秋愁と解呪
今日の更新分です><
代役を立てた後、しばし無言のまま気まずい雰囲気が漂う中、他の二人三脚出場者が足首に白い紐を縛っているのに対して俺と田中の足首には未だ紐は結ばれていない状態となっていた。
俺が見る限り田中の機嫌も悪そうに見えないし。俺もいつも通りの表情のはずだ。けれど田中が話しかけてこないという事は三者面談inカフェの件がまだ後を引き摺っているのかもしれない。
もしくは……別に俺と田中がそういった関係ではないのだが、付き合う前までは普通に喋れてたのに付き合った途端に意識してしまい何を話せばいいか分からなくなるという現象ではないだろうか?
まだ誰とも付き合った事が無いのに、体験する事になるとは思わなかった。
「ねぇ」
沈黙に耐え切れなくなったのか田中がようやく口を開く。本来は俺の方から何か話しかけるべきなのだろうがタイミングが分からん。
「何だ?」
「アンタさぁ、どこまで仕組んだの?」
「ん?」
「これ」
そう言って田中は手に握られていた二人三脚用の紐に書いてる『頑張れー!』というマジックで書かれた文字を俺に見せてくる。
どうやら笠木が妙なところで一手間加えていたらしい、笠木らしい行為だとは思うが仮病なのがバレバレだろ。
「何の目的かもアタシ分からないんだけど?」
「俺と笠木では目的が異なるが、その紐の通り笠木の目的は恐らくもう達成できてるはずだ」
田中は何か思い出すように首元を傾げるが、少し間を置いて笠木の言葉を思い出したように白い紐に再度目を配らせる。
「まぁ、雪に関してはアタシが言い出しづらい雰囲気作ってたしアタシも悪いとは思う、ただアンタと雪の目的が違うってのが分からないんだけど?」
「俺の目的は、宿泊研修の時の話だ」
「はぁ? 何で今更宿泊研修の話が出てくんの?」
俺には田中の疑問符の意味が分からない、あれが全ての始まりなのはお互いに分かり切っているだろう。
「宿泊研修の時、俺が田中を助けるために笠木を探しに行ったんじゃないって事だ、そのまま間違った形で笠木に伝わり田中を勘違いさせるような結果になったろ? そこで否定出来ずズルズルとしてしまい今に至る……すまん」
俺は田中へ向きなおし頭を下げるが田中からの返答は頭上から降り注がれることはなかった。俺が頭を上げると、田中はどうやら話が分かっていないようで先ほど同様に首を傾げていた。
「……なんとなく言いたい事は分かるんだけど話食い違ってない?」
「え?」
田中は溜息を吐いて、手元の紐から俺の方へ視線を移すと、一つの質問を投げかけてくる。
「アタシから一つだけ質問、これだけは正直に答えて」
「あぁ」
話が食い違っていると言えば、そう感じるがどこで拗れているのか現段階では分からない、ただ、俺は田中の質問に偽りなく答えなければならない事だけは分かる。
「アンタは雪と付き合ってんだよね?」
田中の質問内容があまりに俺の予想だにしない答えで時が止まったように感じる中、俺は田中の質問に真髄に答えよう、そしてその答えは田中が予想する答えでは無いのも確かだ。
「いや、付き合ってないが……」
「やっぱ話食い違ってるじゃん……」
その言葉で俺も田中が何を勘違いしているのか理解した。田中が勘違いをどのタイミングでしていたのかは知らないが決め手は笠木が、俺と田中の約束に顔を出した事だろう。
という事は俺と笠木の謝罪の理由についても白紙のままという事になる。
「とりま、後でアンタと雪から話聞くかんね。質問二つ目つか一つ目の延長だから答えて、アンタは雪だけじゃなく誰とも付き合ってないって事でいいんだよね?」
「お、おう」
現段階で俺が付き合える人間など、この世には存在しない。
いや、もしかしたら藤木田と黒川は俺を受け入れる可能性がある、うん。
……冗談で内心考えて見たけど、このまま進むと俺は友情エンド直行なのが少しばかり悲しい。
「一先ずアタシが思っていた最悪のパターンじゃないって事だけは分かった、アンタが何に対して謝罪したいか知らないけど時間ないから、これ付けて」
田中の手のひらには、笠木から渡された白い紐が乗せられている。今の俺にこの紐を結ぶ権利など在るとは思えない。
ただ、『頑張れー!』と書かれた文字が田中に宛てられた言葉でも、その言葉に俺も乗っかろうと思う。二人三脚が終わった後に俺が頑張らなきゃならないのは確定しているのだから。
無言で俺は紐を受け取り、田中と俺の足を固定するように結ぶ。
「キツくないか?」
「平気、てかアンタ結ぶの下手じゃない? なんかぼろ布巻いてるみたいなんだけど……」
「不器用なのは分かりきってるだろ、器用じゃないから俺は失敗もするし嘘も吐く、上手い事やれる人間なら陰キャなんてやってねーよ」
「うん、知ってる」
紐を結んでいるから田中の表情は分からない、ただ先ほどよりも柔らかく懐かしささえ覚える声色なのは間違いようがない。
「ただ……それでも今はこの紐を巻けて嬉しいと……いや嬉しい」
「アンタにしちゃ、よくできましたって感じ」
そう言って田中は俺の頭を二回ほど手を乗せるように叩いてくる。前までは鬱陶しいし恥ずかしさも感じる行為だったが、今は少しだけ心地良い。
「そんじゃ、二人三脚とか初だけど雪に任された以上は一位取っからアンタ本気でやんなよ?」
「え? 流さないのか?」
「いやアタシ負けるの嫌いだし、マジで勝ちに行くけど」
どうやら、田中同様に俺も少々体育祭の熱に当てられているらしい、何より体育の時間だけとはいえ練習した事を無駄にする気はない、それにここまでは過程は違えど悪くない結果だ。
このまま波に乗り一位を掻っ攫う事など造作もない。 たまには俺の真価を魅せてやるのも悪くはない。
明日で体育祭編は完結となります><
次は〇〇〇〇〇編です!!!!




