真っ暗闇にて
「昔話でもしようか…」
陽が沈んでから少し経った頃、おかあさんは僕を包み込みながらそう言った
この流れは何時もの事だった
おかあさんは大きくな体で僕を包みながらいろんなお話を話す。僕がそれを眠るまでの間聞く。これが日常の中の僕が1番覚えてる事だ
変身のお話や、言葉のお話。1番大事と教わったのは魔力とかいう力を使って周りを把握する事
他にも色々あったけど大事なもの以外は少ししか覚えてない
その中でも1番苦手だったのは計算のお話だった。その時だけは目を瞑って寝ていますよって狸寝入りしていたけれど、多分おかあさんにはバレていたんだろうなと今となっては笑い話だ
まあ、その話で笑ってくれる人はもうこの世には誰もいないのだけれど…
(うん、今日は何のお話?また計算?)
何時もの調子で返す
心の中では計算だったら早く寝よう!と思っていた気がする。でもその日からは違った
「そうしようか…。冗談だよ、そんな悲しそうな顔しないでくれ」
僕が嫌そうな顔をしたのが伝わったのか、苦笑しながら本題を切り出してきた
「あはは、今日のお話は僕達のお話さ。気にならないかい?ワタシがナニで、ココがドコなのか」
お母さんの言う通り、確かに少しは気になっていた。いつもいるこの場所はとても暗く、目では見渡せない
おかあさんに教えてもらった、魔力感知という技術で周りを把握している
いつも思うけど魔力で物の位置とか動きとか手に取るようにわかるのに、目は必要なのだろうか
偶に目の前で振られたおかあさんの真っ黒な指の本数を当てるのは魔力で把握した方がやり易かった。でも魔力を使うと怒られたのでしょうがなく目だけで当てていた
確か、目が劣化しないようにだとかなんとか…
本当に必要なのか不思議だったからおかあさんに聞いてみると、どうやら必要らしい
その理由は世界に飛び出した時にわかるんだけど、そのお話はまた後日しよう
僕がズレた思考から戻ってくるのを見計らったようにおかあさんは付け足した
そして…キミはナニなのか。気にならないかい?
気になる!!
僕はすぐさま叫んで、やかましいとゲンコツをもらった。なんでだ
さて、今日は君のXX歳記念日だ。その記念に君を僕の庇護から外そうと思う。もう充分1人でやっていけるだろうからね
おかあさんの言ってる意味は半分くらいしか分からなかってけれど、とりあえずこれから一人で生きていくことはわかった。しかし少々不安だ
おかあさん、僕が1人で生きていくのはわかったけど食べ物とかはどうすればいいの?
これまではおかあさんが何処からともなく食べ物を持ってきてくれた。魔力で把握していたけれど、おかあさんはひと時も僕から離れずずっと一緒にいたので何処から持ってきたのかとても不思議だった
その事も今日のお話を聞けばわかるさ。とりあえず話していいかい?
なんだか若干疲れた雰囲気が見えた気がしたので、僕は頷いた
むかーしむかし……
そんな言葉から始まったお話は、僕が知らない世界に対して興味を持たせるには充分すぎる話だった
おかあさんが語り始めてどれくらい時間が過ぎたのだろう
僕は寝るのも忘れて、お話の始まりから終わりまでずっと聞いていた
ずーっとずっと。おかあさんが話し終えて居なくなるまで。
よろしくお願いします。