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やがて馬車が王宮に着きました。
公爵が先に降りて公爵婦人の手を取ります。アナベルはその後ろからしずしずと馬車を降ります。
……夜の王宮も中々ね…。
王宮を見上げると、窓から漏れる光にぼんやりと包まれていて幻想的でした。
案内係の後に続いて中に入ります。夜会が行われているホールは少し離れているようです。と、向こうからステファンが歩いて来ました。アナベル達は立ち止まって主君への礼をします。
「公爵、堅苦しい礼はやめてくれ。私は君たちを歓迎したいんだ。よく来てくれたな、ありがとう。」
「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。」
「今日は公爵夫人もいるのだな。」
「ええ、お久しぶりでございます。殿下。」
「殿下、今日はアナベルのエスコートをしてくださるそうで。」
「あぁ、そうだったな。」
ステファンが黙ってアナベルの方を見ます。
「…よく来てくれたな、アナベル嬢。」
「…本日はよろしくお願いいたします。」
アナベルはステファンと向かい合い、
「「………………。」」
二人とも気まずくて黙ってしまいました。
「あら、二人とも黙っちゃって、かわいい。」
あ、公爵夫人、口に出ていますよ。公爵に繋いでいる手をはたかれています。コホンと公爵が咳払いをすると、ステファンとアナベルの背筋が伸びました。
「アナベル嬢、今日はよろしく頼む。」
「よろしくお願いいたしますわ。」
ステファンが手を差し出し、その手をアナベルが取ります。
先頭には公爵夫妻。
その後ろにアナベルとステファン。
大理石の廊下を歩きます。
小声で、アナベルだけに聞こえる声で、ステファンが話し始めました。
「アナベル、今日のドレス、綺麗だね。レースが良いよ。」
「うふふ、ありがとう。最近うちの領地で作り始めたレースなのよ。」
アナベルも中々の小声。
「へぇー。でもレースは素敵だけど今の主流はフリルのドレスなんじゃないの?」
「そうよ。少し目立つくらいがいいの。公爵令嬢だもの、インパクトは大事よ。それよりステファン、あなた女性のドレスの流行なんてよく知っているわね。」
「母上がよく話すんだよ。毎回毎回ドレスやらアクセサリーやらを気にしていて。自分で決めることが多いからね。本当に女性はその辺大変そうだと思うよ。」
「そう、男性は大体着る物が決まっているから楽なの?」
「そうでもないよ。着る物が決まっている分、靴とかの小物に力を入れるんだ。」
「なるほど。まぁ女性も場合によって着ていく服のデザインは制限あるし。」
「そうなんだ。」
「うん、今日みたいな夜会の時は裾はボリュームがあって足先まで隠れる物。胸の周りが空いて、手袋もはめるの。夜会デビューのドレスは白と決まっているし。あ、昔は夜会デビューのドレスはもっと細かく決まっていたみたい。裾の膨らみ方とか、袖のこととか。」
「けっこう気を使うね。デザインは自由そうに見えてそうではないと。」
「そ。いかに凝るかがポイントなのよ。昼間のドレスは首までつまった上着で袖は七分以上はないと。スカートの膨らみは抑えて足首までの長さ。夜会用みたいな豪華な飾りは避ける。今は胸周りが軽くなっているデザインも流行っているけどカジュアルな時だけよ。王宮になんてもってのほかね。」
「あれ、この間のリリアーヌ嬢のドレスは胸周り空いてなかった?」
「ご名答。あの子、周りが見えないタイプね。あーゆーのは簡単には治らないのよ。」
「なるほど。気を付けないと。あっ、アナベル。もうすぐ会場だよ。」
ホールの前まで来たようです。ちょっとした緊張が走ります。
会場にアナベル達の訪れが告げられて、アナベル達は中に入って行きました。
……綺麗。
大きなホールに光輝くシャンデリア。赤い毛足の揃った絨毯に女性達のドレスの花が咲いていて、そこはとても美しい場所でした。
……うわぁー、めっちゃ見られてる。隣にステファンがいるから余計見られてる。
しかし、そこに渦巻いているのは人々の感情。居心地が悪くなる目線がビシビシアナベルを刺していきます。
……たえろ、私。たえるんだ!ここで負けたら王族の許嫁の公爵令嬢という名に傷がつく!!
アナベルは微笑みの表情を少しも崩さずに歩きます。そして聞こえる人々の話し声。
「まぁ、クラルティ家の皆さんよ。」
「今日はお嬢さんのデビューみたいね。」
「そしてそのエスコートがステファン殿下。さすが許嫁さんね。」
「なんか力の差を感じるわ。」
「そうね。でも、二人ともとても仲が良さそうだから自然にも感じるわ。」
「それにしてもドレスのレースが多すぎじゃない?奇抜よ。」
「でも流行とは違うだけで問題なさそうよ?」
「むしろ素敵だわ。」
……反応は大体想像通りね。
アナベルは耳に入る情報をしっかりと刻み込みます。
アナベル達は王様達のいる所まで来ました。ステファンはアナベルから離れて父親に並びます。
礼をして公爵が招待への感謝の気持ちを述べ、王様はそれに答えます。そして今度は王妃様に自分の娘が夜会デビューする旨を伝えます。アナベルは膝を軽く折って深く礼をします。
王妃様はにっこり笑って口を開きました。
区切りが中途半端ですみません。アナベルもステファンも教養としてお互いの服装の知識を知らないことはないのではと後から気づきました。ワタシナニモシラナイ。