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抗いのヒストリア  作者: ピチ&メル/三丘 洋
動乱の兆し編
70/72

王宮と、晩餐会と

書籍化が決まりました。

詳しくは活動報告にて。

 翌日。 

 王宮側で用意された馬車に俺は一人で乗せられていた。

 黒塗りの客車はとても大きく、内装もレースのカーテンに道の凹凸も気にならない柔らかい椅子など、俺が前世、今世と乗ってきた馬車とは雲泥の差だ。

 この馬車を俺一人が使用しているのだからとんでもない贅沢である。 

 

 ちなみに今の服装は制服なのだが、胸元には士官学校の校章や普通科士官候補生の位階を示す金属製の徽章。そして肩章もぶら下がっている。

 これ、一つ一つが小さい割には意外と重量があって、地味に肩が凝る。

 朝からやって来た士官学校の職員の手で身支度を整えられたのだが、髪油でバッチリ髪型を整えられた俺を見てチットなんかは爆笑していた。

 まあ、俺も我が事ながら似合ってないと思うので、後でいっぱつ小突くくらいで許してやることにする。


 士官学校を出た馬車は王都のメインストリートを進むと、晩餐会開始時間二時間前には王宮へと到着した。

 王宮の正門前には、他にもたくさんの馬車が列になって停車していた。

 どうやら一台ずつ馬車の持ち主と客車の中を確認していて、その順番を待つ列のようだ。

 ちなみに俺の乗る馬車は王宮が用意した賓客用のものなので、なんとかなり前の方の列に割り込ませてもらえた。

 最優先にならなかったのは、俺の乗る馬車よりも大きくて豪華な馬車が優先的に王宮へと入って行っていたから。

 あれはきっと大貴族の家の馬車なのだろう。


 それでも十分程度待っただけで王宮内へと進むことが許された。

 正門を潜り石畳の道をしばらく進んだところで。


「ここからは徒歩で参られてください」


 御者に降車するよう促され馬車から降りてみると、そこは王宮内にある庭園の入口だった。

 丁寧に刈り込まれた芝に庭木、そして季節の花々が咲き乱れている。

 とにかくやたらと広い。士官学校にあるコロセウム、いや街の一区画くらいは余裕であるかもしれない。

 その庭園の中を伸びる小道を着飾った人々がゆっくりと歩いていて、大混雑だった。


 とにかく人の流れについて行ってようやく王宮の中へと入り一息つく。 

 晩餐会の時間まではまだ一時間もあるので、会場の大広間にはまだ入れない。

 貴賓室が用意されている大貴族以外は、その手前のホールで待つようだ。

 それにしてもこう人が多いと、晩餐会が始まる前から疲れてしまうぞ。


『イオ! こっちこっち!』


 ルーシアだ。

 俺を見つけたルーシアは、人の波に逆らうようにしてこっちに来る。

 ただ、森の奥深くの村育ちのせいか人混みをかき分けるのが不得手らしく、ようやく俺のところまでたどり着いたときには軽く息を切らせていた。


『本当にものすごい人混みね』

『国王主催の晩餐会だからね。主だった貴族や名家の人間が大勢呼ばれているんだろうな』


 ルーシアは慣れないリヴェリアの言葉でなく、エルフ語で話しかけてきた。

 貴族の集まる場所で失言をしないよう、慣れた言葉で話したほうが良いと思ったらしい。

 俺もルーシアに合わせてエルフ語で話す。


『ルナは?』

『私たちとは別に会場入りするそうなの。イオがそろそろ来るかなと思って、支度の終わった私だけ先にこっちに来たのよ』


 王宮の女官に着付けてもらったのだろう。ルーシアは正装をしていた。

 銀色の長い髪は結い上げられて、エメラルドをあしらった髪飾りを挿してまとめている。

 ドレスの生地は光沢のあるエメラルドグリーン。ルーシアの艷やかで白い肩が見事に露出していて、艶めかしい。 

 もともと細身のルーシアなのだが、腰をさらにきつく締め上げているせいで、豊かな胸と腰のくびれがより強調されていた。

 容姿も優れていて抜群のスタイルとなれば、男性たちの視線が集まるのは必然というもので、結果、御婦人方も羨望と嫉妬の眼差しを彼女へと向け――。

 

 居心地が悪いのか、ルーシアが俺へピタッとくっついてくる。

 となれば、俺へも好奇の視線が向くわけで――。


「あれがルナレシア殿下と共に、バーンズ伯を失脚させたという学生か」

「失脚させたと言うかその場に運良く居合わせた、が正しい。突如現れた竜にバーンズ伯の船が襲われた所に偶然居合わせた事で、伯の悪事が露見したそうだ」

「ほう……では、手柄を立てられたのはルナレシア殿下であって、あの者ではないということですか?」

「うむ。殿下の伴をしていたおかげで、こうして陛下の催される晩餐会に招待されるという栄誉を授かったというわけだ」

「ははは、運の良い事だ。私もあやかりたいものですな」

「ええ、まったく」

「はっはっは」


 暇を持て余す貴族たちの話題の種になっていた。

 本人たちは小声で話しているつもりかもしれないが、十分俺の耳に届いている。

 俺はルナレシアの立てた功績のご相伴に預かった運の良い学生と見られているということか。

 でもそのおかげで、ルーシアの引き立て役と暇つぶしの話題の種として多少視線を集めたものの、それ以上俺に強い関心を示す者は見られなかった。



 ◇◆◇◆◇



 晩餐会の開場時間となって、大広間に人がゾロゾロと入っていく。

 ただ、あまりにも多すぎるため全ての客たちが大広間に入れるわけではないようだ。

 広間へ入れる者は領地を有する大貴族や諸外国から訪れた賓客、そして特別な招待を受けた者たちだけらしい。

 領地を持たない名ばかりの下級の貴族は、別の広間へ案内されていた。


 俺とルーシアは国王陛下に招待されているので、大広間に入る事になる。

 綺羅びやかに着飾った貴族たちに続こうとしたところで、彼らを眺めていたルーシアが俺に振り向いた。


『こうしたパーティーでは、男性が女性をエスコートするものなんでしょう?』


 小首を傾げてイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 確かに周りを見てみれば、夫婦や恋人同士なのか腕を絡めて歩く男女の姿が多い。

 ふむ、ルーシアの冗談に付き合うかな。


『それでは僭越ながら私めが、エスコートの真似事をさせていただきましょうお嬢様』


 すまし顔を作って腕を差し出すと、ルーシアがスルリと手を絡ませてきた。

 彼女の柔らかい感触、温かい体温が伝わってくる。


 大広間の中はとにかく絢爛豪華の一言だった。

 高い天井には名のある画家が描いたであろうフレスコ画。真っ白で太い柱には、精緻な彫刻が刻まれている。毛脚の深い絨毯は歩く度にフカフカとした心地よい感触を伝えてきた。


 ダンスを踊るための場所なのか大広間の中央を空けるようにして円状に並べられた大きなテーブルには、幾つもの大皿が載せられ、国中から集められた高級食材を使った料理や山海の珍味がふんだんに盛られている。

 そしてその奥に一段と高くなっている場所があって、中央に玉座とそしてその玉座を挟むようにして二人の王女が座っていた。

 一方は真紅のドレスを着ていて、もう一方は水色のドレスを着ている。

 俺たちの所からだと少し遠すぎて、どちらがルナレシアなのかよくわからないな。


『どっちがルナさんでしょう? 双子でも二人はバディなんだからそれくらいわかるわよね?」

 

 ルーシアはルナレシアと一緒に着替えたので、ドレスの色でわかるのか、

 …………。


「イオニスの名において命ずる。我に与えよ、天上より見通す眼を――『千里眼(ヴィネ)』」

『あ、それズルい……』

『左側がルナだな』


 左側に座った、水色のドレスを着て控えめな微笑を浮かべているのがルナレシアだ。


『むぅ……当たり』


 正解だった。

 こっちに気がつくかな? 

 そう思いながら見ていると。

 あ、目が合った。

 そして満面の笑顔を見せてくれた。

 手を振ったりしないのは、王族が公の場で誰かを特別扱いするのはまずいからだろう。


「静粛に! 皆様方、静粛に! 陛下の御出座(おでま)しにございます!」

 

 王宮に仕える官吏の声が大広間に響いた。

 どうやら国王が来るようだ。

 大広間中の人々が居住まいを正し、一瞬にして静寂が大広間を支配した。

 程なくして玉座の横手から一人の男がゆっくりと歩いてくる。

 歳は三十前後くらいか?

 あれがルナレシアの父親、そして俺たちの王様か。


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