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抗いのヒストリア  作者: ピチ&メル/三丘 洋
山岳踏破訓練編
27/72

訓練概要と、開始と

ちょっと説明会になってます。わかりにくかったら申し訳ありません。

 山岳踏破訓練のルールを確認しよう。

 参加者は初年度候補生(一年生)と二年度候補生(二年生)だ。


 一年生は竜騎科の上級生と竜騎士隊によって、訓練の行われる山岳地帯まで運ばれると、山林の中へバディ毎にバラバラに降ろされる。

 そして、そこから五日間という期限以内に目標地点に定められた村を目指して歩いて行く。

 二年生は、一年生が目標地点とする村まで連れて行かれて降ろされ、そこからバディで山の中へと入っていく。彼らの訓練目的は索敵。

 村を目指して歩く一年生を探し出す訓練だ。


 一年生と二年生は染色玉(カラーボール)を渡されていて、森の中で遭遇した際には互いに投げ合い、先に身体へ染色玉(カラーボール)を当てた方が勝利となる。

 その際、武器や魔法等を使った直接攻撃は禁止。防御、妨害等にのみ武器と魔法を使うことが許されている。


 訓練の際、一年生には五日分の米に缶詰といった食糧、水、油、塩、そして炊事用道具、雨具、防寒具、着替え、救急キット等が詰め込まれた背嚢が与えられる。

 一方、二年生に用意された荷物は一年生とほぼ同じだが、食糧と水だけは一日分しか与えられておらず、現地にて自力で調達しなければならないなど、一年生よりも難易度が高い。

 また、訓練の期間も一年生よりも一日短い四日間。その間にできるだけ早く一年生を見つけ出し、染色玉(カラーボール)を当てられる程評価が高く設定されていた。




「二年生の訓練期間が四日間なのは、目的地の村で待ち伏せしないようにするためかな?」

「あ、なるほど。そうですね。待ち伏せが怖かったら、私たちは四日目の期限が過ぎてから、村へ向かえば良いんですものね」


 俺たち士官学校初年度候補生三百五十六名百七十八組は、竜騎科校舎前のグラウンドへ集まっていた。

 各バディそれぞれに渡された地図と訓練の概要を、ルナレシアと頭を突き合わせて読んでいると、リゼル教官が他の科の教官たちと一緒に姿を現した。

 リゼル教官って、他の科の教官たちよりも偉いのか?

 何だか、他の科の教官を従えているように見えるんだけど?  


「全員集合したな! それではこれより、王立士官学校初年度候補生夏期特別課外訓練、山岳踏破訓練に出発する。竜騎士隊の指示に従い、各自スタート地点へ移動するように!」


 グラウンドでは上級生の竜騎科士官候補生と王国軍の竜騎士隊が、自分の飛竜を伴って待機していた。

 これから俺たちはあの飛竜に乗せられて、山岳踏破訓練の行われる現地へ運ばれる事になるのだ。

 それにしても。


「このちっこいのが、三年も経つとあの大きさになるのか」

「はい。ティアも大分大きくなったと思いませんか?」


 確かに。

 今、ルナレシアの足下で大人しく座り込んでいるティアは、大鷲ほどの大きさになっていた。

 両翼を拡げたなら、もう二メートル近い大きさだ。

 最初に見た時にはカラスくらいの大きさだったのにな。

 もうそろそろ、寮の部屋ではなく竜舎に預けるか、それともドムに頼んでティア用の小屋を作ってもらったほうがいいかもしれない。


「ええっと、そっちの女の子は竜騎科? じゃあ、飛竜にはもう乗り慣れているだろうし、大丈夫だよね? そっちは……おいおい普通科かよ。高い所は大丈夫なんだろうな? 目ぇ回して落っこちでもされたら、俺の評価に響くんだよなぁ」


 おお、普通科の皆としか行動してなかったけど、本当に普通科って下に見られているんだなあ。

 竜騎科のルナレシアと俺への対応が露骨なまでに違わないか?

 ま、男と美少女のルナレシアだとこういう態度も仕方ないかもだけど。


「ねえ、君。バディはもうちょっと慎重に選んだほうがいいよ? まあ、この訓練には間に合わないけど、訓練が終わったら魔法科か、せめて工部特務科から選び直したほうがいい」

「……」


 ルナレシアは困ったように笑ってみせただけだった。


「さ、どうぞ」


 竜騎科の先輩が鞍上からルナレシアに手を伸ばしたのだが、彼女はチラっと何か訴えるような目で俺を見た。


「先輩、先に俺が」

「え? いや、ちょっと待て」


 先輩が何か言っていたが、彼の手を借りずにさっさと飛竜の背に乗る。


「ルナ、ほい」

「ありがとうございます」


 ルナとティアを引っ張り上げた。


「ちぇっ、野郎よりも。子どもでもまだ女の子に捕まっていて貰えた方がマシだったのに」

「すみませんね、先輩。それだと俺がルナに捕まらなくちゃならないでしょう? まあ我慢してくださいよ」


 飛竜の背に乗って大空へ。

 そういえば空を飛んだのは黒覆面の男を倒すために、屋上まで飛んだ時以来だ。

 グングンと上昇を続けて、あっという間に王都リーリアが小さくなる。

 山を幾つか越えた所で、俺たちはある山の中腹へ降ろされた。

 ここが俺とルナレシアのスタート地点というわけか。


「渡された地図は持っているな? 正午から訓練開始だ。今日から五日後の正午までに、途中二年生の襲撃を躱しつつ目標地点のクルツ村まで到着する事。この辺りには危険な獣、魔物も多く出没し命を落とす危険もある。その覚悟を決めた者のみ、この訓練への参加を許可する――以上が君らへの通達事項だね。間もなく正午になるけど、覚悟はいいかな?」

「「――はい」」

「じゃあ、後はコレを渡しておくよ」


 手渡されたのは、円筒形の筒で赤と青の二種類あった。


「訓練中何か不測の事態が発生して棄権する場合と、遭遇戦で敗北した場合、一年生はこの青の煙幕弾を打ち上げること。そうすれば、上空やこの山周辺で待機している竜騎士隊の誰かが駆けつけてくれるはずだからね。二年生は緑の煙幕弾が渡してある。それから、こっちの赤の煙幕弾は、魔物を発見した場合に打ち上げる。基本、魔物は討伐して欲しいんだけど、数が多かったり手に負えない魔物もいるかもしれない。その際、この赤の煙幕弾を打ち上げてくれれば、竜騎士隊がその場所を記録して後日討伐隊を編成するから」

「わかりました」


 俺が代表して煙幕弾の筒を受け取って背嚢の中に押し込んだ。


「さて、自分からは以上だ。では、王立士官学校初年度竜騎科ルナレシア候補生、普通科イオニス候補生の夏期特別課外訓練、山岳踏破訓練を開始する!」



 ◇◆◇◆◇



 とまあ、先輩の勇ましい宣言を背に受けたものの、何をするかといえば荷物を担いで森の中を歩いて行くだけだ。


「こうして森の中を歩くのは、王都に向かったあの時以来ですね」

「あの時と違うのは、アルルがいなくてこいつがいる事だけどな」

「クアアア」


 俺の肩にティアが止まっていた。

 ルナレシアの細い肩に止まるよりも、俺の肩のほうが安定しているからだろう。


「荷物、重くないか? 何なら持つぞ?」

「大丈夫です」

「五日間だからな。先は長いんだ。無理はするなよ?」

「はい」


 それにしても、俺よりもルナレシアの食事量は少ないはずで、背嚢の食糧もその分減らされているはずなのだが、何だか随分と重たそうに見える。


「ティアの食べ物も入っているんです。干し肉ばかりだから、多分この子嫌がると思うんですけど……」

「そうだよな」


 一応、人の食べる物であればティアは何でも食べるが、好物はやっぱり新鮮な生肉だ。


「今は夏だからな。獣も多い。機会があれば、狩りもするか」

「そうですね。あ、その時はティアにやらせてあげてください。この子のストレス解消にもなりますし、訓練にもなりますから」

「そいつはいいなぁ、俺も見てみたいし。期待してるぜ、ティア?」

「クアアア!」


 草をかき分けて、蔓や木の幹に手を掛けて道なき斜面を登って行く。

 湿度が高くて蒸し暑いせいか、やたらと喉が渇いた。


「水分はしっかり取ろう」


 小袋に入れられた塩も十分にある。


「――お水、節約しなくてもいいんですか?」

「これだけ木々が茂っているんだ。水場ぐらいどこかで見つかるさ。それにいざとなれば俺、水くらいならどうにかできると思うし」


 水脈を見つ出す権能『水脈探知(クロケル)』もあるし、深い谷底の川でも『操水(フォルネウス)』の権能で水を汲み上げる事だってできる。


「何だかそれ、反則じゃないですか?」

「他の科の連中にだって、魔法が使える者の中にはこれくらいできる奴はいるだろう? これは俺だけができるわけじゃないよ。それにこの訓練は山岳森林地帯でのサバイバル訓練。自分の持てる技術全てを注ぎ込んで何が悪いんだ?」

「それは……そう、ですね。あれ? でもイオって空を飛べますよね? 空を飛んでしまえば、あっさりと目標地点へ到着できてしまうような?」

「あの魔法はそんなに長い時間飛べないんだよ。飛んでる間、ずっと持久走しているようなもんなんだ」


 そういえば、魔法士科には召喚士という契約した幻獣を召喚して操る魔法士がいる。

 空を飛べる幻獣と契約した召喚士がいた場合、この訓練はどうなるんだろう? 

 それこそ目標地点まで飛べてしまうような?


「人を乗せて飛べる程強力な力を持つ幻獣と契約できる候補生なんて、そうそういるとは思えません」


 俺がブツブツとそんな事を呟いていると、ルナレシアが呆れたように言った。


「幻獣との契約には、相手の示した条件をクリアする事が必要です。そして往々にしてその条件は、幻獣と戦って力を示すこと。召喚士の力を認めさせることで、契約することが可能になりますから、一年生でそれほど強力な幻獣を従える人なんて、滅多にいるはずが……あっ――」


 ルナレシアがカックンと肩を落とした。


「そういえば、ここに一人いましたね……」

「アルルの事か?」

「……アルルさん程の強力な幻獣、どうやって契約したんです?」

「いつの間にか、としか……」


 『召魔狼(マルコシアス)』の権能を使ったらあいつが来たんだ。

 俺にはいつの間にかとしか、答えられない。

 そういえば、今アルルを喚んで荷物とか運んでもらえないかな? 

 そんな理由で喚んだりしたら、やっぱり怒るかな?

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