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6話 捜索

 魔物の気配が無いか確認して荷台から下りる。魔物の気配は無かったが、警戒だけはしておこう。

 彼女は少しは落ち着いたのか、自己紹介をしてきた。


「わたくしは高崎で商売をしております『天海 秋津(あまみ あきつ)』と申します。美奈様、八尋様、助けていただき有難うございます」


 美奈様・・・か、言われ慣れてない所為か、こそばゆい感じがする。


『あら、私は良いと思うわよ』

『美奈は良いだろうけどさ』


 あんまり畏まられてもあれだし、もう少し気さくに話してもらおう。


「う~ん……。様は要らないかな。もっと気さくに話してくれると嬉しいわ」

「オイラも様はちょっと。言われるとむず痒くなる」

「分かりました。美奈さん、八尋さん」


 秋津さんの自己紹介も終わったところで、馬車の周りを確認した。すると、秋津さんは倒されている魔物を見て驚いている。


「美奈さんが倒されたんですか!?」

「ええ。でも、一人では無理よ。援護が無かったら、倒せていたか分からないわ」

「怪我もされてないようですし、お強いんですね」

「ギリギリで勝てたようなものだし、強くはないわ」


 強いのは「美奈」であって、僕ではない。『その通りよ。良く分かってるじゃない』と美奈が言ったが、何となく無視した。


 御者台付近まで来たところで、遺体を確認してもらう。遺体は酷い有様で、頭部は無くなり四肢はバラバラ、腹部は食い散らかされた痕がある。

 遺体を見ても僕は何故か冷静だった。《山犬》との戦闘で脳がまだ興奮していたのか、現実味がないからか理由は分からない。

 遺体から辛うじて分かるのが、革鎧を装備しているから護衛という事だけだった。


「彼は護衛?」


 確か御者台に乗っていたのは男二人のはずだ。僕は秋津さんに尋ねる。


「はい。街道沿いは安全だと思って、一人しか雇いませんでした。まさか、こんなことになるなんて……」


 秋津さんは意気消沈していた。

 それにしても、護衛の人が付けていた装備品を見る限り、あまり強そうな感じがしないんだけど。


「熟練した人じゃないと、《山犬》は一人だと厳しいんじゃないかな。オイラ達も一人じゃ無理だろうしね」

「そうですか……」

「でも、時々《緑小鬼ゴブリン》が出る程度の街道に、《山犬》が出るなんて異常だよ。何か原因があるのかもしれないね」


 街道で魔物に襲われるのは珍しいらしい。美奈に聞いてみると定期的に街道付近の魔物を討伐しているようだ。異常事態なのは間違いないが、今考えても原因は分からないだろう。

 遺体をどうするか考えないといけないが、今は捜索を優先する。馬車周辺には、遺体付近にある山のような土塊以外、目ぼしい物は見当たらない。


「御者の人が居たよね?」

「はい。無事ならいいのですが、何処に居るのでしょうか? そういえば、襲われた時に馬車が止まっていたような気がします。ウトウトしていたので詳しくは覚えていないのですが……。その後、争う音と悲鳴が聞こえたと思ったら、積荷が崩れて気を失っていました」

「そっか」


 馬車から見える範囲では、御者の姿を見つける事は出来なかった。


『見つからないね。美奈、ちょっとその辺探してみてくれないかな?』

『こんな姿になった私をこき使うなんて、人使い荒いわ……』


 美奈はシクシクと泣く素振りを見せた。


『こんな時に冗談は止めてね』

『分かったわよ。まあ、しょうが無いから探してきてあげるわ』


 渋々ながら街道脇の林を探しに行ってくれた。何だかんだ言っても、美奈は良い娘なんだと思った。

 美奈は大した時間も掛かけず御者を見つけていた。ここからは見えないが近くに行けば直ぐ分かるらしい。勿論、遺体になっているようだけど。


「この辺りには見当たらないし、林の方を探してみる?」


 秋津さんに確認を取る。一人には出来ないし、着いてきてもらう事になるだろう。


「はい、お願いします」


 三人で林に向かい、美奈が教えてくれた場所で御者の遺体を発見した。下草と木の影に隠れて、馬車からは見つけられない位置に遺体はあった。護衛と同じように頭と胴が離れ、腹部が食い散らかされていた。まだ良かったのは四肢が無事だったことぐらいだ。


「ああ! 佐藤!」


 秋津さんは両手で顔を覆ってむせぶ。護衛と違って、かなりショックが大きいらしい。人が悲しむ姿を見ると心が苦しくなる。僕は秋津さんが落ち着くのを待って声をかけた。


「もう落ち着いた? 遺体はどうした方が良いの?」

「……あ、はい、もう大丈夫です。出来るなら連れ帰りたいので、馬車に運んでもらえないでしょうか」

「分かったわ。頭の方は秋津さんが運んであげて」

「分かりました」

「でも、遺体をこのまま運ぶのも大変だわ。大きな布か何かあったら良いんだけど……」

「それなら、馬車の中に良い物があります」

「じゃあ、それで遺体を包みましょう。持ってきてもらえる?」

「はい。すぐに取ってきます」


 秋津さんに持ってきてもらった布地で遺体を包む。僕達は遺体を運ぶ前に合掌した。三人で馬車の中まで運ぶ。それから、護衛の人も布に包んで馬車に乗せた。

 一連の作業が終わったところで、秋津さんが問いかけてくる。


「美奈さん達はこれからどうされるんですか?」

「東京まで行くつもりだけど、高崎で宿を取ろうと思っているわ」

「そうなんですか! それなら高崎まで一緒に行ってもらえませんか? もちろん、報酬はお支払いします」


 秋津さんのお願いを断る理由もない。それに、僕達には良い事尽くめだと思う。美奈なんて『馬車に乗れるわよ』とか言ってたしな。秋津さんの依頼を受けることにした。


「ほっとけないし、一緒に行ってもいいわ。八尋はどうする?」

「オイラも良いよ。報酬も貰えるしね」


 八尋の答えに頷いてから、秋津さんを見つめる。


「ということなので、一緒に行かせてもらうわ。乗りかかった船だしね」

「美奈さん、八尋さん、ありがとうございます」

「でも、馬車は無事みたいだけど馬はどうするの?」

「それは大丈夫です。【召使人形】の予備を持ってますから」


 そう言って腰のポーチから金色の石を取り出す。よく見ると馬の模様が刻まれている。


『【召使人形】って何?』

『馬みたいな物を見たでしょ、あれよ。他にも色々な形のがあるけど、一定時間なら簡単な命令を聞いてくれるわ』

『へぇー、すごいね』


 美奈でも知っていることから、この世界では常識らしい。

 秋津さんは例の土塊の前まで移動した。


「じゃあ早速使ってみますね。と、その前に壊された【召使人形】の核を回収しないと」


 秋津さんは土塊の中から白っぽい石を取り出しポーチにしまう。

 それから、金色の石を土塊に置くと小声で呟く。


「目覚めよ! 我が人形!」


 秋津さんの言葉で、土塊が光りだし何かの形を作っていく。

 光が収まると土で出来た馬が一頭出現していた。あの土塊が無くなっていたので、人形ゴーレムを作るにはその分の材料が必要なのだろう。


 すごいな! その不思議な光景に思わず驚いていた。正に、魔法の道具という感じがした。


『あんなので驚いてちゃ、キリがないわよ』

『こういうの見たこと無いからね。驚いちゃうのはしょうが無いよ』


 美奈にはある程度僕のいた世界のことは説明したが、信じてもらえたか分からない。僕だって目で見た事しか信じられないと思う。美奈には悪いけど、しばらくこの世界を見て回るのも良いかもしれないと思えてきた。魔物と戦うのは別としてだけど。


「馬の準備は出来ました。早くこの場を離れましょう」


 秋津さんの言葉に僕と八尋は頷いた。


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