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秋愁のカーテンコール

 校舎内は体育祭なのが理由なのか普段は感じられることのない静寂が到来していた。体育祭が始まって間もない事から、殆どの生徒は校舎内にいる理由が無いのだ。

 恐らく体育祭に興味の無い俺のような人間はいるのだろうが、そういった生徒は騒ぎ立てる事もないので居ないのと同義だろう。


 俺の立たされている状況は密会という言葉を当て嵌めるのが正しいのだろうか? 校舎内の雰囲気に後押しされながらも、誰にも聞かせないように笠木が配慮した事。

 その配慮に応じた俺が笠木に会いに行くという行動は他に言葉を探しても当て嵌めようがなかった。


 上履きを履き替え、教室へ一番近い階段を昇る、廊下の窓からグラウンドを確認すると短距離走が終わり藤木田の出番である借り物競争の準備が行われていた。

 何気なく藤木田の姿を確認しようと思ったが、有象無象の人々に紛れては探すのも一苦労だと考え教室を目指す。


 相変わらず二階に着いても人の気配は感じられないが、イマジナリーフレンドと会話をするように笠木の独り言が響いてきたらそれこそ静寂よりも違和感が強い。


 こうして俺が余計な事を考えるのは一種の逃避行為なのだろう。現実と向き合うと決めてはいるもののそれで恐怖や不安が拭えるかと言えば、答えは否だ。

 むしろ真正面から人生を進む方が障害は多いはずだ、障害が多いという事はそれだけ不安や恐怖と対峙し戦う機会が多いと言える。


 廊下に響いているのは俺の足音、そして一年四組の教室では笠木が俺の足音の音量が大きくなるのを待っているのだ。

 笠木が今更俺を呼び出した理由は分からないし検討も付かないが、田中関連の事である事は間違いがない。


 教室の前方のドアを開け、窓際最後方に座る笠木と視線が交差すると笠木は何もない窓の外へ一度だけ目を向ける。

 呼び出したのは笠木だが、俺から話しかけた方がいいのだろう。


「遅くなってすまん」


 正直、遅れたと言う程の時間ではないが、社交辞令やテンプレのように会話を切り出すと笠木は五月の頃に見た疲れ切った表情をしつつも俺が隣の席へ腰かけるのを待っているようだった。

 わざわざ離れて会話をする理由もないので、いつも通りの俺の席へと腰掛ける。


「急に呼び出してごめんね、驚いた?」

「驚かなかったと言えば嘘になる、あの件以来あからさまに避けられてたからな」


 笠木は疲れ切った顔をしながらも笑顔を作り弁明とも取れる言葉を放ってくる。


「避けていた……つもりは無いんだけど、どこから喋ればいいか分からなかったからかな?」


 それを世間では避けていたと言うのではないだろうか? 陰キャの俺が細かい事を気にしすぎなのだろうか? しかし今回呼び出された理由を早く知りたいので会話に鞭を入れる事にする。


「それで呼び出した理由が俺にはまだ分かっていないんだが?」

「あっ! そうだよね、木立くんが今後どうしたいかを聞きたくて」


 自分と田中の問題では無く、俺の今後について切り出す辺り、笠木の中の優先度は変わらずに自分より他者にあるのだろう。


「どうするも何も陰キャとして、これまで通り学校生活を隅っこの方でぼちぼち過ごすだけだな」

「そういう事じゃなくて綾香との関係の部分かな」

「避けられてるのは目に見えて分かっているが、新たな目的の為に田中とは関わりを持つ必要がある、だが俺の事よりも笠木も解消しなくちゃならない事があるように見える」


 俺にしてみれば、現状だと俺の事は既に片付いていてロリ子に言われた通り、笠木と田中の関係を修復する事が優先なのだ。

 しかし、その部分に触れるとなると必然的に田中との関わり合いが不可欠でもある。まったく自分の始末といえ、難儀である。


「……そうだね、お互いに一歩引いたような感じがしてモヤモヤするかな」

「笠木はこれまで通りに田中と仲良くしたいんだろ? 笠木が俺の共犯者になった理由は全てを上手く解決へ導くという目的があったからと認識しているが間違いないな?」


 笠木は俺と視線を合わせて会話していたが、疲れたのか表情を俺に隠したいのか机に上半身を預けるように腕を顎に宛がい項垂れるような体勢になる。


「うん、嘘から始まった綾香の恋は私には歪に見えたからかな、原因は私だけどね……」


 笠木の目的は当初から変わらずに、田中が嘘を土台にした好意を再確認出来る機会を設ける。

 そして、俺が自分を犠牲にする事なく田中の好意に答えを出す事、そして嘘を吐いた自分の保身である。


「笠木のは嘘じゃなくて勘違いだろ、嘘を吐いたのは否定を即座にしなかった俺の方だ」

「それでも私が――」


 この流れは何度も行った、この会話に答えを導き出す力はない。だからこそ違う切り口で進める必要がある。ハリボテは斬り捨てる。


「それはもういい、俺達は二人とも罪人であるという結果しかない。俺がしなければならない事は笠木と田中の関係の修復であり、その為に田中と再度関わりを持つ事だ」

「私と綾香の関係を木立くんが、何でそこまで気に掛けるの?」


 そう言われると少し理由としては弱いが、ロリ子との件もあるし自分自身の後始末をするだけだ、その後に田中が俺と関わりを絶つのは構わない、いや……仕方ないのだ。


「元々あった関係を壊したのは俺が原因だからだ、これだけは何と言われようと俺がすべき事だ、というわけで笠木には苦労を掛けるし、笠木の努力を無駄にする事になるだろうが……」


 笠木は俺の言葉の意味が分からないといった表情をして机に預けていた上半身を上げて俺の方へ向き直る。

 この言葉だけで理解をしていたなら笠木はエスパーだ。しかし生涯、演劇部にだけは入るなと言われている俺には出来ない事がある。そこで共犯者として笠木に最後の役目を果たしてもらおう。


「荷が重いかも知れんが、今後の俺達の為に泣いてくれ」

最後までみていただきありがとうございました!!!明日もお楽しみにしていただけたらハッピーマン!

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