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青春は些細な事を大事にするように出来ている

 昨晩、藤木田と話し合った事によって悩みの種は解消され、いつも通りの日常を取り戻した。


 いや、前よりも気分的には穏やかで俺は俺なりの青春を送っているんだろう。という確信を得ている。恐らく藤木田も、同様の考えであり蟠りも解けているはずだ。

 陰キャとは自他ともに認めているが、わりと俺の高校生活は人並に楽しめてるのではないか? そんな事を思ってしまう。


 しかしだ、昔から俺は調子に乗ると碌な目に合わない。

 楽しみにしていた遊園地の前日に高熱を出したり、中学校の修学旅行当日のバスにてゲロ塗れになり卒業まで度々イジられる。


 昨日なんか気分が高揚していた事もあり、ソシャゲのガチャに貯めこんだ石を《ゲートオブナントカ》して大爆死したりと散々な結果になっている、《ホンマ汚い会社やで!》なんて言葉を頭に浮かべる。

 うん、調子に乗らず藤木田との友情ライフを噛み締めよう。


 そんな事を思いながら登校していると、いつもより早く学校へ着いてしまっていた。

 時間的には何一つ変わらないが、短く感じたという事は少なからず前よりは退屈という感覚が薄れてきている、良い傾向なのは間違いない。

 そうして教室後方のドアからいつものように静かに気配を消して入り自席を着く。


「木立氏、おはようですぞ!」


 相変わらず長身でヒョロっとして眼鏡を掛けた男、藤木田が俺の存在に気付いて机の前まで寄ってくる。


「あぁ、おはよさん」


 カフェでは普通に話せていたが日を跨いでしまうと何故か照れ臭い、あんな青春ライトノベルやアニメのような青春感溢れるやり取りをした事が理由だろう。

 理由は分かってはいるが、解決策は馴れのみである、どうしようもない。

 藤木田も同じ気持ちなのか互いに目をチラチラさせたりぎこちない笑顔で微笑みあっている。

 傍から見たら、俺と藤木田のラブコメが始まったように思われても仕方ないだろう。

 多分絵面は相当気持ち悪いと思うから気を引き締めて顔を元に戻す。


「そういえば木立氏、聞いてくだされ!」


 藤木田がこれまでにない嬉しそうな顔で、俺の机に両手を置き話しかけてくる。


「どうした? 新しいゲームの発売日にワクワクしている小学生男子みたいな顔してるぞ」

「某、昨晩気分が高揚していた事もあり、ゴブリンストライクのガチャ単発でルシファー引いたでございます! 木立氏……? 顔が物凄い事になっておりますぞ、木立氏?」


 この一言で俺の平常心は取り戻されたが、藤木田にストラ●クショットをぶち込むところだった。

 こうして朝の風景は流れて授業中、俺は笠木ウォッチングをいつものように始めていたが、昨日の笠木の様子、そして藤木田に俺の事を聞いていた話が俺の中で形を持ち始めていた。


 藤木田は笠木をアニメやラノベに出てくる一人はクラスにいる完璧超人だと思って疑っていなかったが、俺は卑屈な性格である事と現実以外の物語は全てファンタジー小説というジャンルであるという認識がある。

 そのため、笠木はペルソナを被っていて、内側の自分を否定するともう一人の笠木が実体化するタイプだと思っている。


 確かに美人でスタイルが良いのは間違いがなく外見の部分なので偽るにしても限界があるだろう。


 しかし、内面に関しては分からない。


 昨日の俺と藤木田のようにお互い曝け出して話し合わない事には人間の本質は理解出来ないのだ。

 他人からの評価はどうあれ自身の内面を完全に理解できる可能性があるのは自分だけである。

 青春は悩むことに意味があるのだ、青春と呼ばれる学生期に解が出ない、結果が出なくても悩む事こそ真髄であると俺は考えている。

 そのため、俺にとって昨日の時間は、大事且つ非常に有意義な時間であった。


「あの……何かあったかな?」


 不意に掛けられるエンジェルボイス、そして何故か距離がいつもより近く感じられる笠木の存在。

 考え事をしながら笠木ウォッチングをしていたら、笠木をガン見してしまっていた、というか目線どころか顔自体が笠木の方向を向いている事に今更気付く。


「へぁ? いえ、あの……すみません」


 笠木は俺の陰キャ丸出しの返答に僅かに驚きながらもクスリと笑う仕草を見せつける。


「えっと、謝らなくても……勘違いだったらごめんね、こっちをずっと見ている気がして話しかけたんだけど……」


 申し訳無さそうに言う笠木だったが、気のせいではないどころが俺の顔面偏差値三十八くらいの顔が笠木の方を向いているのは事実であり、弁明のしようがないくらいなんだ、本当にすまん。


「た、多分見てました、すみません」


 自分でも分かるくらいガン見していたのだ、下手に言い訳を重ねるより正直に謝る。俺は社会人ではないけれども社会人の対応は分かると自負している。

 場を収めるにはひたすらに謝罪する、妙な言い訳をすると油に火を注ぐ結果になる、心を殺してペッパーくんのように対応する、これ鉄則。


 慣れない事に困って口癖のように謝っているわけではないんだからね!

 笠木が手を口元に当て、笑った仕草を隠すようにして


「前もだけど……正直すぎるよ、取り繕わないんだね」


 褒めてるのか貶しているのか……俺の陰キャブレインでは二つのアンサーが浮かんでいるが、笠木の事だから貶しているわけではないのだろう。


「えっと、ありがとうございます……」


 流石に陰キャ過ぎるな、毎回語尾の音量が下がっていってしまう。


「それで私を見ていた理由は聞いても大丈夫かな?」


 触れないでほしかった部分に戻ってしまった、これはマズイ。

 俺は先ほど、自身の頭で浮かべた素直に謝るという誠実な選択肢を脳内HDDから消去する。


『笠木ウォッチングしてました、かわいいです!』


 なんて伝えてみろ、正直者通り越してガガイのガイだ、切り抜ける為に俺は……。


「昨日、藤木田が俺のボーリングの参加について笠木さんから伺われたと聞きましてそれが気になって見てしまった次第でございます……」


 うん、嘘は言っていない。

 本来の目的とは異なっているが気になっていた事だ、気になっていたのに話しかけず顔をガン見していたとか素直に自分でも気持ち悪い奴だと認めるが他に言う事がないのだ。

 笠木は思い出すような素振りを見せながら小声で返答をしてくる。


「クラスメイトだしもう敬語禁止! 確かグループチャットに木立くん入ってなかったなーと思ったから木立くんと仲の良い藤木田くんに聞いたら分かるかなって」


 笠木は俺がグループチャットに参加していない事に気付いていたのか、しかし笠木のような陽キャが陰キャの俺をここまで気に掛ける理由があるだろうか?

 仮に俺が笠木の立場だとしたら絶対にあり得ない。

 という事は笠木は俺が好き? という可能性が微レ存、青春ラブコメがようやく始まるのか……。


 毎朝起こしにくる幼馴染、高校生なのに両親が海外出張の為、実家で一人暮らしの主人公、生意気な後輩、少しクールで美人な生徒会長のお姉さんキャラ、物語の中盤で現れる食わせキャラの従妹、何故か主人公を気に掛ける女性教師がいないこの現実でも……。


 青春ラブコメは可能だったのだ、全国の同胞達よ、見よ、俺が希望の星だ!

 俺は授業中にも関わらず声を高らかに宣言したい、生きていればいい事はある。

 だから《死ぬんじゃねぇぞ お互いにな!》

 そうして俺が生の悦びに浸る中、笠木は続けて言った。


「今回はボーリング場貸し切りになってて、ボーリングの人数決めとかないとグループ分けとか予約でみんな困っちゃうから木立くんの参加の有無だけ分からなくて今聞いても大丈夫かな?」


「え……? すみません」


 わりぃ、俺死んだ。

 これは恥ずかしい、別に言葉にしたわけではないが自身の考えとは全く関係のない話だった事と、陰王の黒川くんでさえ参加の有無を聞かれているのに、俺だけが誰からも聞かれていない最後の一人だったという事実。


 もう俺が、黒川君に代わりこのクラスの陰王を襲名していいかな?

 なんなら、あまりの存在感の無さにバトルロワイアルなんかしたら優勝する自信まである。


「そんな何度も謝らなくても……それで参加するかな? 参加するなら藤木田くんと一緒のグループにするように手配しようと思ってるし藤木田くんもその方がいいかなって」

「あっ、はい、じゃあそれでお願いします」


 ダメだ、あまりの虚無感に穢れが蓄積され真っ黒になりそう、男なのに魔女化しちゃいそう。


「それじゃあ日程とか費用の確認とかあるから、後でグループチャットは私から誘うね」


 グループチャット? 私から? 

 待てよ……陽キャ的に言うならワンチャンあるな、これええぇぇ!


 俺の頭の中では某アニメの駄天使がラッパを吹いて祝福しているような映像が流れていた。

 いや、あのラッパ吹かれたら終了の合図だっけ? ……そんな事は、まぁいい。


 グループチャットに笠木から誘われるというのは、現状俺は笠木のチャットIDを知らないイコール必然的に笠木と俺のチャットIDの交換タイムが訪れる。

 IDを教え合うのだろうか? QRコードで読み取られてしまうのだろうか? それともふるふるしちゃうのだろうか? どうしよう、調子に乗りたくないのに、あぁ^~、心がピョンピョンするんじゃぁ^~。

 笠木のチャットIDを知ってしまったら笠木のトップ画像を保存したり、タイムラインにてコンビニやコーヒーショップのキャンペーンに応募してる情報を確認出来たり、タイムラインにコメントやキリッとして親指をグッとしているあのスタンプを送れるじゃないか?!

 三日に一度、時間割を忘れたフリして笠木にチャットしてみたり……神よ、俺はラブコメをしてもいいのでしょうか?


「あ、でも、そっか……私から招待するより藤木田くんに招待してもらった方が早いね!」


 やはり、あのラッパは世界終焉の合図だったようだ。


「そうですね、後で藤木田に聞きます……」

「それじゃあ、よろしくね」


 そう言うと笠木は黒板に視線を戻してしまった、天国と地獄のジェットコースターかよ、なんだこれ、俺もしかしてガチで呪われてる?

 やはり青春ラブコメは一筋縄ではなく、幼馴染とかその他大勢の要素が無ければ発展しないどころか始まりもしないのだ。

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