秋愁ではなく青春へ。
今日の更新となります!!
高橋、田辺、その他の有象無象共の手助けを終えて、実感する。
笠木は化け物である事を。好意で手伝ったとは言い難いが、手伝ってもらう立場とは思えないくらいに注文をされ笠木と比較される事もあり、笠木のスペックの高さを思い知らされた。
別に俺が笠木に成ろうと思っちゃいない、というかスペック不足過ぎる。あくまで少しでも負担を減らそうと思っての行動なので悲観まではいかない。
そしてある程度まで手伝って走り回った結果、分かった事がある。俺は自分が思ってる以上に存在を認知されているらしい。
誰、お前? と言った事はなく手伝った全員が俺の名前を認識していた。それだけは少しだけ認められたような気分がした、それ以上の感情は特に無い、というより結果的に恐怖に辿り着いてしまっているのが現状だ。
「で? 自分の仕事は終わってませんってわけね」
「まぁ、むしろ他の資材の着色もあるから仕事が減ってないだけじゃなく増えたくらいだ」
そう、着色をメインで担当していた俺の仕事は、他の持ち場の効率が上がった事によって逆に増える結果となっていたのだ。
元々やらなければいけない事ではあるのだが、俺の着色が終わらなければ他の持ち場が停滞する状況となっていた。結局のところ俺の行動で全体の作業効率が上がったとは言えない状況である。
田中は俺が何をしていたか分かるので怒るに怒れないもどかしい状態なのだろう。ある意味好都合であるのだが、田中の事だから多少なり責任を感じているかもしれないので、ここは俺が折れよう、自己犠牲や自己破滅では無く、気遣いとして俺なりに考えた結果だ。
「いや実際のところ色塗りという単調な作業に飽きてな、寄り道みたいなものだ、ちゃんと工程表の期日である明日までに終わらせるから安心してくれ」
「へぇ~この量を明日までにやんのね?」
田中が教室を見回すように俺も教室で着色を待つ建造物や作品を見回す。ビックマウスに反して、誰がどう見ても一人で終わらせるには厳しい量である事は分かる。
「今からササセンに確認してくるからアンタ待ってな」
そう言って田中は職員室へ向かって教室から出て行った。そんな田中と入れ違いのように教室後方のドアが開く。
「みんなごめんね、今から手伝う――あれ」
笠木はようやく用事が終わったのか教室へ戻ってきた、ホームルームにも戻ってこなかったところを見ると隣のクラスだけは無く、頼まれ事が積み重なり戻ってこれなかったのだろう。
既に時刻は夕方と言える時間になっていて、田中の出て行った教室には建造物と俺しか残っていない、自身の工程が終わり次第帰るなんて薄情な奴らだ。
アイツら社会人になったら定時に帰って叩かれるタイプだと俺は断言したい。
「いつもより早いが、みんな帰ったぞ……俺も帰るところだ」
「え? そうなんだ、あっ! でもこれだけ揃ってるなら着色は進められるね!」
「いや、無理に進めても後にやる事が無くなるから、工程表通り進めていくらしい」
田中が帰ってくるまでにどうにか笠木を帰そう、あまりに背負いすぎている笠木は休むべきだ。これは俺の独断だ。これだけ量が増えたのは、間接的とは言えど俺のせいだしな。
「そうなんだ、今日少し疲れてたから丁度良かったかも」
「あぁ、お疲れさん」
「木立くんもお疲れ様、後……ありがとう」
「気にするな、じゃあな」
笠木は自身の鞄を持ち教室から出ていく、どうやら藤木田と黒川は俺の希望通りに笠木へ物資を届けてくれたらしい、この嘘は優しい嘘であると俺は願う。笠木を護る為の嘘である事を信じよう。どちらにせよ明日にはバレる嘘なのだが。
笠木が帰ってから教室で待っていると、教室前方のドアから田中が姿を現す。
「今から二時間だけなら大丈夫だって、八時までね」
「わざわざすまんな、じゃあお疲れさん」
田中に延長時刻を聞いた俺は早速作業に取り掛かる、孤独と隣人で在れ。一人で黙々と作業するのは好きだし正直な話で単調な作業とか大好物だし俺の為にある。
「――ちょっとこっちに持ってくるっしょ普通」
「え?」
さっき俺、お疲れさんって言ったよ? 田中がそういう人間だって分かっているから言ったのだが逆効果だったらしい。田中はどこまでも田中で俺が操作出来る相手じゃないのだ。
「悪いな、色々。迷惑をかける」
「アタシこれでも文化祭のクラスリーダーだかんね、義務とかあるし、義務なんか無くたってこのくらい手伝うの当たり前じゃない? アンタ一人だと何するか分かんないタイプだし」
いや、言葉を選んでくれ。まるで俺が犯罪者みたいな言い方をしないでほしい……
思い出す、田中と出会った当初、ケバい頃の鬼の形相、そして藤木田と黒川の言葉。
あそこからよくもまぁ、ここまでの関係を築きあげたと賞賛を自身に送りたい。周りだけじゃなく俺も変化を遂げた、何やら反抗してしまうのが俺の悪い癖だが、実際言う通り、周囲も俺も変化したからこその今なのだ。
認めよう、これまでの俺を。そして期待しよう。これからの俺に。
最後までみていただきありがとうございました!




