51話 仁王立ち
「「遅くなって、すみませんでした!」」
「遅くなるなら、前もって言ってもらわないと困ります。料理がすっかり冷めてしまいましたよ。それに、秋津お嬢様はお二人が来られるまではと言って、お待ちになっていらっしゃったのですよ!」
二人で低頭して謝った。正面には命さん。腕を組み仁王立ちになっている。豊かな胸が強調されているのはご愛嬌だ。
「もう少し早く帰ってくるつもりだったの。秋、ごめんなさい」
秋に頭を下げて謝った。
「予定通り帰って来れないのは仕方が無いですよ。でも、心配させないでくださいね」
秋は安心した表情で、少し咎めるように言った。
ああ、そうか。今更気づいたけど、帰って来ないということは、僕達が死んだって可能性もあるのか。
ただ、冒険者を続ける限り、何が起こるか分からない。心配はかけたくはないし、何か連絡できる手段でもあれば良いんだけどな。
「これから気を付けるわね」
「はい、お願いします」
命さんに《猛進猪豚》の肉を渡し夕食をとる。命さんが怒っていたのは、秋に心配を掛けるな、という事らしい。肉で御機嫌を取ろうとして、すみません。
夕食を終え、リビングで寛ぎながら今日の顛末を話した。
「百鬼の森まで行ってきたのなら、遅くなるのも仕方が無いですね」
「〈王隕鉄〉が中々見つからなくて、時間が掛かったのよ。これでも、急いで帰って来たんだけどね」
冗談めかして肩を竦める。
クスクスと秋は笑っていた。
「防具の方は、何とかなりそうなんですね」
「ええ、ついでに武器も作って貰えることになったわ」
「無料だよ、無料。得しちゃったよ」
八尋は無料という事をやけに強調している。
まあ、それだけの苦労はしたと思うんだけど。
「無料なのは分かったから。それで、火浣布はどうすれば良いと思う?」
「買い取っても良いですけど、お金に困っていますか?」
言われてみれば、装備も一新出来そうだし、生活するだけなら今持っているお金だけでも特に困らない。
「困っていないわね」
「それなら、売らずに持っていても良いと思いますよ」
「そうね。じゃあ、持っていることにするわ」
貴重な素材だから持ってても困らないだろう。お金が無くなってきた時に売れば良いや。
お金の心配が無くなったので、今後のことを考えてみる。
今日のように、遅くなっても連絡できれば問題が無いんだけど、何か手が無いのだろうか。例えば携帯電話とか。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、離れてても連絡出来る方法とか無いのかしら? 遅くなった時は連絡すれば良いでしょ」
「う~ん? 昔はそんな道具が沢山あったらしいですけど、今は組合とか大きな組織とかが持ってるだけですね。家の店でも扱ってませんし」
「そうなんだ。じゃあ連絡するのは難しそうね」
天海屋でも扱って無いなら無理そうだな。諦めたほうが良さそうだ。そう結論づけて話を終わろうとすると、秋が何かを思い出したのかハッとした表情になっていた。
「そういえば、離れた人と話をする《念話》という魔法があると、聞いたことがあります」
「え、そんな魔法があったの!? 知らなかった。ありがと、良い事を聞いたわ」
そうか、魔法があるから道具は要らないのか、なるほど納得した。明日、組合で《念話》について聞いてみよう。
後は、そろそろ書庫に行っておかないと。
『やっと書庫に行く気になった?』
『別に行きたくなかった訳じゃないよ。お金を稼いでたから、行く時間がなかっただけだよ』
まあ、実際のところは、美奈の身体に慣れて困らなくなったので、優先度が下がっただけなんだけどね。美奈に正直に言ったら怒られそうだしな。
『書庫で何か手掛かりが見つかると良いんだけどね』
『見つけてもらわないと困るわ。いや、絶対見つけて!』
美奈にはああ言ったけど、もし手掛かりが見つかって元に戻れたら、僕はどうなってしまうのか。その事が頭に引っかかって、積極的に探そうとしていないのかもしれない。考えていると、自分が嫌になってきた。
『ごめん。絶対見つけるから』
『な、何、急に謝って』
美奈には色々助けられてるし、ちゃんとしないとダメだな。あの事故から先おまけみたいな人生だし、成るように成れだ。明日、組合に着いたら書庫に行ってみるか。
そんな事を考えていると秋が話し掛けてきた。
「美奈達は明日、組合に行くんですよね?」
「ええ。大山武具店に寄ってから、三っちゃん……三津乃さんと一緒に行く予定よ」
「だったら、一緒に組合に行っても良いですか?」
「良いわよ。何か用事でもあった?」
「はい、明日は休みなので色々と更新して来ようかと」
そういえば、秋は仕事が忙しくて、登録してから何もしていなかったな。
「ああ、そっか。どの技能を取るか決めたの?」
「迷いましたけどね」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。今日と同じ時間に出掛けるからね」
「はい。分かりました」
話を切り上げお風呂に入り、疲れを癒やす。思ったより疲れていたのか、ベットに入るとすぐ眠りに落ちた。
朝の光を浴び目が覚める。
伸びをして体を解す。十分な睡眠をとったことで、疲れはすっかり取れていた。
朝食を取り、三人で大山武具店に向かう。
「おはよう」
店内に入ると昨日と同じように、顔だけカウンターから出した三っちゃんが居た。
「おはようなのだ。おー、今日は秋ちゃんも一緒なのか」
「三津乃さん、おはようございます」
八尋も「おはよう」と挨拶を交わしていた。
手早く用事を済まして、組合に向かおうと思う。
「刀の修理はもう終わってるの?」
「終わっているのだ。はい、これなのだ」
刀を受け取ると鞘から抜き、出来具合を確かめる。輝く刀身には刃毀れ一つ無く、修理する前より切れ味が増しているような気がする。
「前より斬れそうだわ。三っちゃん、ありがとうね。修理代はいくらなの?」
「喜んでもらえて嬉しいのだ。修理代はサービスしておくのだ」
三っちゃんの気遣いに、嬉しくてモコモコの頭を撫でる。このままずっと撫でていたいけど、そろそろ出掛けないといけない。
「三っちゃん、そろそろ組合に行きましょうか?」
「分かったのだ。父ちゃんに一言言ってくるのだ」
三っちゃんを含めた四人で、組合までの道のりを歩いて行く。
僕は三人の顔を眺めながら、この四人で冒険するのも面白そうだな、と歩きながら思っていた。
やっと改稿作業終了。
旧版は月曜に削除します。




