秋愁が描く陰キャと陽キャの攻防
今日の更新分です!!!
「そんでアンタは何買うの?」
田中の一言で俺の本来の目的を思い出す、正直完全に失念していたのだが、俺も田中同様にハロウィンイベントの買い物で、こんな来たくも無い店に足を運んでいた事を思い出す。
しかし、先程の仕返しで田中にコスプレ衣装を選ばれると厄介な事になりそうなので話を逸らさせてもらおう。
「あぁ、俺は付き合いだな」
「そうなん? アンタって案外付き合い良いよね」
よくよく考えれば確かに俺はかなり付き合いが良い方だ、藤木田や黒川の他に田中や笠木とも律儀に対応している気がする。
そして、その事に違和感を抱いていなかった自分自身の変化に気付く。
どうやら俺は流されやすい性格をしているらしい。中学生の頃と比べると随分融通の利く人間になったものだと感慨深さすらある。
「木立氏! 某も衣装を探しにきましたぞ」
いきなり登場しないでほしい、普段声を掛けられる事が少ないから驚いた。後ろを振り向くと藤木田が黒川と共にエスカレーターを昇ってきていた。
そして藤木田と黒川だけかと思いきや、我がヒロインの笠木が黒川の後ろに隠れてはいるがチラチラと俺の視界に映った。
「あっヤバッ! 雪の事忘れてた……」
どうやら田中は一人で行動をする予定ではなく笠木とこの店に来る予定だったらしい。そして笠木もどういう経緯かは俺の知る由では無いが、藤木田と黒川と共に俺と田中が待つ階へと移動をしてきたのだった。
「綾香! どうして連絡返さないの!? このお店怖いから一人で入れなかったんだからね!」
「アタシもちょっと忘れちゃってたってゆーか……色々とね、マジゴメン」
こんなところでレア笠木を拝めると思っていなかったが、あの田中が笠木相手だと普段はこんな感じなのだろうか? 何やら尻に敷かれているという表現が良く似合っている。
百合の花……俺は嫌いじゃない、うん。すごくいいです。
「木立、顔が気持ち悪いぞ」
「ですな、人前でする表情じゃないですぞ」
俺の顔が気持ち悪いのはデフォだろ、ただ放映禁止みたいな表現をされたのは初めてだ、俺のメンタルが成長してなきゃ今頃下りのエスカレーターに乗ってるまである。
「田中女史の用事は終わったのですかな?」
「あぁ、それじゃ俺達もさっさと済ませて帰るぞ」
「眼鏡、アンタ何買いに来たの?」
何気ない会話だったのだろう、田中は藤木田に質問を投げかける。ここまでは俺も気に留めていない。
しかし……藤木田は知らない、俺と田中が先ほどまで何をしていたのかを。
「某達は、ハロウィンイベントのコスプレを買いに来たのですぞ!」
「それって木立も買うって事?」
「もちろんですぞ!」
もう何も言うまい。田中の表情が悪戯を思いついた悪童のような表情に変わったのは当たり前の話である、俺の脳内は田中の着せ替え人形となる未来を想像していた。
しかし……実際は田中どころではなく、俺以外の四人の着せ替え人形となる時間が訪れていた。
「アンタ小さいから何着ても小者感拭えないんだけど……ホントどうしよ」
笑われるだけならまだしも、本当に深刻そうな言い方と表情をするのは止めてもらいたい。小者感ではなく実際に小者だからだろう。
「俺はまだ成長期が来ていないだけだ、両親のDNAを考慮すると間違いなく俺の身長は伸びる」
「遺伝とかぶっちゃけ信用出来るか微妙でしょ、それより食生活と睡眠とかのが大事じゃない?」
「おい、それ以上俺の希望を閉ざすな、枕を濡らす事になる」
しかし、俺としては似合っていようが似合ってなくてもどちらでも構わないのだ。どうせ半日足らずの期間しか着ない衣装の事など気にしても仕方がない。
「藤木田くんと黒川くんは身長高いし似合うかも!」
「いやはや照れますな! 黒川氏!」
「ふっ……悪くない」
確かに俺の友人たちは妙にスタイルが良いので似合っている、藤木田の執事の衣装と黒川のドラキュラの衣装は映えるな……。
気にしても仕方ないとは思っているが、俺には本当に似合う衣装が無いのだろうか?
「ねぇ綾香、木立くんだと逆に女性用の方が合うんじゃないかな?」
「え?」
「あっ、それワンチャンあるっしょ! 雪冴えてんねぇ!」
いやワンチャン無いから、どこまで俺の心を抉れば気が済むのだろう、自覚の無い悪意だからタチが悪い、怒るに怒れないのだ。
「アンタ、一回これ着てみな」
そう言って俺に手渡されたのは先ほど田中がレジへ持っていたナース服の色違いである。プライドという要素は人生において微塵も役に立たず、俺の中で枷になると考えていた時期もあった。
だが……微量のプライドは必要らしい。
「男として拒否する」
「ムリ、着て」
「早く着てほしいかな?」
あっ……これ強制イベントだ。
俺は全ての感情を捨ててブレザーを脱ぎ、白いナース服を羽織ってジッパーとボタンを掛けていく、仕舞いには折り目の付いたナース帽を被る。
着ただけで分かる、男性用では微妙に合わないサイズの衣装しか無い中、華奢な俺の身体は女性用サイズがフィットしているという事実。
「似合うじゃん! アンタそれ買いな」
「木立くんって童顔だし髪長いし似合うのかな?」
非常に複雑な気分だが、致し方ない。
言われなくても分かっている、俺はこれを買うまで帰れない。
だったらこの地獄から抜け出すために俺はこれをレジまで持っていこう。
「……んじゃ買ってくるわ」
俺がのそのそと重い足取りでレジへ向かおうとした矢先に笠木の発言で状況は一変する。
「綾香とお揃いだね!」
その一言を聞き振り返ると田中は口元をキュッと噤んで恥ずかしがるように赤面していた。だとしたら俺がやるべき事は決まっている。
もう地獄である事は免れないならば、道連れを一人増やすだけだ。
「田中……ハロウィンイベントはお揃いのコスプレで参加だな、記念に写真でも撮ろうじゃないか? この際イン〇タに載せてもらっても構わないぞ」
「い、いやぁアタシはやっぱりヤンキーのコスプレで――」
「そういう訳にはいかない、当日楽しみにしてるぞ」
「アンタ……覚えておきなよ!」
この日の勝敗は俺と田中の痛み分けで終了となる、帰ってから俺が別の意味で枕を濡らしたように田中も葛藤しつつ枕を濡らしたに違いない。
YOLO!




