風評被害
自宅リビングにて。
その夏の前半は、選挙の話題で持ちきりだった。
選挙期間、尚巳は深く考えもせず、普通にネットをチラチラしていたのだが。
そこにはムカつく書き込みがいっぱいあったのだ。
「バカじゃねぇの、この候補者! バカじゃねぇの、コイツを推薦した奴ッッッ!」
などと、スマホに向かって叫ぶ尚巳。
「インコー鳥ってナンだよ! ナニが鳩越えだよ! ムナクソワリぃぃぃぃー!」
「ちょ、ナニアレ」と冷たい視線を投げる弥生。
「コワッ! あんな感情的な尚巳、初めて見るぞオイ」と軽く怯える龍壱。
「キーッ! 我慢ならん! アホかドアホか! 野党とゴミのクソどもがあぁぁ!」
「あいつ、あんな熱くなるほど政治に興味あったっけか?」と首を傾げる龍壱。
「いや、あれは——政治って言うより、もっと違う方向で怒り狂ってる。候補者が原因で」
苦笑いしながら楓は呟いた。
「へ?」
「あいつ言ってるだろ、鳥とか鳩とかさ……鳥類が侮辱されてるみたいで、悔しいんだよ」
「……ああ」と、ふたり同時に納得の息を吐く弥生と龍壱。
「だいたいな、前々から『狂ッボー』とか呼ばれやがって、鳩が巻き添え可哀想過ぎるだろ!」
「て言うか、関係者の名前と党名、覚えたからな! 応援演説に参加した奴らの記録も取ったからな! コイツら未来永劫、俺から票を入れてもらえると思うなよ!」
——マトモな身体検査も出来ない野党が、鳥類マニアまで敵に回したか。自業自得とは言えこの候補の崩壊っぷり、もう雪崩現象どころじゃないな。
野党は色々な層を掘り起こしている。それも敵として。
何という手腕だろうか。ある意味、神がかっている。逆神だ。
政治には全く詳しくないし興味も無い龍壱が、ニヤニヤしながら尚巳を見ている。
その隣で、楓は言った。
「ま、キッカケはどうあれ、興味を持ったのはヨシとする。弥生も龍壱も、少しは興味持ちなさいね。政治には国民の生活がかかってるんだから。それに登場人物や党の設定を覚えると、結構面白いよ? 想像を絶するキャラが、あちこちに目白押だぞ」
だが、ふたりの返事は素っ気ない。
「僕、こんな姿だから選挙なんて行けないし」
「あー、俺も人間じゃねーから、選挙権ねーしな」
彼らのアンテナが政治の方向を向いていないのは、楓もよく分かっている。ので、これ以上言うつもりはなかった。
そんなふたりと比べて、ひとり盛り上がっている尚巳。
「俺の一票でコイツらに思い知らせてくれるわぁ! 楓っ、次の選挙いつだ!」
楓は苦笑いしながら、大体の予定をサックリとレクチャーした。
「よぉ〜し、分かった!」
カレンダー機能に、鼻息荒く予定を入れ込む尚巳。
その姿を見て楓は「まるで初陣に臨む子供だな」と思った。




