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秋愁と五月の呪いの結末

体育祭編はここで終わりです>< 別に体育祭とかほぼ関係ありませんでしたが、時系列的に絡まさせていただきました!

 前の走者がスタートし二人三脚は滞りなく進む中、少々緊張を秘めた俺と大胆不敵とも取れる態度の田中が他の走者と共に並び立つ。


「一位……絶対取っから気合入れなよ」

「田中こそ俺の知略に驚くなよ、俺はある意味必勝法を知っている」

「へぇ、アンタにしちゃ随分自信あるみたいね……逆に心配なんだけど」

「まぁ見てろ」


 必勝法と言えど単純だ、他の走者を見て思ったがコケずにゴールまでスムーズに走り切る二人組は殆どいない、それは何故かを考えると答えは見えてくる。


 俺と田中の横に立つ体育委員のスターターピストルを持つ腕が天を差す、二人三脚の必勝法として俺が辿り着いた結論は一つ!

 俺の意志を捨てて、田中が一歩目で踏み出す足の速度に合わせて俺も左足を出すだけだ、呼吸を合わせるとかそんな次元の話ではない。

 ひたすらにゴールではなく足元だけに集中をする、ゴールを見るのは田中だけでいい。

 

 発砲音が鳴ると同時に身体が引っ張られる感覚、田中は少々フライング気味に足を踏み出したと同時に足元を見ていた俺の視界が地面に近づく。


「ッでぇ!」

「アンタ何でそっちの足出してんの!? 普通逆っしょ!?」


 俺が後頭部の痛みに苦しむ中、田中は俺が前のめりに突っ込んだ理由を指摘するが、俺が練習した時は左足を前に出していたんだ、仕方ないだろ。


 痛みに反逆するかの如く俺は立ち上がると、俺と田中だけではなく、他の参加者も苦戦していて一位は無理でも上位入賞なら狙える程にしか差は開かれていなかった。


「俺は左で練習してたんだよ……とりあえず結んだ方でいいから足出すぞ!」

「ちょ、ちょっとアンタ足短くない? 歩幅全然違うんだけど!? ウケんですけど!」

「身長差のせいっ……だろ! 俺の弱点を指摘するって……待て早い! 引き摺るな、俺の唯一の長所である後頭部に優しくしろ!」


 客観的に見なくても分かる、恐らく俺達は二人三脚において惨敗だ。雑に巻かれながらも俺と田中の足を固定する紐は解けずに覚束ない足取りで前へ向かう。

 五月からの俺の人生を表しているかのように無様ながらも少しづつ前に進む。


 先程まで手で掴めそうな位置にいた二人組も既にゴール前。

 反面もたつきながらというより、大衆の笑い声が聞こえるから見世物としては上出来なのだろう。


「ちょっ! アタシが最下位とか有り得ないんですけど!」

「俺は日頃から最底辺にいるから慣れている、敗北の味は初めてか? 陽キャ」

「いやいや、それ自慢気に言うと悲しくない? ホントマジないっしょ……」


 足元を見ているはずが、いつの間にか田中の顔を横から見ている。

 言葉通り悔しがる表情は伺えるが悲観という感情は読み取れず、楽しんでいる雰囲気すら感じられた。俺と田中の前を走っていた二人は既にゴールしているが、もうそんな事はどうでもいい。


 さっきまで二度と無いと思っていた表情を見れた、それだけで今はいい。

 このような負け方なら悪くない。

 隣で文句を言いつつも前に進む田中に合わせる余裕も無く、俺も足を我武者羅に動かし――

 

 白線を越えた。


「はぁ……絶対ムービー撮られてんですけど、アンタどう始末付けてくれるわけ?」


 息が上がりながらも、やはり負けは負けで悔しい思いを俺にぶつけてくる田中は他の参加者が分かり切っている順位を聞いてクラスの席へ戻る中、グラウンドに膝を付いて倒れていた。


「ネタの提供として受け取ってもらいたい……教卓の雑談で一日は持つだろ?」


 俺も田中同様に、足の疲労が思ったよりも感じられながらも俺と田中を繋ぐ白い紐を解いていく。


「アンタ……本当に何言っても自虐や皮肉臭い台詞しか返ってこない、もう慣れたけど」

「そうか……陰キャの適正があるぞ、良かったな。しかし、勝負に負けて試合に勝ったみたいな部分はある」

「物は言いようみたいな例え方しないでくれる? そんじゃ仮病使って保健室に居座る不良娘の説教に向かうよ、アンタも付いてきな、デコと頬に血滲んでっから」


 そう言って田中は、身体を起こしてクラスの席では無く笠木の待つ保健室へと足を運んでいく、俺も田中の後を追うと俺の横に並ぶように速度を遅めてくれていた。


「多分なんだけど、アタシが一番心配だった事は無いみたいだし怒る事はそんな無いと思うから安心しな」


 二人三脚のスタート時点から俺も思っていたが、田中の怒りは既に無くどちらかと言えば保健室に向かうのも事後処理みたいな気分なのだろう。俺にしてみれば今回の作戦のメインはここからなのだ。

 ただ……田中の言葉を信頼するなら俺と笠木が大した事の無い問題を大袈裟に膨れ上がらせていただけなのだ、恐らく小心者故の考えすぎ、杞憂である。


 それでもケジメは必要な事なのだ、選択肢はたった一つしか表示されない一本道のイベントだ。


「どちらにせよ悪いのは俺という事実は変わらない……だからあの時言えなかった事を笠木と一緒じゃなく俺から言わせてもらえると助かる」


 俺の言葉で田中は足を止めて、真正面から受け止めようとしている。俺も出来る限り姿勢を正し告げる。


「宿泊研修の時の俺の行動は田中を助ける為じゃない、とある事情から笠木を助ける為の行動だ、言い出せなくて悪かった」


 俺は深々と頭を下げる。

 礼節など正直のところ分からない、今の俺が出来る事はこれだけだ。

 百戦錬磨の主人公やヒーローには慣れやしないし愚かで在り無様な俺が出来るのは失敗しながらも懸命に前へ進んで引き返しながらも正解の道を探す事だけである。

 

 今、必要な事は強固な殻に大事に……大事に隠されていた俺の心からの謝罪である。


「……そんだけ?」


 どうやら流石にこれだけじゃ謝罪が足りないらしい。これ以上となると、この冷たい廊下で土下座だろうか? 土下座くらい俺にとっては朝飯前くらいの感覚なので田中が気に入らないと言うなら、やってやろうではないか。

 そして俺が片膝を廊下に付けると――。


「いやいや誠意が感じられないとかじゃないから、それだけの事でアンタは悩んでたの? って聞いてんの」

「そう……だが?」


 田中は溜息を吐き、頭を抱えながら小声で何やらブツブツと独り言を呟いている、呪詛かな?


「アンタの言う通り早めに言って欲しかった内容なんだけど……キッカケとかアタシの中では今更どーでもいいんだよね、そんでもって! アタシがアンタと関わってきて後悔した事なんて一切無い、だから黙ってアンタはアタシのこ、こ、こぉっ!」


 何を言いたいのか分かるが、いきなり赤面するし、ニワトリのようにカ行の最後の一文字連呼してる様子を見るとある意味似た者同士なのかも知れない。

 それでも、今の俺にとっては一番嬉しい事を言ってくれようとしてる姿、それだけ十分だ。


「好意を受け止めな!」


 俺には出来ないストレートな方法でカッコよく決める田中に俺は憧れてしまうのだろう、自分に無い物を求めるのは何も間違いじゃない、俺には勿体ないとロリ子が言っていたが、まさにその通りだと思う。

 今はその好意を信頼度や友情として受け止めよう、その先に応えられるかはまだ俺には出来ないし未来の事なんざ分からない。


 ただ、五月から続く些細な呪いはこれで終わったのだと安堵する自分と、これからの未来に想いを馳せる自分がいる事も事実であると俺は言いたい。

最後まで見ていただきありがとうございました;w;w;

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