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秋愁と、とある陰キャの成長の果て

今日の更新になりぃぃます!

 藤木田達との昼食を終え一息を吐いて、教室の隅で休んでいると他の生徒の慌ただしい姿が目に映る。

 休み時間にも関わらず昼食が終わった生徒はクラスの催し物の制作物に取り掛かっており、祭りの準備に追われているようであった。


「この光景が日本のブラック企業を表しているな」

「しかし、皆楽しそうに取り組んでおりますからな、ブラックとは少々異なるかと思われますぞ」


 藤木田の言う通り、嫌々仕事に取り組んでる者はいないだろう。そもそも嫌々取り組むタイプの生徒は俺のように休み時間を最大限まで利用して時間を稼ぎ続けるのだから。

 俺も昼休みが終わり次第、朝から行っている色塗りを再開する事になるだろう。そんな事を思いながら紙パックのお茶を啜っていると田中が俺の方へ向かって歩いてくる。


 なんだよ……今は昼休みだから文句を言われる筋合いはない、文句を言うようなら徹底抗戦した後に負けて渋々作業に勤しんでやろう。


「悪いんだけどさ、午後からアンタ一人で作業してくんない? アタシも空きがあったら手伝いに入るけど……ホントごめん!」


 俺の予想と反して田中は、午後からの俺の作業がソロになると伝えに来たらしい。笠木はどうしたのだろうか?


「笠木に何かあったのか?」


 田中は少し言い淀むが、俺の性格を知っている事もあり、言い辛そうに答える。


「雪は……お昼休みの始まりから隣のクラスに色々あって引っ張られててアタシも連れ戻しに行ったんだけど、隣のクラスの出し物の発案が雪らしくてそれの説明が終わるまで帰れないみたいでさ……」

「発案だけなら後は、隣の連中が自分たちでやる事だろ?」


 笠木の事だから隣のクラスとの何気ない会話で出し物の提案をしてそれを吟味する事無く、怠惰な連中がそのまま流用したからシワ寄せが笠木に回ってきたのだろう。


「アタシもアンタと同じこと言ったんだけど隣のクラスよりも雪がね……責任感じて解決するまで帰れないって……結構強情なとこあんだよね、あーなるとアタシにはどーも出来ないし、悪いんだけど一人でお願い!」


 そう言って田中は、両手を合わせつつ俺に頭を下げてくる。別に田中が悪いわけではないのだろうが、文化祭のクラス責任者となっている以上、田中なりに思うところがあるのだろう。


「分かった、むしろ俺一人の方が捗るから田中も他のところにその分回った方がいいだろ」

「まぁ、そうなんだけど……アタシの手伝いが要らないって事にも取れるんだけど……!」


 そういうつもりで言ったわけじゃないのだが、俺が他者を気遣う事なんて滅多に無いから田中としては言葉を勘ぐって邪魔者扱いされたと思ったのだろう。


 面倒だがフォローくらいは入れてやろう、陰キャの俺でも分かるが女子は面倒な生き物だ。少しの事でも褒められたいし可愛いと言われたい承認欲求の塊だ。そうじゃないと、出典の曖昧な音楽を土台に踊った動画を撮ったり、加工しまくって逆に不自然なくらいに綺麗な写真を投稿したりしない。

 その承認欲求を今から俺が満たそうではないか、黒川のように鈍感系主人公に多少憧れが無いことも無い、うん。


「田中がいると緊張して手が進まないんだよ、だから俺は一人でいい」

「ア、ア、アンタさぁ! そういうところね! 眼鏡とか暗いのいる前でも言うなし!」

「え? 俺、何か言っちゃったか?」

「もう分かったから! アンタぼっちで仕事してよね! そんじゃあね!」


 顔を耳まで赤らめた田中は、踵を返し他の作業の進捗や指示に忙しそうにしていた。

 どうやらミッションコンプリート。田中がどのような意味で捉えたのかは考えるまでも無いが、俺としては田中が考えた意味の他に、田中に監視されているという恐怖の感情が作業を停滞させる旨を伝える意味で言ったようにも捉える事が可能、俺は悪くない。


「木立氏……付き合いがそれなりに長い某にはバレてますがとことん人を喰ったように言葉を武器に使うのは止めた方がいいかと思いますぞ……」


 藤木田が訝し気な目で俺を見る、悪い事をしたという自覚があるからこそ俺は視線を逸らすと逸らした方には黒川も藤木田同様に俺を見ていた。


「将来良い死に方をしないな」

「おい、黒川にだけは言われたくないのだが」


 むしろ今回の方法は鈍感系主人公である黒川を模したからな、黒川だけには言われたくないのだ。そういえば文化祭にクラウドさんは来るのだろうか? 黒川の発言からするとクラウドさんは来ないように思える。

 黒川に聞いてみようと思うと次から次へと俺への来訪者は途切れる事は無かった。


「おいぃ木立ぇ……雪知らねぇか?」


 コイツは、話しかける度に俺の肩に手を回さないと話せないのだろうか? それに俺に聞くより田中とかその辺に聞いておけよ。


「よく知らんが、隣のクラスにいるけどしばらく帰ってこれなさそうだぞ」

「はぁ? 何しに行ってんだよ?」


 だから俺に聞くなよ、聞く相手間違えてんだよ高橋。しかし俺が知らんふりをして高橋を放っても忙しそうにしている田中や笠木にシワ寄せがくるのは確実だろう。これくらいなら俺が助けても構わんだろう。


「隣のクラスの出し物に笠木が関わってて終わるまでは帰ってこれないらしい」

「んだよそれ! マジかぁ……」

「俺の作業が色塗りだから後に回せる、人手が足りない程度なら俺が手伝う」

「マジか! 木立ぇ! サンキュ、俺以外にも結構みんな困ってっからよろしくぅ!」


 は? そんな事聞いてないんだが……高橋は代表として笠木の所在を聞きにきていたのだろう、笠木は文化祭に限らず、いつも誰かの為に手を焼いている印象が強い。

 今、お昼も取れずに隣のクラスに行っているのが、その最たる例だ。そして普段笠木が行っている事を今から俺が行うのだ。

 しかし、少しでも笠木の負担を減らしたいと思うのだから口に出した以上俺はやるしかないのだ。その前に頼らせてもらおう。


「藤木田、黒川どっちでもいいが、これでサンドイッチとかの軽食と飲み物を買ってきて笠木に届けておいてくれ、その時にクラスの事は心配するなって言っといてくれ」

「喜んでパシりますぞ! 周りを見れる余裕が出来てきたのが木立氏の変化ですな、某は嬉しくて涙が出ますぞッ!」

「純一……パパは嬉しい」


 コイツら俺の親かよ……。黒川は下の名前で呼ぶな、ゾワッとする。それよりも俺が頭の片隅に置いておいた事態になってきたな。このクラスは笠木という人間に依存しすぎている。確かに笠木は可愛いし性格は良いし何でも出来るが……個でしかないのだ、これだけの事を一人で回していたのなら確実に潰れてしまう。


「おう、木立ぇ! こっち来いよぉ!」


 先に作業場所へ戻っていた高橋が、俺を呼ぶ。頼みごとをする立場で何であんなに偉そうなのだろうか? まぁいい、俺が今やる事は笠木の為ではなくクラスの為に自主的に文化祭準備に意欲的に取り組むだけだ。

 これは俺が進んでやる事だからな、笠木ですら俺に文句を言う権利は無い。

最後まで見ていただきありがとうございました!!どん!!!

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