57話 迷宮主
「疲れも取れたみたいだし、そろそろ迷宮主部屋に行きましょうか?」
秋の顔色を見て尋ねる。休憩したことで、大分回復しているように見えた。
「はい。もう大丈夫です」
「そう、それなら迷宮主を倒すわよ。みんな準備して。秋には、さっきのお守りを預けるわね」
《擬態生物》が持っていたお守りを秋に渡す。秋の鑑定によると、【守護のお守り】というもので、着用者を不思議な力で守るらしい。何かあっても困るし、秋が持っていた方が一番良いだろう。
「分かりました」
各自、準備を終えたところで迷宮主部屋に向かう。
立派な扉を通り抜け、迷宮主部屋に突入した。短い通路の先に広間が見える。三っちゃんを先頭に広間に侵入。部屋の中央に黒い大型の人形と、奥に扉が見える。黒い人形は、今まで出会った人形よりも一回り以上大きい。高さは身長の倍以上。あれが|迷宮主(砂鉄人形)だろう。部屋に侵入した事で、迷宮主がゆっくりとこちらに向かって来た。
「じゃあ、秋と八尋は手筈通りに。三っちゃん、行くわよ!」
「突撃なのだ!」
迷宮主の歩みは遅い。先制攻撃を仕掛けるため、前衛二人で迷宮主に突撃する。接敵する直前、後方から秋の魔法が放たれた。
「《水弾》!!」
動きが鈍く、図体がでかい迷宮主は良い的だ。秋の《水弾》が命中し、迷宮主の体表が水分を吸収する。
『これで復元はしないかな。予定通りだね』
『まだ分からないわ。油断はしないこと』
『分かってるよ』
美奈と会話しながら、迷宮主の右脚を狙い攻撃した。
「ハァッッ!!」
「どっか~ん!」
三っちゃんと同時の攻撃が、それぞれ狙った脚に当たる。ドスッ! 木刀と戦鎚が脚にめり込む。だが、それだけだ。ダメージを与えられたように思えない。直ぐさま武器を手元に戻し、迷宮主の反撃に備える。
「全然効いて無いわね」
「うん。核を狙っていくしか無いのだ」
「そうね……」
胸部にある核を狙うしかないのだろうか。迷宮主が振り回す腕を躱しながら考えていると、美奈が言った。
『攻撃が当たった箇所って、元に戻ってないわよ。狙い所じゃない』
『うん?』
確かに、武器がめり込んだ場所がそのまま凹んでいた。水を吸った所為だろう。それを見てピーンと閃く。何とかなるかもしれない。
「三っちゃん、削っていくわよ!」
そう言って、木刀で凹んだ右脚を二度、三度と浅く斬り付け、砂鉄を削り取っていく。意図を汲んだ三っちゃんも、戦鎚で左脚を削る。
ドガッッ!! 振り下ろされた拳が地面を穿つ。形振り構わず振り回される腕をかい潜り、右脚を執拗に狙う。攻撃を当てては退きを何度も繰り返し、脚の半ば程削りとる。三っちゃんの方は、迷宮主の攻撃をいなしては戦鎚をぶち当て、左脚は崩壊寸前だった。
その間にも《水弾》は打ち込まれ続け、水分を吸収した迷宮主の動きは鈍くなっていく。
「どっか~ん!」
三っちゃんの一撃が炸裂し、迷宮主の左脚を破壊する。迷宮主が、グラリと前のめりに倒れるのを、両手で支え堪えた。この機を逃さず、一気呵成に木刀を叩き込み右脚をぶった斬った。
「八尋!」
八尋は迷宮主の正面で、片膝をついて杭打銃を構えていた。合図した瞬間、迷宮主のガラ空きの胸部に、杭打銃を発射した。大気を震わす衝撃音。迷宮主の胸部を貫き、深々と杭が打ち込まれる。
迷宮主の動きが停止し、徐々に身体が崩れていく。上手く核を破壊したようだ。
「ふぅ。意外と楽に倒せたわね」
「水魔法のおかげで楽だったのだ。秋ちゃん良い仕事したのだ」
「私は《水弾》を撃ってただけで、大した事してませんよ」
「オイラが止めを刺したんだけど……」
「八尋のおかげなのは分かってるって。それにしても、杭打銃、すごい威力だったわね」
「うん、狙った所に当てるのは難しいけど、威力はすごいよ」
軽々と迷宮主の胸部を貫いてたし、威力はすごいものがある。でも、連射できなかったりするし、色々と問題があるみたいだ。まあ、試作品だったし、改良の余地ありだろう。
「さて、迷宮主の素材を回収して帰りましょうか」
「おー、早く帰ろうなのだ」
三っちゃんの目的だった砂鉄を回収し、奥の扉へ向かった。
「この扉の向こうに《迷宮》の核があるのだ」
「核を破壊したらダメなんだっけ?」
「うん。ここの《迷宮》はダメなのだ。でも、普通は壊さずに持って帰るのだ」
「へぇ~、高く売れるの?」
「大きさによるけど、高額なのだ」
「そうなんだ」
高額と聞いて《迷宮》の核がどんなものなのか、ちょっと興味が湧いてきた。早速、扉の中に入ってみる。
入って直ぐに気付いたことは、部屋の中央に巨木があった。その巨木に覆われるようにして、人の頭大の黒い石が見える。石は魔石に近い感じがした。
「あれは?」
「あれが《迷宮》の核、『魔塊石』なのだ。魔石が大きくなったようなものなのだ」
「私も魔塊石については聞いたことがあります。なんでも、自動的にマナを蓄えることが出来るとか」
「なるほどね。そんな事が出来る魔石なら、高額なのも分かるわ」
自動でマナが貯蓄出来るなら、色々と使いみちがありそうだ。もしかすると、組合依頼の報酬も、魔塊石から抽出したものかもしれない。
それにしても、中心部屋に来たのは良いけど、どうやって帰ればいいんだろうか。来た道を戻るのも時間が掛かりそうだな。
「ねえ、三っちゃん。この部屋に入って来たのは良いけど、帰りはどうするの?」
「この部屋から一階層まで行けるから、大丈夫なのだ」
「そうなんだ、じゃあ早く帰ろう」
「分かったのだ」
三っちゃんについて、巨木の裏側に回ると黒い水晶が乗った台座がある。
「みんな、水晶に触れるのだ」
全員、言われた通りに水晶に手を触れる。
「じゃあ、帰るのだ。入口へ」
三っちゃんが合言葉を唱えた。一瞬の浮遊感ののち巨木の部屋から、台座と扉以外は無い小部屋に景色が変わる。
「「「!?」」」
あまりに突然のことで、三っちゃん除く僕達は驚いた。
「扉の外は入口の近くなのだ。さあ、早く帰ろうなのだ」
三っちゃんはそう言うと、扉を開けて部屋を出て行こうとする。僕達は慌てて三っちゃんの後に続き扉を出た。三っちゃんの言う通り、入口のすぐ近くまで来ている。
それにしても、行きの時にこんな扉があっただろうか。疑問に思い振り返って見ると、扉が消えて壁になっていた。
「あれ? 扉が無くなってるわ」
「おー、その扉は一歩通行になっているのだ。一回出たら戻れないのだ」
「そうなんだ」
まあ、十階層まで直通出来そうだし、考えてみれば一方通行は当然かもしれない。
入口までほんの数M。初めての《迷宮》探索を終え、僕達は意気揚々と帰路についた。




