冬萌へ捧ぐ
今日の更新になりましゅ!!
陽は俺達を燦燦と照らしているのだが、少し肌寒いどころか結構寒い季節特有の気温の中、風は穏やかで俺の長い前髪が揺れる事も無い、近所の公園には、この時間は主婦が多いらしい。
制服のままこんなところにいる俺達に視線が向かうのも無理はないが、場所を移動した方が俺はいいと思う。
そんな俺の考えと相反する藤木田と黒川は俺から話を聞くまでここを動く気はないようで捕らわれたエイリアンのように俺は巨人二人に挟まれる状況となっている。
恐らく藤木田と黒川も察しは付いているのだろうが、俺の口から言わなくてはいけない事なのだろう。しかしこういう青春臭い話題を自分から発信するのは少々気恥ずかしい。
俺だけなのか、それとも青春の渦中にいる全人類が俺と同様な気持ちを抱くのか定かでは無いが、学校までサボらせてしまっているのだ。逃げる事が出来ずに背中を刺されるくらいなら真っ向から刺されよう。
「それで木立氏の事でしょうから笠木女史の事なのでしょうが……今回はいつになく様子がおかしいので某も心配していたのですが、話す気はございますかな?」
「藤木田……話すまで今日は帰らせるわけにはいかないの間違いだ」
藤木田はともかく黒川が言うと別の意味に聞こえてしまうのは最近の言動のせいであろう、そして俺の勘違いであってほしい、というかコイツ、さっき爆弾発言してたよな?
そこは置いておくとして、なんと説明したらいいか……。
「もしかして笠木女史が木立氏に敵意を抱いている事と関係ありますかな?」
「関係有る無しじゃなくて……それが問題の中心だ、むしろ何で言わなかったんだよ!?」
本当に知ってたのかよ、というか俺だけがもしかして気付いていなかったのか? だとしたらピエロじゃねーか。
「いえ……某も確証があったわけでも無いですし、木立氏が笠木女史の事で一喜一憂している姿を見ていると流石に言う気にはなれませんでしたぞ」
別の意味で俺を気遣って言わなかったという事か、言いづらい雰囲気を出していた俺が悪いのだろう、でも言ってほしかった。今回に限っては言ってくれていたら俺の精神も幾分かマシだったと思う。
しかし藤木田を責めるのはお門違いもいいところだ。
「……藤木田の言う通りかは知らんが、後夜祭の時に好意を伝える間もなく笠木から明確な拒絶をされた、今後は関わる事も控えろって言われてな、どうしたらいいか分からなかった、笠木と同じ空間に存在する事すら辛くなったから逃げたんだよ」
たった数秒の言葉で伝えられる内容、俺はそんな事で悩んでいる。俺にとっての目標だったから……青春の目標を失った俺には耐えがたい苦痛なのだ。
「なんとなく予想は付いておりましたが……木立氏の口から聞くと想像が現実になりましたな……」
「ちなみに、藤木田が気付いたのはいつからだ?」
「某が怪しんだのが、夏休み明けですな、某が日課の木立氏ウォッチングをしていたのですが――」
「おい、ちょっと待て。それは俺の専売特許だ。そして何か気持ち悪いのだが……」
藤木田は何がおかしいのか分かっていないようで、恰もその行為が普通であるかのようにキョトンとした表情を浮かべていた。
いやいや、普通におかしいからね、意中の異性を盗み見る俺が正常なんだからね? まぁこの際、そこはどうでもいい、話を進めるのが優先だ。
「友人の状態を確認するのも友人としての務めですぞ……それで木立氏ウォッチングをすると必然的に笠木女史も某の視界には入るわけですな、その表情が非常に悔しそうな事と木立氏への発言をする際の温度が以前と異なっていたのですぞ」
悔しそう……確かに夏休み明けと言えば、俺が自己破滅型主人公として失敗して笠木に物凄い剣幕で詰め寄られた時だ。
それもあるから、そこは仕方ないし俺の立場ではおかしいとは思えんが、悔しそうとは一体どういう事だ?
「他におかしな点はあったか?」
「次に明らかにおかしいと感じたのは体育祭本番の時ですな、某と黒川氏が笠木女史を保健室へ連れて行った時で木立氏は全く知らないと思います、その時も普段と違い保健室で俯きながら小声で何かを呟いていましたな」
体育祭本番……俺が田中に真実を告げて笠木と俺と田中が三竦みになった時だな、独り言くらい何もおかしな事ではなく俺への敵意というのが分からない。
「最後に某がおかしいと感じたのは……文化祭の準備期間でございますぞ、理由はもちろん分かりませんが、木立氏をよく目で追っておりましたな。その木立氏を睨みつけるような目は敵意以外の何物でもないですな」
その一言で文化祭の時の藤木田の発言を思い出す。だからあの時、藤木田は笠木より田中の方が俺には合っていると言っていたのか、笠木の俺に対する敵意を確信していたからこそ、俺が傷付かないように……そして黒川も藤木田と話をしたのか定かでは無いが、同意見であったのだろう。
「自分で言うのも何だが……笠木が俺如きに敵意を抱く心情が読み取れない」
言葉通り、俺は笠木が俺に敵意を抱く理由が分からないのだ、普通は助けられたら嬉しいはずだ。少なくとも俺はそうだ。
今だって藤木田と黒川には感謝しかない、どういう事だ?
「木立……木立はアニメやラノベが好きだろ?」
いきなりどうした? 黒川は俺の予想だにしない方向から切り口を入れてくる。
しかし何かしら意味がある事なのだろう。今はツッコんでいる余裕も正直無いのだ、頭の中がパンクしそうだ。
「あぁ」
「しかし、木立と似たような人間、ほぼ同スペックが木立よりアニメやラノベの関して詳しくかったらどう思う? 付け加えるなら人望もある」
本当に何を言ってるか分からん、これ本当に関係があるのかすら怪しくなってきたぞ。
「俺と同スペックで人気者とかあり得ないと思うが……マウントを取られた感じにはなるな」
「俺が言えるのはここまでだ」
は? いやそこは最後まで言ってくれよ、お前の発言で余計に頭が混線状態になっちゃったじゃないか。
藤木田に助けを求めるが、藤木田は黒川の言葉の意味が分かったらしく黒川と目配せをしていた。
「黒川氏の言いたい事は分かりましたぞ、これは木立氏の性格と言いますか……性分の問題ですから木立氏が自身の行動を考える必要があると某は思いますぞ」
ダメだ……二人の言ってる事が俺には本当に分からない、だが二人には明確に原因が分かっている。だとしたら考えれば間違いなく答えには辿り着ける。
ただ一つだけ教えてほしい事がある。
「一つだけ……これは俺が悪い話なのか?」
藤木田は悔しそうな顔で俺へ言葉を放つ、藤木田というフラットな目線で最適解を出せるような人間の言葉は真実だ、少なくとも偏見に塗れた俺よりも……。
「木立氏は悪くありません、しかし悪いとも言えます、それはもちろん笠木女史も同様ですな」
聞けば聞くほど脳内が疑問符で埋め尽くされる、部分的にという意味で俺が悪いという意味だろうか?
「木立氏……某達が答えを言わないのは木立氏に必要な事だと考えているからですぞ、気を悪くしないでもらえると幸いですぞ」
分かってる、全部教えてもらおうとした俺が強欲で怠惰なのだ。むしろお前らには感謝しかない。口に出せやしないが、ふと言いたくなる時がある。
俺みたいな奴の隣にいてくれてありがとう。これからも一つよろしく頼む、親友。
「あぁ、お前らが俺に必要な事だって言うのなら間違いなんかない。口では何と言おうが、そのだな……信頼してる……んだよ、それなりに、な」
俺の言葉の直後、黒川は俺の肩に手を回してくる、いきなりだったから身体がビクッとなっただろ、一声掛けて欲しい、陰キャはビックリするとキョドってしまったりするんだぞ、扱いには気を付けてもらいたい。
「な、なんだいきなり!」
止めてくれ、俺にはその気は無いんだ。最近のお前らのスキンシップは別の意味で恐怖であり俺の悩み事の一つなんだよ、マジ怖い。
「ふっ……木立にしてはデレたな、そうだろ正敏?」
黒川同様に藤木田も俺の肩に手を回してくる、黒川は力強く、その反面で藤木田はそっと俺の肩に手を回して両極端に思えるが、ここは性格の問題だろう。
「そうですな、木立氏がデレるなんてレアですぞ、木立氏ウォッチングを生業とする某でも滅多に拝めませんからな!」
俺をウォッチングするとか止めろ……恐怖以外の感情を俺に抱かせる気はないのか? だが、肩を組まれて悪い気は不思議としないのは何故だろうか、いや理由を考える方が野暮だ。
「それにしてもお前らいきなり肩を組むな、ビックリするだろ。陰キャの風上にも置けんぞ」
「友情の証みたいなものです、某……実はこういった事に憧れておりましてな!」
「たまには悪くないだろ……友情という世間に酷使され続けた言葉も美しい」
友情の証……じゃあ、高橋は俺に友情を感じていたのか。アイツよく肩を組んでくるしな。今度から少し優しく接してやろう。
秋は流れるように姿を隠し、初雪は訪れず冬は過ぎ去るどころか到来すらしていない、しかし……俺の中の新芽が顔を出しかけている、そんな気がするのは早計なのだろうか?
最後まで見ていただきありがとうございます!




