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緑の芝生。色鮮やかな花達。小鳥のさえずり。暖かな日が射しているバレーヌ公爵邸の庭ではカトレア嬢主催のお茶会が開かれています。流石公爵家、庭が広いです。百人近くの令嬢達が集まる茶会は大規模で、公爵家の力の強さを感じられます。
アナベルもその中にいました。沢山の令嬢に囲まれて、今日も猫をかぶっております。
……めんどくさー。
いつもと同じことを考えながらアナベルはクッキーを口に運びます。
ふと見ると向こうからカトレア嬢がやって来ます。
「ごきげんよう。アナベル様。」
「ごきげんよう。カトレア様。招待してくださってありがとうございますわ。」
「いえいえ、私はアナベル様とお話したかったの。前に座ってもいいかしら?」
「えぇ、どうぞ。」
それから二人で他愛もないおしゃべりをしました。
しばらくした後です。
「ねぇ、アナベル様。あなたはステファン殿下のことをどう思っているの?」
「…あら。えぇ、まぁお慕い申し上げておりますけど。」
……いけない、いきなり話を変えられたから動きが一瞬止まってしまった。
「そう。それは良かったわ。」
カトレア嬢の口元がゆっくりと綺麗な弧を描きます。
……何?何を考えているの?
「カトレア様、何故そのようなご質問を?」
「あら、アナベル様が嫌々許嫁や婚約者候補にさせられていたらと、ふと思っただけですのよ。」
……えっ!?
アナベルはそのカトレア嬢の言葉に少しドキリとしました。
「私は今の立場に誇りを持っていますわ。楽しくないことの方が多いですし許嫁なんてやめたいと思ったこともあります。それでも、嫌いになれないんですのよ…。」
……いけない、慌てていたせいで思ったように言えない。
「なるほどね。それで?どうなの?」
「それでというのは?」
「あなたは殿下の許嫁よね?許嫁でいて幸せ?」
……それははっきり言える
「幸せですわ。」
「…。へぇ。」
……カトレア様、気を悪くされないかしら。彼女も婚約者候補だもの。ステファンを慕っていて当然よね?
「もっと詳しく聞かせてほしいわ。」
「許嫁というのは幼少の時より厳しく教育されるといわれていますが、公爵家に生まれた私にとって教養は許嫁だろうがそうでなかろうが厳しく行われるものです。カトレア様もそうでしょう?」
「そうね。で?許嫁は教養以外にも負担が多いと聞くわ。それでもあなたが幸せなのはなぜ?」
「相手との相性が良かったからですわね。立場上、殿下とは小さい頃からあっておりました。その中で私は恐れ多くも彼の隣にいることを心地よいと思うようになってしまいました。立派な許嫁であれば殿下の隣にいられる。そのような思いがあるので許嫁であることが私にとって幸せなんですわ。」
……あれ、思っていたよりも口が回る。というか私はそんなこと考えていたのね。さっきまではそこまで意識していなかったけど、改めて口にするとはっきりそう思える…。隣が良いだなんて。本当に…
「…子供のような浅はかな動機です。」
そうアナベルが言い終わると、カトレア嬢はアナベルの目をじっと見たあと、何か納得いったように頷きました。
「アナベル様、これからも私と仲良くしていただけるかしら。」
「えぇ、勿論ですわ。」
「それと、アナベル様。私は子供っぽい考え方も嫌いではありませんわ。」
そう言ってカトレア嬢は他の令嬢達のところに向かいました。
その後、お茶会でアナベルとカトレア嬢は一言も話しませんでした。
……そういえばリリアーヌ嬢は呼ばれていなかったのね。
お話のまとめ方に迷ってネタがなかなか決まらないものです。