56話 宝箱
空を舞う《悪魔彫像》から繰り出された鉤爪が、秋に迫った。
ガッ! 間に立ちはだかった《土人形》が、《悪魔彫像》の攻撃を食い止める。護衛を務める《土人形》は、《悪魔彫像》を殴りつけ地面に叩き落とす。止めとばかりの踏みつけで、《悪魔彫像》は砕け散った。
「後は目の前の、《石人形》だけよ!」
「分かったのだ!」
《石人形》の正面に対峙した三っちゃんが、足元を狙い戦鎚を薙ぎ払う。愚鈍な《石人形》は躱せない。ガキンッ! 当たった左脚から欠片が飛び散る。だが、ヒビは入るが砕けない。隙のできた三っちゃんに、《石人形》の左拳が振り下ろされた。三っちゃんは腰を落として、《石人形》の拳を左腕で防御する。受け止めた衝撃で身体が沈んだが、何とか持ち堪えた。
『結構硬そうね』
『うん。木刀じゃ厳しいかもね』
『そう? 今のヒビが入った所とか、いけそうだけど』
確かにヒビが入った左脚なら、攻撃が効きそうだ。三っちゃんを援護しつつ、左脚を狙っていくか。
「左脚を攻めるわ!」
そう、叫んで《石人形》の左側へ移動する。そして、三っちゃんを狙い再び殴ろうとする《石人形》に、牽制の突きを放つ。攻撃を中断された《石人形》の注意がこちらに向くと、戦鎚の一撃が右脚に直撃する。グラリと体勢が崩れた《石人形》に続けて攻撃した。
「ハッッ!!」
スキル《強撃》を使った渾身の突きが、《石人形》のヒビ割れた左脚へ突き刺さる。木刀が刺さった箇所から、ヒビ割れが広がる。ビキッビキッと左脚全体に広がると、やがて自重に耐え切れなくなったのか左脚は砕け散った。
地面に転がった《石人形》は、もう脅威ではない。木刀では無理そうだし、三っちゃんに止めをさしてもらった。
「ちょっと硬かったわね」
「うん。《石人形》は迷宮主の次に強いのだ」
「そうなんだ」
《石人形》が二番目の強さなら、迷宮主はどのくらい強いんだろうか。あまり想像したくない。
現在、十階層に到達し、迷宮主の部屋まで後少しというところ迄来ていた。
「《悪魔彫像》も居ないみたいだよ」
「そう。なら、先を急ぎましょうか」
この十階層、天井が高くなっていて、そこら中に《悪魔彫像》が飛び回っている。秋の《木人形》が、あっさり倒されたこともあり、八尋には上空を重点的に警戒してもらっていた。
《木人形》の代わりは、拾った素材で《土人形》を創ることで補った。それなりに強くて、護衛として役に立っている。
魔法の使い過ぎによる気分の悪さもないので、今のところ順調に《迷宮》を攻略していた。
「そろそろ、迷宮主の部屋ね。そういえば、迷宮主ってどんな魔物なの?」
「ここの迷宮主は《砂鉄人形》なのだ。鍛冶の材料に持って来いなのだ」
「あー、だからこの《迷宮》に来たんだ」
「そうなのだ」
魔物から取れる砂鉄なら、良い武器が出来そうだな。どんな物を作るか後で聞いてみよう。
「《砂鉄人形》ね……。強そうだけど、倒し方は《砂人形》と同じで良いの?」
「うん。水で濡らせば元に戻らないのだ」
「そっか。じゃあ秋に頑張ってもらわないとね」
「秋ちゃん頑張るのだ」
突然、話を振られた秋は驚いて「はい」と、生返事を返すだけだった。
道中の《砂人形》は、秋の《水弾》で仕留めてきたが、迷宮主にも有効のようだ。
迷宮主もどうにかなりそうだし、秋を連れてきて正解だったな。四人での《迷宮》攻略も、ワクワク出来て面白かった。だが、それもそろそろ終わろうとしている。通路の先に立派な扉が見えてきた。
「あれが、迷宮主部屋の扉ね」
「うん。中に入ったら気を引き締めるのだ」
「分かったわ。でも、迷宮主と戦う前に少し休憩しておきたいわね」
「おー、それは賛成なのだ」
十階層まで一気に来たので多少疲れたのもあるが、それ以上に秋が疲れていた。慣れない戦闘に、魔法の行使で目に見えて疲労している。
「秋、少し休憩するから、何処かに良い場所ない?」
「あ、はい。迷宮主部屋の手前に小部屋がありますね」
地図を見ながら、秋が答える。小部屋なら魔物も襲ってこないだろうし、ちょうど良いな。
「じゃあ、そこで休憩しましょう」
皆の同意を得て、小部屋の前まで移動する。扉に罠が無いか、八尋に調べてもらう。
「扉に罠は無いよ。でも、部屋の中から、何か嫌な感じがする」
「魔物?」
「分からない。物音はしてないけどね」
「う~ん? じゃあどうしようか」
部屋の中は安全ではないらしい。こういう時の八尋の勘は当たるし、休憩を諦めるしかないかな。
そんな事を考えていると、八尋が提案してきた。
「オイラが部屋の中を調べるよ。ちょっと扉から離れてて」
言われたとおり扉から離れるが、いつでも戦えるように木刀を構えておく。
ギィィィ! 扉の影に隠れながら、八尋はゆっくり押し開き、慎重に小部屋の中を確認していたと思ったら、急に扉を全開にした。開け放たれた小部屋の中には、木で出来た箱が一つある。木箱は蓋があり、所謂、宝箱っぽい形状をしていた。
「宝箱っぽいけど、何それ?」
「宝箱だと思うよ」
「あ、やっぱり。なら早く開けましょうよ!」
「まだダメだよ。確認したいことがあるから、ちょっと待って」
そう言うと、八尋は弩を構え宝箱に向かって矢を放った。付与魔法で威力を増した矢は、宝箱に深々と突き刺さる。
「グギャァァァ!!」
突然、宝箱が叫ぶ。矢が突き刺さった場所から、血のようなものが流れる。
『《擬態生物》ね。初めて見たわ』
『あれがそうなんだ』
矢が致命傷になったのか、やがて《擬態生物》は息絶えた。
「怪しいと思ったんだ。これで安全になったよ」
「そっか。それなら、早く休憩しましょう」
迷宮主戦まで後少し。僕達は《擬態生物》を処分して、小部屋で休憩取った。




