだ、何かしらの意味を持った話である事は間違いない、ギャルゲなら笠木の話の後に選択肢が出る。
ただ、これは現実であり選択肢なんて、数えるだけで人生が終わるくらいに存在する。それでも俺はここで回答を間違えてはいけない、それだけは分かる。
笠木は、まとまらない考えの俺を他所に、想像の風呂敷を広げ始めた。
「中学時代の木立くんのクラスに、暗くて地味で一般受けしない本ばかり読んでて、気持ち悪がられたりしてる子がいます、肉体的なイジメは無いけど、その子の精神は環境に付いていけず、どんどん摩耗していきました」
仮定の話とはいえ、既視感が拭えないのは俺が通って来た道だからなのだろう。
「もう……潰される寸前までその子は擦り減っていました、些細な問題だしどこにでも存在する、有り触れた悪意だけど、その子は本当に辛くて死すら考えてました。そんな中で木立くんはその事に唯一気付けました、木立くんは、その子を助けてくれる?」
最後で詰めが甘いのも俺と一緒だ。『助ける?』ではなく『助けてくれる?』って……自分の話してんじゃねーよ。
さっきまでのポーカーフェイスはどうした? 泣きそうな顔をするなら、そんなハッピーエンドに遠い話をするな。
俺はどれだけ嫌われようが、それでも笠木のヒーローで在りたい。だからこそ言わなくちゃいけない。
これが仮定の話だろうが、笠木の話だろうが関係無く俺は俺の通って来た道を否定もしない。
だから笠木のヒーローとしての答えを言う。
「俺は助けられない」
平凡なギャルゲの選択肢なら、バッドエンド直行だ。藤木田の願う友情青春エンドは逃れられない。
それでも、ここは現実で二次元の世界なんかじゃない。だからこそ幾千通りの選択肢の海を潜り抜けて、その先にある空白を掴み取る。
汚い字だろうが、俺だけの回答を綴った。
「助けられない……?」
よかった……俺の言葉の意味を読み取ってくれなきゃ話が終わってしまうところだった。人に察しが悪いと言うだけはある。
「俺がここまで歩いてこれてるのは、藤木田や黒川のおかげだし、俺一人で出来る事なんて陽キャを内心、皮肉めいた言葉で小馬鹿にする事くらいのものだ」
そうだ、言葉通りに俺は笠木を助けられないだろう、陰キャに出来る事に大義なんて存在しない。
「ただ、それでも宿泊研修で言ったように、仮に助けられなくても俺は、笠木の傍にいようとする、それだけは間違いない」
その言葉に安心したように笠木は、取り繕わない言葉を洩らす。
「やっぱり木立くんの事、私は嫌い」
その返しが来るのは分かっていた。好きな人に嫌いと言われるんだ、慣れはしないし、正直言われたくない。
それでも俺は笠木の欲しかった回答を言うわけにはいかない。俺が笠木のヒーローで在るために。
「中学時代の私なら縋っていたと思う……けど、今の私にとっては毒薬みたいな言葉かな」
毒薬とは酷い言われようだ、それでも決心した。俺が憧れた主人公たちは最低ラインの好感度から這い上がってくる、なら俺もそのプロセスに肖ろうと思う。
藤木田と黒川に言われた事は、未だに半分ほど分からない、確かに悪役という言葉は笑えるくらいに納得出来る。
笠木が望まない事を、本人にするって宣言したようなものだ。悪役以外に例えようがない。
「笠木の欲しかった言葉じゃなくて悪いな、でも俺は自分の性分を変える気はないんでな」
「分かってて言うんだから性格悪いよね……」
呆れたように笠木は俺に文句を言ってくるが、もう関係ない。俺は俺のやり方で俺の目標を達成させる。
「それはお互い様だろ、正直なところ半分くらいしか笠木の言いたい事は分かってない。ただ俺に助けられるのが笠木の目標にとって都合が悪いという事は分かってるから安心してくれ」
「安心の使い方間違ってるよね、本当に強すぎて勝てる気がしないなぁ……」
笠木の家に来る前と変わらずに俺と笠木の関係は最悪だ。本当に相性が悪い、何で俺がこんな苦難の道を歩かなくちゃいけないんだとも思う。
それでも逃れられないなら利用してやる、逆転劇ってのはどんなジャンルでもドラマとして映える。
田中や藤木田、黒川に心配をかけるような顔じゃなくなった。今はそれだけでいい。
「ねぇ木立くん……私、久々に人と話した気がする」
「話し相手は笠木にとっての悪役だけどな」
「本当に、木立くんらしいね」
本当に嫌になる。ちょっとした光に一心不乱に手を伸ばして叩き落されて、死にたくなるような痛みを負っても、まだ手を伸ばすなんて自分でもバカだと思う。
でも、それくらい欲しい……欲しくて堪らない青春ラブコメを俺はもう一度。
いや……何度だって求めてやる。
最後まで見ていただきありがとうございます。




