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投稿遅くてすみません
アナベルが公爵邸に着くと、侍女が出迎えてくれました。
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「ただいま、メアリー。お父様は?」
「今日もお仕事で忙しいそうで、先に夕食をとるように、と連絡がございました。」
「そう、あまり無理をして欲しくないのだけれど。」
「あと、お嬢様がお帰りになったら来て欲しいと、シュゼット様が。」
「なら、今行きましょう。どうせ、今日のドレスの様子も見たがるだろうし。」
「かしこまりました。」
メアリーと共にアナベルは屋敷の一室に向かいます。その部屋は屋敷の奥まったところにありました。メアリーがノックをして入ります。
「シュゼット様、失礼します。お嬢様をお連れしました。」
「ごきげんよう、シュゼット。あなたの声が部屋の外に漏れていたわ。この部屋の扉の意味があるのかしら?」
部屋の中では十人弱の女性が布やらハサミやらピンやらを持って騒いでいました。話し声でノックは聞こえなかったようでしたが、さすがに人が入ってきたことには気が付いたようです。
「ごきげんよう!お嬢様!!だってもうすぐお嬢様の夜会デビューですもの!ドレス作りに力が入りますわ!そして、今日もパーティーだったそうですわね!あぁ、見せてくださいな。やっぱり素敵、夜会用のとは違って露出も少ないし、地味目のドレスだけど、お嬢様が着ると違いますわー!!」
赤毛のボサボサ髪の女性がアナベルにしゃべりかけます。赤い艶やかな縁取りの眼鏡が彼女の怪しい雰囲気をプラスしています。あっ、よく見ると糸屑が髪についてる。
「あらあら、シュゼット、落ち着いて。私はまだここにいるから。それにせっかくだからドレスを見せて?でなきゃあなたにここに来てもらっている意味がないもの。」
自分にすり寄って、上から下まで見つめようとするシュゼットをアナベルはとどめると、話を振ります。
「はい!そうでしたわね!お嬢様、見てください!形はほとんどできておりますわ!これで完成にでもしてしまいたいですが、もっと色々微調整したいと思っておりますわ!そこで、お嬢様!このドレスを今、着ていただけません?より細かな調整ができますもの!」
シュゼットが指し示す先には一体のマネキンが置いてあり、白いドレスが着せられています。
「ええ、いいわよ。」
アナベルが今まで着ていたドレスを脱いでそのドレスを着ると、シュゼットとその仲間達が群がってチクチクドレスをいじり始めました。アナベルはじっとしてされるままです。
「あっ!お嬢様!今日のドレスの感想聞かせていただけますか?」
「…そうね。やっぱりピンクでさらに刺繍っていうのは私らしくないかもしれないわ。可愛いらしいのには違いないのだけれど。」
「確かにお嬢様は清楚系とかおとなしい物がお好きですわよね!今回使った生地の色はくすんでいましたけど、それでも派手ございました?」
「そこまで派手ではないの。だけど…、その…、私には可愛い過ぎるような……。」
「そうですか?そんなことはないと思いますわ。メアリー!あなたはどう思う?」
「…そうですね。私は問題ないように思います。アナベル様は公爵令嬢でございますから、地味過ぎるのもよくないかと思いますし。」
「だそうですわ!お嬢様!可愛いい方がいいですわよ!!」
「…わかったわ。スカートに仕立て直してくれる?それなら気後れせずに着られそう。」
今日着たドレスの話がまとまり、アナベルは自分が今、着ている夜会デビュー用の白いドレスを眺めました。
……やっぱ、綺麗なんだよなー。
ドレスは胸元から裾まで花柄のレースがびっしりです。
……あんまり豪華なのも嫌だし、低予算だと公爵令嬢のドレスとして好ましくないし、レースならいいかなーとか思ったけど、結構目立つかも。今ってたっぷりフリルのドレスが人気らしいし。
「んー。ねぇ、シュゼット。すごく今さらなんだけど、本当にドレスのデザインこれで大丈夫かしら?悪目立ちしない?」
「大丈夫ですわよ!むしろ、お嬢様のドレスが最先端、流行を生み出しますわ!きっとすぐに社交界の華になれますわ!」
「昼間のパーティーですでに華扱いされることが多いんだけど。」
「いいじゃないですか!それにこのドレスは私の自信作ですわ!公爵邸に泊まりこんでまで作っているんです!ご安心くださいませ!」
「わかったわ。あなたの力を信じるわよ。」
「はい!!」
アナベルはそっと目を細めてシュゼットを見ます。
……シュゼットとの付き合いも長いわね…。
シュゼットは元々老舗の服飾店で修行をしていました。その頃の付き合いでアナベルは小さい時からシュゼットにお世話になっているのです。
「お嬢様。今回の夜会デビューは私の独立して初めての正式な職人デビューのようなものでもありますわ。気合いを入れていきますわよ!」
シュゼットが力のこもった目でアナベルを見つめます。彼女は自分の好きな服が作りたいと弟子入り先の店から独立し、親しくしていたアナベルの家を頼って泊まり込みの大仕事をしているのでした。
「そうね。堂々といきましょう。」
アナベルはシュゼットをしっかりと見つめ返しました。
……さぁ、これからだ!私の公爵令嬢人生は始まったばかりだ!
そんな今の彼女の頭の中では許嫁の第二王子の存在なんて忘れられています。彼女の見つめる先には女の戦場があるのです。
忘れられてた許嫁がその後、アナベルのところに遊びに来ると連絡があると、彼はようやくアナベルの頭の中に戻ってこられるのでした。