青春はスマートフォンとともに。
四月の頃、新しい生活に期待を膨らませ、リア充や陽キャのような青春を謳歌したいと考えていた時期が俺にもあった。
藤木田ほどではないが、俺も恵まれた中学校生活を送れたかというとそうでもない、イジメられた訳でもなく知り合いと呼べる存在も少数ではあるが存在していた。
だけど……ただひたすらに面白くなかった。
隣の芝生は青く見える。とは誰しもが経験する事であり俺にとっての隣の芝生は陽キャであった。
中学生ながら学生服を第二ボタンまでゴッソリ開け、指定の白いTシャツではなく、まるで戦隊物のようなカラフルなTシャツを着こんだ彼らを俺は陽キャレンジャーと呼んでいた。
貶すような言葉に見えるが結局は嫉妬である。
俺は彼らが度々行うDQN行為に憧れたわけではなく、戦隊物のブルーに憧れたわけでもない。
ただひたすらに、笑って異性と過ごしたり仲間と絆を主張する彼らの人生は面白そうに見えた。
しかし俺だけの現実は先ほどまで青春ジェットコースターに揺られながら最終的に安全バーが動作せず空中へ放り出されただけであった。
「そんな感じで藤木田、俺をグループチャットに招待してくれ」
久しぶりに藤木田とお昼を共にしながら、先ほどの笠木とのやり取りを伝える。
藤木田は行儀よく食べ物を飲み込んでから喋りだす。
「わかりましたぞ。しかしですな、注意事項がございます」
藤木田の顔が神妙な顔つきになる、最近分かってきたがコイツが真面目な顔をする時は、それなりに重要なアドバイスをする時である。
「注意事項? あれか、グループチャットにアニメのスタンプを送っちゃいけないとか、深夜アニメのレビューを飛ばしちゃいけないとかだろ? 分かってる、俺を見くびるなよ」
藤木田は机に肘を吐いて深くため息を吐くとズレてもいない眼鏡を直すしぐさを行っている、心なしか眼鏡にアホみたいに光が反射している、ひげでも生やしたら司令官っぽいな。と考えていると。
「そんなのは常識と言いたいところでございますが、木立氏のチャットアプリのアイコンを見てくださいませ」
チャットをする相手なんて藤木田くらいしかいないのに、本人の前でアプリを開くなんて面倒だと思っていたが俺は気づいてしまった。
「……そういう事か」
「気付きましたか?」
そう、俺のアイコンは大好きなアニメのヒロイン達の画像を丁寧にフォトショで背景と切り離しトリミングして一枚の画像に収めた、二次元贅沢詰め合わせセットになっていた。
「これを変えなくてはならないんだな?」
「強メンタルで二次元と添い遂げる覚悟がある者ならばそのまま突き進んでもらいたいと思うところでございますが、木立氏は狂メンタルでしかございませんので、変えた方がよろしいかと思いますぞ」
「狂メンタル……これ陽キャにイジられるか?」
恐る恐る俺は質問を投げかける、藤木田はコクリと頷き、続けて返答をする。
「イジられる可能性はございますが、仮にイジられなくても『あっ……(察し)』となりますぞ」
グループチャットってのは難しい……ここまで自身を殺す行為をするくらいハードルが高い物なのか、ボーリングとかグループチャットとか興味がないから断った方が良かったかなと考えていると。
「ここは素直に変えた方がよろしいかと、某は陽キャ辞典ですぞ、信じてくだされ!」
藤木田の強い口調に気圧されたわけではなく、何か青春臭さを感じて勢いで返答をしてしまう。
「わかった、俺はお前を信じているぜ! 他にはどこに気を付けたらいい?」
「プロフィールのステータスメッセージですな」
「つぶやきみたいな部分か、なんか書いてあったか?」
俺はスマホに視線を移し確認する。
「某としかチャットしていないであろう木立氏がなぜ、そこまでプロフィール画像やらメッセージを設定しているのかわかりかねますが……」
《二次元に帰りたい……》
「この一言は某から見ても相当気持ち悪いですぞ」
うん、自分でも改めて見ると気持ち悪い事この上無い、これ二次元詰め合わせセットよりマズイだろ、藤木田が言う狂メンタルという意味が納得できてしまう。
「よし、消したぞ、他にはないか?」
藤木田の陽キャのグループチャットレクチャーは終わらない。
「まだ、ありますぞ」
これ以上どこを見直せと言うんだ……。
「残りの設定上見直すところは一つでございますぞ、背景画像を見直していきましょう」
「あれ? さっきアイコンの画像なら一旦黒画像に設定したぞ、別の部分に画像なんてあったか?」
「チャットで自身のつぶやきやアイコンの部分をタップしてみてくださいませ」
藤木田の言う通り俺は不慣れな手つきでスマホを操作する、正直ややこしいという印象しかないが、これも青春の一歩に必要な事だと考え俺は真面目に取り組んでいた、そうして俺は藤木田が言う問題点を発見する。
「あー……そういえば設定してたな」
確か高校入学前にスマホを買ってもらって、直ぐにチャットを入れた記憶がある。あの頃は、青春を信じて輝かせていたからなぁとしみじみ思い出す。
その時に目につくところを片っ端から設定していったのを覚えている。
「某も設定しておりましたが、今は黒い背景のみでいいかと思いますぞ。なるべく興味を引くような画像を設定したほうがいいですが、クラスの方々の趣向が分からない状況では無難なのにしておいた方がいいでしょう」
「俺だったら、アニメの画像とか漫画の画像とかを見たら惹かれるがダメなんだよな……陽キャが好きな物なんてラスタカラーや、頭の悪そうなデカイ人形の付いたスマホケースくらいしか思いつかん」
藤木田は俺の発言で引いたような表情をしているが、そこまで外れた事は言ってない気がする。
「いいですか? 木立氏、我々の趣向こそマイナーでございます。陽キャにとってのアニメは黄色いネズミが主役の作品や池に落とされたネズミの作品であります」
「何? あいつらネズミ好きなの? だったら適当なネズミの画像でもラスタカラーに塗りつぶしてやろうか? 家に帰れば五分で終わるぞ」
意気揚々と答える俺に対して藤木田は引きつった顔を浮かべている。何やらそろそろ怒り出しそうだし茶化すのはここまでにしておこう。
「また先ほどアイコンをただの黒い画像にしたとございましたが、本来はそれも適切なアイコンに変えた方が良いのです」
何で背景は良くてアイコンはダメなのだろうか? と俺が聞こうとする前に藤木田は手を前に出しストップの合図をする。
「言いたいことは言わずともわかりますぞ! 次はアイコンの話でございますぞ、なぜ黒いアイコンがダメなのか? それはアイコンが何もしなくても表示される画像だからですぞ」
「何もしなくても? あぁ、背景はその人のプロフィールとかに移動しなきゃ表示がされないけどアイコンはアプリを開いたら人によってはスクロールしなくても出てくるもんな」
藤木田はやはり頭が良いのだろう、バカな俺も納得できる解を説明付きで教授してくれている。
もう担任の佐々木より藤木田に教鞭を奮ってほしい、そして円卓の騎士どもからあの教卓を奪い返してほしい。
「加えて説明をさせていただけるのならば、アイコンはネット上の木立氏のプロフィールとなります。第一印象と言っても過言ではありませぬ、その第一印象が真っ黒な画像であったならば木立氏はどう思われますかな?」
「なんとも思わないな、名前で誰かを判断する」
藤木田はパチンと少々音の弱い、慣れていないクラップを鳴らす。クラップで良い音出せないヤツ大体、陰キャ。
「そうですぞ! なんとも思われないと言う事は印象が薄いと同義でございますぞ、その為に背景画像は置いておいてもアイコンの画像だけは設定した方が良いのです」
実に理に適っている、もう藤木田は著書を販売してECサイトの書籍ランキングの一位狙ったらどうだろうか? そこら辺の自己啓発本よりよっぽど役に立つだろ。
「まぁそうだな、これで終わりか?」
「設定上ではそうでございますな!」
これでようやく藤木田先生の講義が終わる、途中で怠いと思ったり面倒だなと思ったりもしたが、これで終わるとは案外呆気ない。
「最後はグループに入ったら後は当り障りのない挨拶だけしていただければ一旦難は逃れるかと思いますぞ!」
「ちなみに藤木田は何て挨拶したんだ?」
「……我はメシア、明日この世界を粛清する」
「正気か? あのイカれたネタ送りやがったのかよ」
俺が席を立ち上がりそう言うと、藤木田は声を出し「冗談ですぞ」と笑みを浮かべる。
「なんだ……自分の失敗談から俺に教授してくれてたのかと思った、いや安心したよ」
「冗談はさておきグループチャットが賑わう放課後に招待致しますので、考えておいてくだされ!」
放課後がタイムリミットか……さてどうするか?
ここまで頑張ったんだ、当り障りがない挨拶ではなくインパクトを与えて俺の青春の糧にしておきたいところではある。




