このお話のあらすじと設定を二人の会話と交えて
お話の設定です
「ねぇ。ステファン」
「なんだい?アナベル?」
「なんか突然ね、思ったの、私貴方の許嫁で良かったわ。」
「それは本当に突然だね。まぁ、僕も君のような立派な人が許嫁で良かったよ。」
一組の男女が話していました。
男の名をステファンといい、二人の住む国の第二王子です。
女の名をアナベル=クラルティといい、実力のある公爵家のご令嬢です。
「あら、嬉しいわ。実はね、少し昔の事を思い出してたの。」
「へぇ。どれくらい前の事?」
「六歳ぐらいの時。それまでずっと友達としてみていたあなたの事を初めて許嫁として、男の子として意識して、自分でとっても恥ずかしくなっちゃって、いつものように遊びに来たあなたを直視出来なくなってしまった時の事。」
「…なんか昔の事を聞いてるはずなのに、自分の話じゃないのに、妙にむず痒くなるんだけど。」
二人は許嫁でした。
「そう?それでね、覚えてる?恥ずかしがって隠れている私を見てあなた、心配してくれたのよ?どうしたのかって。なんか悪いことしたかって。」
「そりゃあ。そうなるだろう。いきなり仲良しの子にそんな事されたら。…まぁ、あんまり覚えてないけど。」
二人は産まれてから一歳にもならない内に許嫁になりました。なので幼い頃から交流していました。幼なじみです。
「そうなの?でね、私が恥ずかしがっている理由を話したらあなたなんて言ったと思う?」
「気にすんな!とか?」
「残念!『アナは僕の許嫁は嫌か?』って言ったのよ。で、『そんなことない。むしろステファンと仲良しになれて良かった。』って返したら『ありがとう。』といって私のおでこにキスしてくれたのよ。思い出した?」
アナはアナベルの愛称です。
「…なんとなく。そんなこともあったのか。というか僕はそんな恥ずかしいことしてたのか…。」
「子供らしい、かわいらしいことだと思えば素敵じゃない?」
「そう言ってしまえばそうだけど…、自分のやったことだから他人事に出来ないのが辛い。第一、許嫁だからといって将来必ず結婚するとは限らないんだよ。よくやるよなー。」
「あら、ステファン、あなた私と結婚するのは嫌かしら?」
「いや、そうは言ってない。」
この二人にとって許嫁とはこの国での少し変わった制度の事です。
許嫁は基本的には男女二人の子供が将来夫婦になることを親が決めることです。そしてこの国では王族の子供が産まれた時にのみ決められます。
「まぁ、別にあんまり気にしなくていいのよ?気になる女の子がいたらその子と婚約してもらって構わないんだからね?」
「…わかっているよ。ただ、そういう子がいなくてね。というかアナベルだって別に誰かと婚約していいんだからね?国はある程度愛のある結婚を求めているからね。許嫁だからといって無理しなくていいんだからね?」
しかしこの国で、許嫁は、本人達の意思でそれぞれ別の異性と結ばれることができます。最終的に婚約した相手と結ばれるのです。許嫁の目的としては王家の血が絶えることがないように王族の子供に異性との交流になれてもらうこと、そして王家が恋愛結婚による没落を防ぐためです。
「知ってるわよそれくらい。この間もとある伯爵令嬢に、ステファン様を許嫁の力で無理矢理独り占めしている、殿下が可哀想だと正面切って言われたわ。」
「へぇ、なんか女の人って付き合いが面倒くさそうだね。」
一応この国では政略結婚よりも恋愛結婚が良いとされています。その方が本人達が幸せになって上手くいくからだそうです。しかし、王族が結婚した相手が王族として振る舞うのにふさわしく無いことをし、その伴侶も見逃して甘やかすようなことがあると困ると何代か前の王様は考えました。
「当たり前じゃない?まぁ、でも公爵令嬢に産まれたからには頑張らなくちゃ。それにあの子結構金遣い荒いって噂よ。」
「じゃあ気を付けないとね。交流お疲れ様。」
恋愛結婚云々以前に結婚する相手にそれなりに相応しい人間でないと困るのは王族だけでなく貴族達にも言えることですが、いざとなれば貴族はお家取り潰し出来ます。しかし自分達王族はそうもいかないとその王様が思い付いたのが許嫁です。
「どうも。王族の許嫁という地位をいただいているからには気が抜けなくってね。お陰様で笑顔という名の仮面にかなり磨きがかかったわ。」
「あぁ、アナベルの外向きの顔は凄いと思うよ。外で会うアナベルと今、僕の目の前にいるアナベルは同一人物とは思えないよ。なんか完璧すぎる笑顔だもの。」
あらかじめ親がふさわしい貴族の子と許嫁の関係にさせておけば、子供はお互いを意識せざるを得ないし、仮に別の人と結婚してその人が王家にとってふさわしくなくても、本来その子の仕事であることを許嫁にやらせれば、本人達に打撃となるのではと。
許嫁になる家にはそれなりの実力も求められるし、許嫁になった子供の教育にも手が抜けなくなって、貴族達の気を引き締めさせるのにいいのではと。
「…褒められているのよね?それならステファン、あなたの仮面もなかなかのものよ。女の子達が目をハートにするのも理解できるわ。」
「そうかい?特訓の甲斐があったな。まぁ、笑顔は社交に必須だよな。好印象だしね。二人して笑顔が完璧なら他の人からは仲良く見えるのかな?」
なんだかんだでふさわしい人に国政を任せられるし、子供を許嫁にするという新しく魅力的な貴族の実力の認め方が生まれて一石二鳥ではないかと。
「きっとそうよ。この間、とある侯爵令嬢に言われたの。『お二人はいつも微笑みあっていて仲が良さそうでとてもお似合いですわ!』ってね。お似合いって言葉が私には許嫁として褒め言葉よ!」
「良かったね。今までの苦労が報われたような気がするね。まぁ、気は抜けないけど。」
許嫁の二人はお互いのことをよく理解していました。
「そうね、気が抜けないのは辛いけど…。」
「でも、僕はアナベルのこと、嫌いじゃないよ?」
「あら、私もよ?」
二人は仲がよく、結婚も満更でもないと思っています。
「しかしなー。さっきの思い出話だけど、僕達もそんな初々しいことしてたんだね。」
そうです。一応両思いですが今の二人からは初々しさがこれっぽっちも感じられないのです。
「長い付き合いだもの。…というかあなたいつから私のこと愛称で呼ばなくなったの?」
「…さぁ。でもなんか外で愛称で呼んだらなんか言われそうな気がしたんだよね…。許嫁だからってイチャイチャしやがって、婚約者じゃないのに、俺達には高嶺の花なのに、という視線が痛くてね…。」
「なるほど、それで少し他人行儀になったわけね。そして、私はちゃんと公爵令嬢になれているのね。お互いに人付き合いが大変ね。そしてこれがまだ夜会デビュー前だと思うと気が沈むわ……。」
「本当、気ばっかり使って疲れるよな…。」
原因は二人の付き合いの長さと社会的な苦労のせいでした。
お互いまだまだ若者ですが、気分はベテラン夫婦です。
そんな二人とその友人達のお話。