恩賞と、王宮からの招待と
更新に大きく間が空いてしまって、本当に申し訳ございません。
前にもあったとはつまり、アセリア中佐と初めて出会った時の事である。
あの時は応接室に呼びだされ、そこでアセリア中佐の操る木偶人形に襲われたんだ。
今回は応接室ではなくて学長室への呼び出しだけど、また襲われたりしないだろうな?
それにしても学長室に俺が呼び出される理由がわからない。
客観的に考えても素行不良、成績不振ってわけでもないし、俺のような一学生が呼び出される理由が思いつかない。
ただ、学長室へと呼び出されたのは俺一人だけじゃなかった。
「イオとルーシア様も呼び出されたのですか?」
「ハイ。二人がいて、ホッとしまシタ」
途中でルーシアとルナレシアの二人と一緒になったのだ。二人とも教練が終わるとそれぞれの担当教官から学長室へと行くよう言われたらしい。
俺たち三人が学長室へ呼び出される理由って何だろう?
俺とルナレシアだけなら、王女と俺がバディを組んでいる事で、なにかしら学長から注意事項を言いつけられるなど理由が思いつく。
でもここにエルフ族の里から留学しているルーシアが入ってくるとなると?
「カルネの町での一件でしょうか?」
ルナレシアが言うように、昨年の年末に俺たち三人で一網打尽にした奴隷密売組織の件くらいしか心当たりが無い。
「共通点はそれしかないかな? でもその件で学長がわざわざ俺たちを呼び出すような事ってあるのか?」
「ご褒美、貰えマスカ?」
「ああ、そうか」
リヴェリア王国内に住むエルフ族には自治権が与えられている。
生まれながらに優秀な精霊魔法士であるエルフ族との対決を避けるための政策なのだが、奴隷密売組織はそのエルフ族の里を主に狙って襲撃していた。そしてその組織の長がリヴェリア王国の有力貴族だった。
王国とエルフ族との間に大きな軋轢が生じかねないこの事件を、俺たち三人が解決したのである。
あの一件にはルナレシアが関わっていたことで王国軍も介入しているため、対外的には公になっていないが、上に出された報告書には俺やルーシアの名前も記されているだろう。
なにがしかの恩賞が貰えたとしても、不思議な話では無いかもしれない。
学長室を訪れると部屋の中では学長ともう一人、おそらくは王宮からの使者らしき男性がいた。
学長がにこやかな笑顔を浮かべて俺たち三人を見守る中、使者は俺たちそれぞれに一通ずつ書状を手渡した。
「畏れ多くも今上陛下より君たち三人へ御召しがありました」
招待状?
その言葉に驚いて書状を見ると、その封印の赤い蝋には王家の印章が押さえらていた。
◇◆◇◆◇
招待状は明日の夕刻より王宮で催される晩餐会への招待だった。
招待の理由は、やはりカルネの町で暗躍していた奴隷密売組織を壊滅させた功績への恩賞なのだそうだ。
ただ、奴隷密売組織の黒幕はカルネとその一帯を治めていたバーンズ伯爵だった事から、組織に貴族が関わっていたなどという醜聞を表沙汰にしたくない王宮は、表立って恩賞を俺たちへと与えられない。
またその一件に俺たち三人が関わっていたことを耳にした陛下が、興味を示しているそうだ。
そこで国王陛下が催す晩餐会への招待という名誉を授ける事を恩賞とすることにしたらしい。
学長と王宮の使者から聞いた話を要約すると、そういう事情だった。
前世ではもちろん王宮なんて縁が無かったから、俺が王宮へ上がるのは初めての事だ。
これはちょっとした良い機会かもしれない。
前世の内乱の原因は、王宮に仕える貴族たちが原因だった。
そいつらがどんな連中なのか見ておくのは悪くないだろう。
何しろ俺は、リヴェリア王国が割れる原因となった最大の要因である、宰相ライエル侯爵の顔すら知らないのだから。
学長室を退室したあとで、俺とルナレシアはルーシアを伴って寮の自室に戻っていた。
晩餐会なんてどのような格好をしていけば良いのか皆目見当もつかなかったのだが、どうやら士官学校の制服に儀礼用の装飾を施すだけで良いらしい。
その際には士官学校側で手伝いを寄こしてくれるそうだ。
まあ、当然だ。もしも身支度で粗相でもあれば、士官学校の対面に傷が付きかねない。
「それにしても明日とか、急な話だな」
「ルーシア様はドレスなんて用意されていないですよね? よろしければお貸ししましょうか?」
「ソレは助かりマスケド……」
「え? ルナのドレスじゃ、ルーシアとサイズが合わないだろ?」
背丈もだけど胸とか腰とか……。
「あ、いえ、もちろん私のではなくて王宮には緊急で必要になった時のために、何着かドレスが用意されてあるんです」
わざわざ言及しなかったけれど俺の一瞬の目線を追って、自分の胸部を見下ろし悲しげな顔をしたルナレシアが説明してくれる。
何らかの事情で急に王宮へ招かれた客へ貸し出すためのドレスが用意されているのだそうだ。
「明日の早朝に王宮から迎えが来るそうなので、王宮までご一緒しましょう」
「ハイ、よろしくお願いしますネ」
王女であるルナレシアは、当然王女として正装が用意されている。
ルーシアは士官学校生なので俺と同様制服に儀礼用装飾を施せば、それが正装として使用できるのだが、やはり女の子としてドレスで着飾りたいようだ。
ルーシアの顔が嬉しそうに綻んでいる。
容姿端麗なルーシアが着飾ったらどれだけの美しさになるか、俺もちょっと楽しみだ。
早朝か。女性の身支度には時間が掛かるからなぁ。
俺は明日の昼三時頃に王宮から迎えの馬車が来ることになっているが。
「じゃあ、ここから馬車で向かうのは俺一人か」
「そうですね」
一人で行くことになるとか、ちょっと心細いと思ってしまったのは秘密だ。
「でも……」
「どうしたんだ?」
ふとルナレシアが表情を曇らせた事に気づいて声を掛けた。
「あ、いえ、たいしたことでは無いのですが、私がお父様の催す晩餐会に出席しても良かったのかなって」
リヴェリア王国の王侯貴族の間では、双子は陰と陽に分かれていると信じられている。弟妹に生まれた者は、その身に穢れを宿しているとされ忌避されているのだ。
そのため双子の妹姫として生まれたルナレシアは、王国軍の一部に担ぎ出されるまで辺境の慎ましやかな修道院で隠遁生活を送っていたのだ。
「招待状があるから大丈夫なんじゃないの?」
「はい、それはその通りなのですけど。お父様の許しがあったとしても、貴族の皆様の中には私を見てきっと眉をひそめる方もいらっしゃると思います。その事が何かアセリアや私を支持してくださる方々へ不利に働かないかと」
「なるほど。ルナの心配もわかるけど、今回の晩餐会は表沙汰にできないカルネでの功績に対しての恩賞だから大丈夫だよ」
ただ、ルナレシアに対してそういう悪感情を抱く者たちがいるかもしれないのか。
だとしたらその者たちは敵に回る可能性が高いな。ちょっと注意することにしよう。




