50話 武器制作
百鬼の森から帰ってくる頃には、どっぷり日が暮れていた。
「「ただいま戻りました」」
「ただいまーなのだ」
「おう、お帰り。遅かったな」
店に入ると和多志さんが出迎える。百鬼の森での経緯を話し、依頼の〈王隕鉄〉を手渡した。
「大変だったみたいだが、無事で何よりだ。それにしても、すげえ量見つけてきたな」
和多志さんは目の前にある〈王隕鉄〉を見て、驚きを隠せないでいた。大小合わせて二十個の塊は、百kgは優にあるのではないだろうか。改めて見るとかなりの量だった。
「運が良かっただけです。それに、三っちゃんのおかげでもありますよ」
実際、三っちゃんが居なければ森の奥にすら辿り着けて居ない。
「そんなこと無いのだ。見つけたのは美奈なのだ。すごいのだ」
お互いに褒め合う僕達を見て和多志さんは言った。
「お前達、大分仲良くなってるな。予想以上の成果といい、儂の見る目に間違いはなかったか……」
後半は自分に言っているようで、ウンウンと一人で納得していた。
「まあ、そんな事はおいとくとしてだ。この〈王隕鉄〉の量じゃ、成功報酬もはずまんといかんな。よし、追加で武器も作ってやるぞ。何か希望はあるか?」
思わぬことに、報酬で武器を作って貰うことになった。美奈が天鉄刀を欲しがっていたし、願ってもない。美奈も思いっきり喜んでいるし、依頼を受けて良かった。
『やったわ!! 見た目と斬れ味重視でお願いね。しっかり伝えてよ!』
『はいはい。ちゃんと伝えるよ』
後が怖いので、美奈の希望を和多志さんに念入りに伝えておく。八尋はもっと威力がある射出武器が欲しいようだ。
僕達の希望を聞いた和多志さんはしばらく考えていたが、ややあって提案してくる。
「嬢ちゃんのは、これで作るとしてだ。坊主のは、試しに作った物があるんだが見てみないか?」
「試作品なんだ……。どんなのか見てみないと何とも言えないよ」
「まあ、そうだろうな。おーい三津乃、アレを持ってきてくれ」
「分かったのだ」
三っちゃんが店の奥から、やや大きい弩を持ってきた。見た目の特徴は、レバーで弦を引く事と、矢より太いものを射出するようになっている事だ。
「これは「杭打銃」。威力は保証するが、射程が短いのと単発なのが弱点だな。後の問題は坊主が弦を引けるかだが、試しにやってみろ」
八尋が、手渡された杭打銃の弦を引こうと悪戦苦闘している。「硬い……」と言いながらも、何とか弦を引くことが出来た。
「引けたなら大丈夫だな。改良の参考にさせてもらうんで、後で使ってみた感想を教えてくれ」
これは試作品の試験をやってくれって事だよね。まあ、強力な武器みたいだし、良いんじゃないかな。
それから、八尋は木杭をいくつか渡されて道具箱にしまっていた。
「さてと、嬢ちゃんの方だが、今使っている刀に合わせるから貸して貰ってもいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
刀を手渡すと、和多志さんは隅々まで調べ一言。
「何か歪んでるな。無茶な使い方でもしたか?」
「ええ、ちょっと強引に振り抜きました」
やっぱり《狒々》への一撃は強引すぎたか。刀に負担がかかったようだ。
『刀の扱いが下手なのよ』と、美奈にも言われてしまった。
「ふーむ。今、直せばまだ大丈夫そうだな。これは預かるぞ。修理しておくから、明日取りに来てくれ」
「分かりました」
「それから、装備が出来上がるのは一週間後になるが、問題ないか?」
「一週間後ですね。大丈夫です」
「儂からはこんなところか、他に用事が無かったらもう遅いし帰ってもいいぞ」
帰りたいのは山々だけど、まだ帰れない。和多志さんには用事は無いけど、三っちゃんにはある。
「三っちゃん、お肉を分けて貰っても良いかな?」
「おー、そうだったのだ。ちょっと切り分けてくるのだ」
三っちゃんは肉を切り分ける為に、店の奥に入っていった。
「肉ってなんだ?」
「《猛進猪豚》です。森の中で倒したので、お肉を分ける約束していたんです」
「ほう、良いもん獲ってきたな。トンカツにしたら美味そうだな」
そういえば、『ウラミヤ』で食べた《猛進猪豚》は、確かに美味しかった。今度、命さんにお願いしてみよう。
話しているうちに、三っちゃんが戻ってきた。二M級の大物だったので、切り分けた量もかなりのものだ。
「すごい、お肉の量ね」
「うん、思ったより多かったのだ。オマケしといたから、一杯食べて力をつけるのだ」
「ありがとね。遠慮なくいただくわ」
大量の肉を道具箱にしまい、明日の予定を話し合う。
「明日、組合に報告に行くけど三っちゃんはどうするの?」
「それなら一緒に行くのだ。今日と同じくらいに来れば、刀の修理も終わらせとくのだ」
「分かったわ。それじゃ、また明日ね」
「また明日なのだ」
「また明日~」
大山武具店を後にして家路を急ぐ。遅くなったので、夕食の時間はとっくに過ぎていた。
「遅くなったわね。怒られないかしら?」
「う~ん? 大丈夫だとは思うけど、どうだろうね?」
「怒られたら、《猛進猪豚》の肉で勘弁してもらいましょうか」
「良いかもね。だけど、今日は疲れたよ。早くお風呂に入って休みたい」
八尋は心底疲れた様子だった。今日は森の探索に加え大量の魔物を倒したので、疲れるのはしょうが無いか。
「確かに疲れたわね。でも、三っちゃんが一番疲れたんじゃない?」
「そうかもね」
八尋と話す良い機会なので、考えていた事を言葉にした。
「ねえ、ちょっと良いことを思いついたんだけど」
「何? 変な事じゃないよね?」
八尋が警戒した様子で言った。そんなに警戒しなくても良いと思うけどな。
「また三っちゃんと一緒に冒険したいんだけど、パーティに誘ってみても良いかな?」
「二人だと厳しくなりそうだし良いんじゃない。でも、三っちゃんが了承してくれるの?」
「断られたらしょうが無いわね。諦める」
言葉ではそう言ったが、諦める気は無かった。三っちゃんとの冒険は大変だったけど、楽しかったしね。
美奈にも聞いたところ、『良いわね』とかなり乗り気だった。
明日、どうやって誘うか考えるとワクワクしてきて、夕食の事をすっかり忘れていた。
家に着いたら、命さんからバッチリお叱りの言葉をもらいました。




