冬萌における俺達の話
昨日はずびばぜんでぢた;w;
悪意無き悪役ってなんだよ、いまいちピンと来ないのは俺の頭の出来では無く笠木の言葉がふわふわと宙に浮いているような表現をしているからってのもある。
しかし、この短い笠木とのやり取りで分かった事がある。
笠木が俺を嫌っているのは間違いないが……言葉を選んでいる。
それは、嫌いな人間である俺に配慮をしているという事だ。完全に嫌われていたら取り付く島もないところだった。空気は未だ変わらないが改善の見込みがあるって分かっただけでも今は有り難い。
「すぐに読み取ってって言うのも酷だよね? だから一旦置いといて木立くんから私に聞きたい事あるかな?」
聞きたい事は山ほどあるが、俺が優先的に聞かなければいけない事がある。この質問に大きな意味は無く単純に俺のこれまでの高校生活の経路についてだ。
出来ればここだけは否定されたくない。
「笠木は……いつから俺が嫌いだった?」
「……最初からって言ったらどうする?」
その言葉で心臓が強く跳ねる感覚に襲われる、鼓動が早くなり血の気が引いていくのが分かった。
「どうもしないが、少なくとも自身の肯定は出来なくなるだろうな」
「意地悪だったね、最初からじゃないよ。意識し始めたのは夏祭りのアレかな?」
夏祭り……田中へ嘘の告白をしようとした事を指しているのだろう、確かにあの時、笠木の怒った顔を始めて見た。
「あの時に少しだけ木立くんには幻滅したかな、でも今思えば、勝手に期待した私が悪いのかも」
結構刺してくるな……勝手に期待というのは俺が全てを上手く解決する事に期待していたという事か、それとも笠木を体のいい言葉で、受け流しながら独断で行動してしまった事に対する皮肉だろう。
「結果的に二人とも解決策は見つからず、田中にしてみれば大した問題では無かったって終わり方だったけどな、続けて質問いいか?」
「うん、いいよ」
聞きたい事であり、聞きたくない事でもあるが、どうしても俺の中でモヤが掛かっている。
「文化祭の日……俺と二人で文化祭を回ったろ、あれはどんな気持ちで俺の誘いに了承したんだ?」
俺が分からないのはここなんだ、あの時の笠木からは微塵も俺への敵意は伝わらなかった。それどころか俺のフィルター越しながら笠木は心から笑ってくれているように見えていた。
「……そこがギリギリだったの、夏祭り以降積み重なってきた木立くんへの嫌悪感や劣等感はあるけど、木立くんは悪い人ではないって分かってるから友達として話してみたいなって……」
悪い人ではないと言っているのに、悪意無き悪役……か。少し見えてきたが、新たに笠木の口から零れた劣等感という単語。
笠木が俺のどこに劣等感を抱いてるんだよ、それは俺が笠木に抱く感情だろ。
「そりゃ不幸中の幸いだ、死ぬほど嫌いな状態なのに連れまわしてたら、自分のバカさ加減に泣いて帰るところだった」
笠木は俺に返答もせず、テーブルに置かれたカップに手を付ける、俺も表面上は落ち着いているように装っているが、笠木はどうなのだろうか?
俺が見る限り笠木は随分と落ち着いているように見える。
「木立くんがイイ人ではあるのは本当に分かってるの、綾香が木立くんに惹かれてるのはそういうところだと思う、でも……私にとっては辛い優しさなの」
表情から笠木の感情は読み取れない、今は笠木の言葉のみが唯一の判断要素だ。イイ人であるという言葉が辛いなら、藤木田の言っていた事の意味が分かる。
「あの時、助けてくれてありがとう……って言いたくないくらいって言っちゃったよね?」
「あぁ」
「そこだけは、その場の勢いで言っちゃったけど半分本当で、半分は嘘。だから謝らせて……ごめんね」
助けられた事には感謝しているが、笠木の中ではそれが苦痛だったのだろう。
「半分も嫌だったなら謝る必要はない、ただ俺は自分のした事のどの部分が笠木を傷つけたのか分からない、だから今は謝れない事に対して謝る、悪いな」
俺の言葉の後に笠木は、少しだけ閉ざした心を開くように口元を緩ませたように見えた。
「木立くんらしいよね、変なところで頑固で理屈屋っぽくて……木立くんは謝る必要なんて一切ないよ。逆にこれ以上謝られると逆に自分が情くなるかも……」
少しだけ分かってきた、笠木の事。
装飾だけを付けて自身を守る彼女の事。
そして俺が何をするべきか……。
「最後に聞きたい事がある」
「何かな?」
「仮定の話になるが、俺という存在が北高にいないとする、その場合笠木の青春は上手く回っていたか?」
「青春……?」
笠木は俺から視線を落とすように下に向けて少し考える。時計すら存在しない簡素な部屋は秒針の音すら聞こえず、お互いの息遣いさえも聞こえない。
ほんの数秒にも満たない時間が、やけに長く感じた。
「ううん、木立くんがいなかったら、多分だけど私……とっくに学校辞めてるかも。私、陰キャだから」
その答えが聞けて良かった。俺の存在が全否定されてはいない、俺の行動が笠木の全てを蝕んでいたわけじゃない。
だったら起死回生の一手は存在する。
「そうか、聞きたい事は聞けた。笠木は俺に聞きたい事や、言いたい事はないか?」
「それじゃあ、私も仮定の話していいかな?」
俺が仮定の話をしたように笠木も、あり得ない過去の話を広げる。
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