冬萌の第一戦
続きます!!! 文字数の関係で途中で切ってます!
駅構内から出て笠木は無言のまま俺を先導して歩く、さっき言っていたお互いに都合がいいって言葉が引っかかる。仕事で親がいないという事だろうか?
しかし、そんな家族情報まで詮索してもどうしようもない、行けば分かるさと楽観的な考えには至らないのも事実。
少々不安ながらも俺は笠木の後を追う。
こうやって笠木の後を歩いていると五月の頃を思い出す、あの時が五月の呪いの始まりだった。そして五月の呪いが解けて一休みをしている最中に、次々と問題が降りかかって俺に安らぎは存在しないらしい。
これは、もしかしたら……俺の青春の終わりなのかもしれない。そうさせない為に笠木の家に向かっているのだが、嫌な想像は俺の頭から抜けてはくれない。
「一つ忠告しておこうかな」
笠木は歩みを止めないまま、俺に向けて言葉を放ってくる。
「お互いにとって都合がいい場所ではあるけど、お互いに都合の悪い話になるかもしれない、限界だと思ったら帰っていいから……」
「だったら腹の中ぶち撒けた方が良い、一つルールを作ろう」
「ルール?」
これに関しちゃお互いの良心に委ねられるが、言わないよりは言った方が抑止力にはなるだろう。
「質問への答えに嘘を吐かない事だ」
「それ……私に嘘を吐き続けた貴方が言うのは、おかしいよ」
「まぁ、笠木が乗れないって言うなら、俺だけが自分に課すだけだ、ここまで関係が拗れてるんだ。嘘なんか吐く必要はねーよ」
出来れば乗って欲しいところだが、流石に俺から言うべき事では無かったのは笠木の言う通りだ。俺の言葉は説得力が欠如している。
こればかりは、今まで積み重ねてきた俺の愚行なので、文句のつけようがない。
「そうだね……ルールなんか無くたって、私はちゃんと話すつもりでいるから安心していいよ」
話し終えたタイミングで笠木の足が止まると、こじんまりとしたマンションの方へと再度、笠木は歩き出す。
俺も笠木の後へ続くと、笠木は階段を昇り二階の廊下を歩く。そこでとある部屋の目の前で立ち止まり、鍵を開けた。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔します」
普通は女子の家なんかに初めて行くならもっとこう……、青春ラブコメ的な心臓の動きが感じられると思っていたのだが、状況が悪いだけにそういった感情は俺に湧かなかった。
笠木の家……というか、居間と部屋が一つだけしか無く、家族で暮らすには少しだけ手狭に思える。
「笠木って一人暮らしか?」
「うん、高校から一人暮らししてるの」
中学時代に色々あって家族と仲が悪いとか――。
「家族と仲が悪いとかじゃないから気にしないで」
「……俺の考えが随分と分かるんだな」
笠木は、犬と猿がデフォルメされた、可愛らしいキャラクターが描かれたカップに飲み物を注ぎながら答える。
「ずっと見てきたから、貴方の事はそれなりに分かるよ」
ずっと見てきた……? 笠木が俺を?
「それじゃ始めよっか?」
笠木がテーブルにカップを置くと同時に、笠木は俺の目の前に座る。
今日ようやく、笠木の顔を俺はまともに見る事となった、そして八方美人では無い笠木と俺は、二回目の対面を果たした。
「それじゃ俺から質問がある、俺の何が気に入らない?」
「いきなり聞くところ木立く……貴方らしいよね」
やっぱりか、貴方って響きのイントネーションが妙に強く無理してる感じがあった、距離を無理やり取ろうとしたようにも思える。
「言い直すくらいなら素直に苗字で呼べばいいだろ、それで理由を教えてくれ」
「そのまんまだよ、私を助けた事」
雲を掴むのと一緒で明確さが足りない、そこが分からないんだ。
助けられた普通は嬉しいはずだ。
「まだ分からないみたいだけど次、私からいいかな?」
「あ、あぁ……」
俺が笠木に聞きたい事は幾つもあるが、笠木から俺に聞きたい事の予測が出来ない。
「木立くんから見て私は、どう見えてたかな?」
俺の視点なんて何か関係あるのか? どうと言われても範囲が広すぎて何から言っていいのか逆に迷う。
「どうって……良くも悪くも八方美人で、誰からも必要とされるくらいに出来た人間、だけど脆い。そう思った」
「木立くんから見て、頼りないって意味かな?」
確かに言葉の見方を変えたら、その捉え方も可能だ。
だが、俺が言っているのは頼りないではなく、危なっかしいという意味合いだ。
「訂正する、脆いと言うよりは危うく見える、自分の事を大事にしていないように見える」
笠木は俺の答えに少しだけ目を見開くが、悟らせないようにしているのか、直ぐに下唇を噛み俺を真っすぐ見据える。
「それはそうかもね……」
「自覚があるなら、もう少し自分勝手に生きたらどうだ? 今までの笠木の功績は些細な事じゃ揺るがないだろ」
「それは木立くんの判断ミスだね、もう揺らいでるんだよ」
俺には笠木が何を言ってるか分からない、さっきから言葉が浮いて聞こえて要領を得ない。考えが纏まらない俺を察してか、笠木は追撃とも取れる言葉を伝えてくるのだった。
「木立くんの一番悪い部分の話なんだけど、木立くんって自分の価値を見誤ってるよ。木立くんは自分の事が分かってない、藤木田くんや黒川くんにも、似たような事言われない?」
その言葉で、以前に藤木田から言われた言葉を思い出す。それは藤木田が俺を持ち上げすぎているだけだと思っていた。
恐らく笠木はその事を言っている。
「似たような事ならある……」
「木立くんはさ、自分より頭の良い人が頭の良さを謙遜してるのを見てどう思う? 謙虚は美徳って都合のいい言葉もあるけど……度が過ぎる謙虚って嫌味だと思わない?」
笠木の言いたい事は理解出来たが納得はしていない、俺は笠木や藤木田が考えてるほど自分自身に価値があるなんて、思ってない。
「納得してないって顔に出てるよ、だから私にとって木立くんは悪意無き、悪役になるんだよ」
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