秋愁における存在価値
きょーの更新です!!!
憤怒の田中の怒りを買い池田と共に追い出された俺は素直に帰宅し池田は恐らく、田中に謝罪を入れ教室に戻っていった次の日、俺は朝から憤怒の田中から始業チャイムが鳴るまで説教される事になっていたのだ。
「アンタねぇ……言われて素直に帰るとか何考えてんの!?」
「い、いや……だって――」
「だってもでもも無い! 普通帰らなくない!?」
いや、普通は帰るだろ。戻った池田が異常だと思う。俺と池田が邪魔になっていたのは客観的に見れば事実であり、わざわざ謝罪をして戻り許しを請うなんてバカげている。特に重要な役目でも無いだろうに。
「俺の代わりなんていくらでもいるだろ、というか池田も戻ったし問題ないだろ」
「アンタねぇ働いた事無いから分かんないかもしんないけど、どんな人間でも一人いないとみんなのスケジュールが崩れるの、一人の行動がみんなを左右するの!」
じゃあ最初から追い出す様な事言うなよ。確かに俺が悪いのは間違いないが腑に落ちない。というのが俺の言い分だ。
怒るなら怒るで構わないが、出ていけとあんな剣幕で言われたなら俺と池田は教室から出るしか無くなるだろ。
「アンタ、小学校の時とかもセンセーに叱られて帰れって言われたらマジで帰るタイプだったしょ?」
「そうだが、なにか?」
俺の発言で田中は頭部の横に手を宛がい何やら考えている、俺は別に自分の意見が間違えてるとは思わない、一つの解として有りだと主張する。
確かに池田のように戻るという選択肢も正しい事ではあるが、俺の中では無いのだ。これはもう価値観による違いとしか言えないのだ。
怒られてやる気になるタイプとやる気を削がれるタイプが世の中には存在する、ちなみに俺は後者だと言いたいが、大体の事にやる気がないので第三勢力といったところか……何やら特別感があってカッコいいのではないか?
「何ニヤついてんの? アタシが怒ってんの分かってる!?」
「ひ、ひゃい!」
怒鳴らないでほしい、陰キャの俺は怒鳴られたりする事に慣れていないのだ。陰キャの心は繊細と言ってもいいくらいに壊れやすいのだ、俺が不登校になったらどうしてくれるのだ?
「そもそも何で田中が俺を怒ってるんだ?」
「はぁ!? アンタ……もしかして話聞いてないの!?」
「いや、話自体は理解している……けど田中が何故指揮を執るポジションにいるのかと……な」
「いやいや、アイツがあんなんだからクラスの連中から結構不満の声上がっててアタシが急遽引き受ける事になってんの」
アイツとは指を指した方向、朝から惰眠を貪る池田の事だろう。確かに体育祭の件もあるからクラスの連中からは疎まれていても仕方ない。
田中は口は強いが間違った事は言わないし姉御肌みたいな部分があるから信頼も高いのだろうか?
「私が聞いた限りだと木立くん相手に手綱を握れてるくらいだから綾香が適任って意見が多かったかも」
横から俺と田中の会話に入ってきた笠木はとんでもない事を言いだし始める。朝から笠木と会話出来るなんて身に余る光栄と言えるが、手綱……俺は田中に飼われているのか? そう言われるくらいに俺は問題児として扱われているのだろうか?
おかしい、俺は陰キャだ。問題児とされるのは陽キャの特権であり、俺の役目ではない。
「何やら不本意だが、確かに田中以外だと俺はダメだろうな」
「ア、ア、アンタさぁ、そういうとこもだかんね! 言い方とか場所とかさぁ、あぁもう!」
田中はいきなりドモったと思ったらプンスカと怒りながら自身のポジションである教卓へと振り向いて歩いていく。 別に俺は黒川と違い鈍感系では無いが、言った後に気付くことが多く今の発言のどこに問題があるのか理解している、しかし学習はしない。
まぁ青春の形としては悪くないのだろう。
「俺としては田中よりも笠木が適任だとは思うんだけどな」
「えぇ……私なんかじゃダメだよ、そういう才能ないもん」
笠木はどこまでいっても笠木で他人を褒めたり上げたりする事は出来ても自分の価値を顕示しないのだ。笠木は自分の価値を知らないからこその発言をする。
俺がどれだけ努力をしても手に入らない物を持っているには違いないのだ。
「宿泊研修の事があるから全員とは言わないが、多くの人間に好かれるってのは才能じゃなく笠木の努力の賜物だと思う、田中みたいに他者を引っ張れるのは才能だと思うけどな」
「……ありがとう、でも最近思うの。本当に欲しい物は多分努力じゃ手に入らないんだって」
笠木の本当に欲しい物ってなんだ? 努力じゃ手に入らない……ダメだ、俺には分からん。陽キャ辞典の藤木田先生なら分かるだろうか?
しかし、藤木田先生ばかりに頼るのは流石に俺の思考の停滞を意味する、それにこの答えは俺が導き出さなきゃいけない気がする。
俺も笠木同様に本当に欲しい物は手に入ってない、俺の目標は一度は無くなりかけたが笠木との青春ラブコメである、どれだけ灯が掻き消されかけても変わらずに俺は笠木という強くもあり弱くもある人間が好きなのだ。
そして入学当初と異なり、今では手に入らないなんて思っちゃいない。青春ラブコメはファンタジーであるが……ファンタジーが現実にブートされないなんて事はない、元々一般的な人間とは歩き方が違うのが俺の弱みでもあり強みでもある。
だったら足掻いて俺は手に入れたい、俺は君のヒーローで在りたい。
「笠木……俺は手に入れるぞ、俺の本当に欲しい物。世界の偉人のように恵まれてるなんて口が裂けても言えない俺だし確証なんか出せやしないが……俺は俺の努力を否定しない肯定していく」
「……そっか、頑張ってね。応援……してる」
本当に欲しい物は手を伸ばせば触れられる距離にあるが、それだけじゃダメだ。
俺だけじゃダメなのだ。
近いようで遠い、そんな俺と笠木の青春は未だ交わらない。
最後までみていただきありがとうございました!




