未だ高みを重ねる場所から望む
女子高生というより、おねえ視点での随筆みたいです。
……何で、勉強をしなくちゃいけないんだろう。
一日で受けないといけない授業の全てが終わった放課後、私は黄昏ていた。教室の窓の向こうから、此方を覗いて来る夕焼けを眺めて――
此処でずっと考えていても、答えは直ぐには出ない。荷物を茶色い革鞄に詰めて、席から立ち上がる。
学生という身分はとてもツライものね。校則であれこれ縛られたり、これから家へ帰ると期日までにやらないといけない課題の山々があったり……。兎に角、大人が思っている様な程の自由じゃないのは確かだと思うね。
※ ※ ※
学校の世界と外の世界に隔てている校門を潜り、周辺に立ち並ぶ家々やビル群の隙間を歩く。
未だ更に高みを重ねて行く途中の高層ビルが目に入った。
警備も特に厳重に監視されている様子は無い。右、左、そして後ろ、四方八方を向いて誰も居ない事を確認すると、中へこっそりと忍び入る。
誰かに追われて逃げるかの様に、鉄の階段を走り、上へ上へと昇る。当然大きな足音を立ててしまうと、地上でこの建物の前を通り過ぎる誰かに気付かれてしまうので、慎重に昇っている。
え? 全然慎重じゃない? 逃げ足の様な速さだと気付かれ易いって?
否。ゆっくり足を動かすと足音が逆に目立ちやすい為、速やかに動かなくてはいけない。
これが忍者の極意――
……なーんてね。まぁ、速過ぎても足音が出てしまう事もあるから要注意、かな?
誰でも真似出来る事ではないと思うから、あまりお勧めはしないわ。
息を切らすまで昇り続けたら、窓からは建物の姿が全く見えなくなっていた。
それから更に奥へ進む度に窓や壁等の遮蔽物が減っていき、外の様子が次第に露わになっていく。
今の段階だと此処が最上層なんだろうね。しかし周りは未だこれからも、上階層が出来ていくかもしれない途中経過を見せている。足場か柱になる予定かもしれない幾つかの鉄材はブルーシートで包まれ、時間を止めたかの様に静かに積まれていた。
一つの鉄板の上に乗る。錆びていたりとか、折れそうとかの心配は無い。
見た感じ凄く丈夫そうで、確りと固定された真新しい鉄板だ。一歩、もう一歩、奥へ少しずつ進む。
穿いている藍色のスカートが強い風で少し揺れる。
……何か期待しているかもしれないけど勿論、準備はしているわ。
丈を短くしているから大きく翻りそうな心配は無いんだけど、体育用のハーフパンツを穿いているの。
それにしても、落ちてしまったら一溜まりも無い高さだわ。未だ明るい為、地上の様子が窺える。
此処から地上の様子を見ようとする前に、高所に対する大きな不安を持っていたら、それを重心に地上へ落とされてしまうのは間違いないんじゃないかしら。しかし何も恐れる事無く、鉄板の先端まで寄って行く。
……まるで模型の様に小さな世界ね。
立っている自分が神様気分になったつもりでも。
右上の方へ進んでいる車は、左下の方へ走って行った電車も、手に取れそうで掴めない……。
高い場所に立っていても、雲を掴む様な事ばかり。
何も手に取る事は出来ない。見晴らしの良い景色が見えるだけよ。
もう他に何が出来るのか思い浮かばないけれど、思い浮かんだとしても何もする事は無い。
この方が何故か気持ちが落ち着くから。飽きるまで此の侭眺め続けて、違う景色に変わって行く経過を見てるのも面白そうね。
では、ただ眺めていましょう、此処から見える世界の断片を。
※ ※ ※
「あ! 君っ! 其処で何をしている!?」
背後を振り返ると、鉄柱の物陰からひょっこりと作業員らしき男性の姿が一人現れた。
やば。見つかってしまった。
やはり現実は物事を容易く実行出来る程、簡単な世界じゃない。
ところで此処は風も強い上、現場監督の人に許可を貰ったり、安全綱とかもしていない限り、本来出来る事じゃない。何か疲れたからって高い場所から黄昏ていたくても、真似しない様にね。
素朴な疑問の答えなんて、こんな所では見つかりはしないよ。
さっきも述べた様に、この世界は簡単に出来た世界じゃないんだもの。
この後、一時間位のお説教タイムを受けた。




