秋愁と迫るカボチャの馬車
三章の新しいお話が始まりました!あまり長くなく箸休め的に捉えていただければという内容となっております!
九月末の体育祭が終了し季節は秋から冬へ差し掛かろうとしている、と言っても俺が住む場所では雪はまだ降らないにしろ季節感特有の風は冬と言っても過言ではない。
肌寒さを感じながらも、高校生特有の制服にマフラーという定番スタイルで登校している生徒が多く揃いも揃ってマスクを着用している。
何コイツら全員、風邪でも引いてるの? 移されたくないから家に帰れよ。
学級閉鎖になって俺も帰るけど。
だが、実際のところ風邪を引いている生徒の方が少ないだろう、風邪という土台に乗っかったファッションマスクの類である。
理由は様々だが、化粧をするのが面倒とか、思春期特有のニキビが出来たとか顔が不細工だとか。特に最近目立つカラスみたいな黒いマスクは異常だと思っている。
学校は勉学と協調性を学ぶ場でありコスプレ会場ではないのだと俺は声を大にして主張したい。
俺は自分が不細工だろうが低身長だからといって誤魔化したりはしない。変に評価を上げ周囲の期待という感情を引き出してしまったら後に困るのは自分だと理解しているからだ、うん。
「木立氏! おはようですぞ!」
この独特な喋り方と妙にテンションが高めな声色、どうやら藤木田と登校中に遭遇してしまったらしい。
「あぁ、おは……ダッサ」
俺の友人はトレンドに毒されてカラスのような尖がった黒いマスクを着用していた、別にトレンドが悪いなんて思っちゃいない、心からダサいと思うだけである。
「ぬ!? に、似合ってませんかな?」
「言っちゃ悪いが全然似合ってないというか不審者だろ、事案発生となり蒼い鳥のSNSでバズって拡散される未来が見える」
俺がそう言うと藤木田は、黒マスクを取り外し鞄に仕舞い始める。藤木田がファッションに興味を持っているのは知っているが、とりあえず髪型から直せばいいのに。
髪型で印象がかなり変わるはずだ、もちろんいい方向へ。
「最近流行ってると記事を目にしましてな、どうやら某には早かったようですな……」
「そもそも黒マスクは賛否両論別れてるし、早い遅いの問題じゃないと思うぞ」
「木立氏は妙に詳しいですな! 似たような記事を見ていたのかも知れませんな!」
言えない。
少しばかり中二心を擽られて俺も買ってしまったなんて絶対に言えない、そして洗面所で装着したところ母親に目撃されて、大爆笑されたなんて俺は言えない。
登校中の黒マスクに嫉妬を含む文句を言いつつも藤木田と俺は教室まで辿り着くと黒マスク感染者の姿が多々見受けられる、その中には友人である黒川の姿も在った。
「お前も黒マスクかよ……粛清が必要だな」
「いきなりどうした……?」
俺が声を掛けると黒川は、俺と藤木田の方へ振り向くと、元々が美形な顔立ちのせいなのか黒川は黒マスクを自分の表情の一部として機能させていた。
「分かるか? 藤木田」
「言わずとも理解しておりますぞ……」
俺と藤木田の黒マスク議論の決着は顔が全てに至ったのだった。
「それにしても黒川の場合は本当に具合が悪そうに見えるのがいいよな」
具合が悪そうに見えるだけで、黒川が朝からグロッキーなのはデフォだ、どうせFPSで夜更かしをして眠気で死にそうなだけなのも、分かり切っている。
「具合が悪そうとは心外だ、本当に具合が悪い……」
「黒川氏にしては珍しいですな、某もFPSからの疲労だと思ってましたが何やら違うのですかな?」
「俺の手を見れば分かる」
黒川の手には幾多のヶ所に渡り絆創膏が貼られていた、中には血が滲んでいる箇所もある。
「最近のFPSは現実の肉体にダメージが入るようになったのか……技術の進歩は留まるところを知らないな」
「木立は俺を何だと思っている?」
流石に俺も発言も冗談だが、料理でもしていたのだろうか? しかしあれだけ手を動かさなくても飯を自動で食わせてくれ! みたいな内容を豪語していた男が料理なんてするわけがない。
「裁縫の傷ですかな?」
「ふっ……ご名答」
どれだけ疲労困憊でもキャラを崩さない黒川には乾杯するがイラッとくるな、それにしても裁縫か……確かに料理以外だと妥当な線だな。
裁縫と言う事はクラウドさん絡みだろうか?
「近々コスプレイベントとかあるのか?」
「あぁ……もうすぐハロウィンの時期だからなクラウドさんもウドンアタックのハロウィンイベントの女教官のコスプレをすると意気込んでいてな、大規模のイベントが近々あるが間に合わないと嘆いていたので俺がサポートに回った」
黒川にしてはかなり律儀だ、いや黒川はこれまでもクラウドさん絡みならばFPS以外に予定でも付き合っているな、もしかして……。
「クランメンバーが困っているのを俺は見過ごす程、冷酷なマスターではないからな、褒めてくれていい」
確かに利益が無いのに自ら役目を買って出て睡眠不足に陥る程の時間を捧げているのだ、本来褒められるべき行為なのだが、素直に褒める気にならないのは何故だろうか?
「黒川氏は偉いですな! 某が褒めて差し上げますぞ!」
そう言って机で寝そべる形の黒川の肩に手を回す藤木田を見ていると絵面が男性向けじゃなくなるので止めてほしい、そして俺程とは言わないから周りの目を気にしてほしい。
「そういえば、この学校でも有志によるハロウィンイベントが近々ございますな! お二方はどうするのですかな?」
「そもそもハロウィンって馴染みが無いから何するのか知らん、というか何処でそんな情報見つけてくるんだよ?」
「生徒会長が、蒼い鳥のSNSで告知されておりましたぞ、何やらハロウィンに因んだコスプレの件も視野に入れておりましたな!」
使い方としては間違っていないんだけど、釈然としないと言うか……何やら良い言葉が出てこないのは俺が固定概念に縛られているのだからだろうか?
「後、同時に仮面猫さん……騎士王と言った方が分かりやすいですかな?」
騎士王……あのエクスカリバー引き摺ってた奴か。そんなハンドルネームだったのは知らんかった。
「あのエセ騎士がどうした? 遂にデートでもする中にでもなったのか?」
「いえいえ、木立氏に何やら話があるとの連絡をDMで受けましてな、木立氏の連絡先を教えておきましたぞ!」
いやいや、何? 俺の連絡先ってフリー素材なの? 悪びれも無く言う藤木田の顔を見ていると怒る気は無いが、エセ騎士王となると俺の中であまり良いイメージは無く悪い予感しかしないのだ。
一難去ってまた一難とはよく言ったものだと俺が、脳内で呟くのは少し後になるのだった。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです!!!




