秋愁とは無縁の絶対的女王
今日の更新です!!
そう、俺は朝から人通りの少ない階段、シクベに繋がるロードにて正座をしている。最近こうやって正座で怒られる事が多い気がする。
なんだろう、謝罪系陰キャとしてこれからの方向を定めて行こうか。
「また碌でも無い考えに至っているようですな……」
脳内を覗かれたかと思い、一瞬反射的にビクついてしまう。俺は俯いていた顔を上げて恐る恐る藤木田の顔を見ると眼鏡の奥は見えないが眉間に寄ったシワから藤木田の喜怒哀楽がよくわかる。
「い、いや……連絡無しに文化祭を楽しんでいた。と言うか歩き回っていたのはだな、事情があってだな」
俺の弁明も虚しく意味が無く、何一つ理由についての言及をしていない。
「木立……失望したぞ、お前が仲間を見捨て一人バカンスの如く楽しんでいたなんてな、おかげで俺と藤木田は砂漠に放置された戦士のようにカラカラになるところだ」
いや、そこは素直に待ってないで飲み物買いに行けよ、というかお前は人の金で飲み物を購入させようとしてたのに随分と上からだな、おい。
しかし、この詰められている状況で俺が反抗しても無意味なのは分かりきっている。
「大変申し訳なくなっております……」
「まぁ喜劇はこのくらいにして今日は木立氏とは別行動になりますな、某としては寂しさが拭えませぬぞ」
いや、友人をこんな固い階段で正座させておいて喜劇? 俺の扱いって最近軽くない?
「そうだな……結局クラウドさんも忙しく顔を出せないと嘆いていたから今日は俺と藤木田、木立とケバいのって事だ」
「俺は多少の短い時間だからその内合流するぞ」
「ん? 木立は昨日のように俺と正敏に寂しさを抱かせながら放置して一人で文化祭を回ったらどうだ? 正敏どう思う?」
「まぁまぁそう言わずに……実はですな木立氏の目撃情報が某には届いておりましてな……」
黒川も藤木田に劣らず友情重視しすぎだろ……根に持つ奴だな、俺もだけど。
そして呼び方戻さないのかよ、文化祭期間だけである事を願う。それと、俺の目撃情報って何だよ。俺は陰キャじゃなく珍獣のような扱いなのか? だから先ほど人権を無視したように正座させられていた訳だな。
「木立氏の目撃情報が三年二組のタピオカドリンクにてございますな」
それガチなヤツじゃねーか、どうやって誤魔化すか……。
「しかも特定の女子生徒に付き纏って挙句はドリンクまで奪い取ったと報告が……」
あぁ、それはガセだ、何か俺の嫌な方向に誇張されてるヤツだわー。マジでどんな認識したら、そんな風に見えるんだよ、人の目ってのは本当に信用ならないな。
「い、いや、流石にそれは無いって分かるだろ?」
藤木田と黒川を交互に見るが、まるで下衆を見下すような目つきで俺を見ていた、どうやら俺の信用は足りていないらしい。
「木立はソロだと何をしでかすか分からんところがある」
「同感ですぞ、昔から何を言い出すかと思う事がありましたぞ」
その言葉の後、藤木田は声を抑えきれずに笑いだしていた。何を思い出したんだよ。藤木田のツボはたまに分からない時があるが聞いても大体は答えずに一人で完結する。
それにしても田中にも言われたな、何をするか分からない。どれだけ危ない人間と思われているのだろう。
「まぁ、さっきの報告は流石に何らかの誇張が入っておりますから信じておりませんが何かしたのでしょうな!」
「そうだな、火のない所に煙は立たぬ。と言うしな」
何かした? と言われたら確かにしているが、釈然としない。しかし時間が悪い。俺は正座をして固まった膝に喝を入れ立ち上がる。
「そんじゃ俺は行くぞ、また後でな」
俺は返答も聞かずに階段を降りる、今日は昨日と比べて人が多い。有志によるライブイベントや何よりミス北高と言うイベントで笠木目当てに他校からの来訪者も多いのだろう。
そんな中、俺達の教室の前では受付と何やら会話をしているギャル風味の女生徒がモデルのようなスタイルで一際輝きを放っていた。
「悪いとは思ってない、何故なら俺は時間通りに到着どころか五分前に到着したからだ」
俺の言葉に受付の女子生徒はもちろん、田中は呆れた顔をしながらゲンナリとしたように頭に手を当てる。
「アンタねぇ……もっと普通に声掛けられないん? それともアタシに怒られたいの!?」
「い、いや、そういうわけでは……なんというか俺らしさをだな――」
「誰も得しない特別感なんていらないでしょ……まぁ慣れたけど!」
少しカッコイイ登場をしたつもりだが、お気に召さなかったらしい、しかし想定内と言える。それにしても昨日の笠木との緊張感が嘘のようにない、それだけ田中も俺も本心で向き合えているのだろうと思う。
「そんじゃ頑張ってね!」
田中は受付の女子生徒に手を振り言わなくても俺が後を付いてくるかのように歩き出す。俺もなんとなく女生徒に頭を下げる。
「エスコートしなね、木立君!」
田中がその一言に反応して、『もう! いいの、そういうの!』と抽象的に否定を言い放ち強い足取りで進んでいく。というかアイツ誰だよ、俺は知らないぞ。 最近は何かと認知されている。前髪の長い奴とかヤベー奴とか田中のオキニだとか、タピオカの件と言い俺の知らないところで俺が浸透しつつある。
先に進んでいく田中の横に並ぶように足を早める。
「それで何処行くんだよ?」
「ん~とりま、チョコバナナ食べたい、アンタはどっか回りたい場所無いの?」
「チョコバナナでいい、強いて言えばシクベでゆっくりと寝ていたいな」
「アンタ、文化祭の準備で少しはまともになったかと思えば相変わらずと言うかなんて言うかアンタらしいわ」
人間の根など世界が反転しても変わる事なんてない、根に装飾をする形で成長するのが人間だと俺は思っている。その装飾をこれまで大して拾えなかった俺がそう簡単に根を隠すことは不可能だ。
しかし田中の表情を横から見ると、口調とは裏腹に何やら喜んでいるように見えるのは俺の気のせいだろうか?
「それでお化け屋敷の人入りはどうなんだ?」
「ん~平均とかあるわけじゃないけど……みんな無理しない程度に動けてるから上々じゃない?」
別に現金が入るわけじゃないし、そもそもお化け屋敷に関しては入場料を取ってないので売り上げすら無いが、自分が携わったコンテンツの評価は田中からすると悪くないとの事、両手を上げたり内心で叫びながら喜ぶ事は無いが嬉しくないわけではない。
「あっ! チョコバナナみっけ!」
おいおい、チョコバナナ見つけてそんなに喜ぶとか田中のような綺麗系の女子がやるなよ、これがギャップ萌えというヤツなのだろうか? 今まではギャップ萌えとか意味が分からないと思っていたが、これは有りだな、うん。
「何ボーッとしてんの?」
「え? あぁ、何でもない」
俺と田中はチョコバナナの販売を行っている一年五組の教室へ入ると出迎えたのは意外な人物であった。
「いらっしゃいま……あっ……」
ペラペラのメイド服で出迎えてくる三谷、と取り巻き。
「アンタ挨拶くらいちゃんとしたら?」
そりゃ昨日の今日だからな、三谷が固まるのも無理はない、そして事情を知らない田中が挨拶に苦言を呈するのも当然の行為だ。
「お前、言わないつったじゃん! 卑怯じゃん!?」
三谷は田中の背後に亡霊のように張り付いている俺に向かって文句を言ってくる、俺や田中以外にも客がいるのに考慮するべきだと俺は言いたい。
客らからしたら何事か? となるのは至極当然である。その三谷の言葉に田中は三谷では無く俺の方に振り返り訪ねてくるのも想定内だ。
「アンタ……もしかして何かあったの?」
「い、いや、もう解決したんだけど……な、その有る無しで言えば有ったと言うか……」
俺が田中に事情を誤魔化しつつ説明しようとすると、三谷は自ら田中相手にボロを出していく。
「解決したんなら田中、連れてくる必要ないでしょ!? ホント陰キャって最低!」
「マジありえねー、マジ前髪なげーし」
昨日から俺の前髪に何の恨みがあるんだよ、人と目を合わせたくない男のマストだぞ、謝れよ俺の前髪に。
「何があったか知んないけど、とりあえず席に案内してくんない? アタシらチョコバナナ食べに来ただけなんだけど」
「と言うわけだ、早とちりしてボロを出したお前らが悪い、それと俺の前髪への謝罪を要求する」
「いや、アンタの前髪は長いから、ホント切りなよ……」
俺側にいる田中ですら俺の前髪はお気に召さないらしい、切りたくないんだけどなぁ……
「え? あ……二名様ご案内致します……」
こんな元気の無いメイドが世の中には存在するのか、まぁ田中への事情説明はどっちにしろ免れないだろう。席に案内されるや否や、田中は即座に注文内容を決めて俺も同じ物を注文する。
「そんで、何があったかくらいは聞いてもいいっしょ?」
何があったかと言われると俺も事情自体は知らないのだ、笠木が何かを理由に詰め寄られていたという事実のみしか知らない。
「俺も理由自体は知らんが、笠木がアイツらに自販機前で詰め寄られててな、それを助けようとしたら前髪を切れって言われたんだよ、それだけだ」
「いやいや、前髪気にしすぎじゃない!? まぁ切った方がいいのは三谷達に同意するけど……アンタやっぱり一人だと何するか分かんないの当たってんじゃん」
確かにぐうの音も出ない、しかし俺としては笠木を助けたのだから、そう間違った事はしていないと思う。それにしても笠木が詰め寄られる理由、相手は三谷とするなら嫉妬だろう、宿泊研修のように。
「おまたせしました……イチゴソーストッピングのチョコバナナになります」
最初からある程度仕上がった物を使っているのか、更に乗せられカットされたチョコバナナが俺と田中の前に置かれる。
チョコバナナって棒にぶっ刺したイメージがあったのだが新鮮だ、そんなところに撒く必要があるという部分にチョコソースとイチゴソ-スが付着しているのも高そうに見える。
「めっちゃイイじゃん、これセンスあんね」
田中の言葉に三谷は深々とお辞儀をしてる様子が上下関係を表している。田中があまり怒ってないように見えるのは気のせいだろうか?
「とりまアンタ座りなよ、雪に詰めてた理由とか聞くから」
あっ……表情に出してないだけで、やはり怒ってるみたいだ。笠木の事だと田中が怒るのも無理はない。
「ひっ……は、はい!」
三谷の取り巻きに関しては、知らぬ存ぜぬを貫こうとしているのか、敢えて俺達の方を見ないように作業に勤しんでいる姿が見受けられる。コイツら本当に友達なのだろうか?
「とりま雪に詰め寄った理由って何?」
「い、いや、ミス北高の事で……」
まぁ想像してた通り、宿泊研修同様の嫉妬だ。三谷としては笠木が出場すると出来レースになるのが面白くなかったんだろう。
「まぁアンタの気持ちも分からなくはないけどさ、他と比べたらアンタも美人だし、そんな事する必要無いと思うんだけどね」
「え……?」
おっ? 田中はやっぱり怒ってないのか? 田中の心情が読み取れない。怒ると言うよりも諭すような感じにも思えてくる。表情もどちらかと言えばチョコバナナでご満悦のように目を輝かせているし……とりあえず話を聞こう、そしてこの皿に付着したソースも俺はどうにかして食べる、いや舐めるべきなのだろうか?
「ねぇ、三谷って美人に見えるっしょ?」
「え? 俺に聞くのかよ……それ陰キャにとってのイジメに該当するんだが」
「いいから答えて」
かなり答えづらいし何か嫌な予感がするが、答えなくちゃいけないのだろう。そうしなければこの地獄は終わらない。俺は三谷の顔からスタイルまで上から下へ確認する。
三谷は、少なくとも黙っていれば田中の言う通り美人だ、常識の範疇の話になるが。そもそも笠木は別格なのだ、今日の人の多さで誰もが分かっている事だが、ミス北高に出場する笠木を見に来ているのだ。
そんな学外からも口コミで人を呼べる笠木を一般の括りにしてはいけない、正直な話で笠木はある意味客寄せパンダなのだ。本当にミス北高を選出したいならば笠木を抜いたメンツでやるべきだと俺も思っていた。
「美人だとは思う」
こう言い切らないところが俺が陰キャである由縁だ。なにやら恥ずかしさが俺の発言を邪魔するが一応は伝えたからここらで勘弁してもらいたい。
「そ、そう……」
三谷くらいの美人なら言い慣れていると思ったが反応を見るとそうでもないらしい、恐らくクラスでも笠木と比較されて苦汁を味わっていたのだと思う、それが笠木を攻撃する理由にはならないが、負け続ける辛さには同情する。
「木立は捻くれてて取り繕わないしデリカシーないし常識もないけど、言いたい事は好き勝手言うタイプだから男子から見てアンタ美人なんだから自信持ちな」
心外だ。ディスられるのには慣れているが、そこまでボロクソに言わなくてもいいじゃないか。それに俺は常識を知っているからこそ常識外れな事を言ったり、空気を敢えて読まないだけだ。
「それに……大勢からの一番とか二番とかいいからさ、結局好きな人の一番になればいいっしょ?」
「田中……なんかごめんね……後で笠木にも謝らなきゃ……」
「言いづらかったらアタシから雪に伝えておくし、正直もう解決してるのに首突っ込んでるだけだしね」
これは勝てないな、どんな言葉よりも真っすぐで曲げらない力強さは俺や笠木には無くて田中だけが持っている武器なのだ。柔軟さなんて度外視でひたすらに自身の考えを研磨し信じる力は強さ以外の何物でも無い。
この空気の中、聞くのは気が引けるが俺には聞かなくちゃいけない事がある。
「なぁ、聞きたい事があるんだ」
俺の言葉に三谷と田中の両方が反応をする。そうやって美人二人から注目されると緊張するのだが……。常識として聞いておくべきだな。
「この皿の外側に付着してるソースはどうやって食べるんだ? フォークしかなくて掬いづらい」
俺の問いに答えは無い、いや無くていい。分かってしまった。
二人の視線が窓の冊子にへばり付く害虫を見るような目をしている。
「さっきは流石に落としすぎかと思ったけどアンタ常識……」
「空気も読めてないっぽい……」
どうやら俺は常識を持ち合わせていないだけじゃなく空気も読めていなかったらしい。
「そんじゃご馳走様、アタシら行くから」
「うん、田中って思ってたより話しやすいしイメージ変わった、ありがと!」
さて、これで完全に三谷が笠木に突っかかる事が無くなっただろう。俺の功績と言うよりは田中の功績だな、最初から俺の出る幕は無かったという事で田中の陰に隠れるように退散しようじゃないか。
「ね、ねぇさっきのホント?」
「何がだよ?」
いきなり話しかけないでほしい、俺みたいな陰キャは人見知りなんだ。急に話しかけられると驚いてしまうし何かしてしまったのかと自身の粗相を疑ってしまう。
「あの美人って……」
そこまで俺の言葉は信用無いのか……まぁ陽キャ的に言えば絡みが少ないから仕方のない事だろうけども、ここで嘘を吐いたって仕方ないしどうでもいいだろう。
「あぁ、三谷は美人だ。自信を持て」
「そ、そう……うん、あの、その下の名前なんての?」
「純一だが?」
「そか……純一ね、うん」
下の名前でいきなり呼ぶとか距離詰めすぎじゃないですかね? 何? 陽キャってそんな独自ルールあるのかよ、それとも最近は陰陽問わずに下の名前で呼ぶの流行ってるのかよ。
それだとアイツらの事も引かずに見れそうだ。何やらモジモジしてる三谷に手を上げ合図して前方を歩く田中へと追い付く。
「アンタ、三谷と何話してたん?」
「ん? よく分からんが下の名前聞かれて呼ばれたりした、流行ってるのか?」
俺の言葉で田中は動いていた足を止めて俺の頭をペシンといつもより強く叩いてくる。恐る恐る田中の顔を確認すると何やら、難しい顔をして少しだけ機嫌が悪そうに見えた。
これは、良い悪い関係なく触れない方がいいのだろうと俺は言及せずに田中と文化祭を回るのであった。
最後まで見ていただきありがとうごじゃじゃじゃいます!




