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48話 食人鬼(オーガ)

 ブォォン!!


 《食人鬼オーガ》の巨大な棍棒が振り下ろされる。破壊力抜群の一撃を戦鎚で上手く往なし、三っちゃんは《食人鬼》と対峙した。流石に棍棒を受け止めることはしていないが、単純な力比べでは負けていないようにも思える。倍以上もある身長差を物ともせず、単純にすごいと思う。


『あの体格差で、流石だわ』

『だね。でも今は早く移動しないと』


 戦いの場を回って、《食人鬼》の背後に移動する。三っちゃんは八尋の援護を受けているものの、まだ決定打は与えられないようだ。

 背後に移動し終え、《食人鬼》の隙だらけの背中を眺め狙い所を探る。


『大きい奴の狙い目はそこよ!』


 美奈の言葉を受け、視点を落とし狙いをある一点に決め刀を振るった。左足首が半ばまで斬り裂かれ、踏ん張りが効かなくなった《食人鬼》はバランスを崩す。この隙を逃さず三っちゃんは戦鎚を大きく振りかぶる。


「ドッカ~ン!」


 遠心力で威力を増した一撃が、《食人鬼》の左足を粉砕した。


「ウガァァァァ――!!」


 左足を潰され倒れこんだ《食人鬼》は、滅多矢鱈に棍棒を振り回す。掠っただけでも骨が砕けそうな棍棒の攻撃に、容易に近付くことが出来無い。攻めあぐねていたところに八尋が矢を放ち、吸い込まれるように《食人鬼》の目に突き刺さる。次々に放たれる矢で両目が完全に潰れ、痛みで棍棒を手放した。

 隙だらけとなった頭部を、止めの一撃とばかりに振り下ろされた戦鎚が打ち砕く。断末魔の叫びすら上げず《食人鬼》は絶命した。


 三っちゃんはフゥっと息を吐き額の汗を拭っている。


「ちょっと疲れたのだ」

「殆ど何もしていないわ、ごめんね」

「良いのだ。お姉ちゃんだから大丈夫なのだ」


 しおらしい発言にモコモコの頭を撫で撫でした。

 《食人鬼》の素材をバウ(素材剥取人形)に剥ぎ取ってもらい、更に森の奥に進んでいく。やがて、細い道が無くなり獣道だけが奥に続いている。


「道が無くなったわね。この辺りから探して行くの?」

「この辺りは探したから、もう少し奥に行ってからなのだ」


 獣道を進みながら〈王隕鉄〉を探して行く。陽の光が少ないためか、下草があまり生えていないのが救いだ。


「八尋、見つかった?」

「特に何も無いね。黒い石なんだよね?」

「そうなのだ。見たら直ぐに分かるのだ」


 それらしいものは見つからず、ドンドン森の奥に進んで行く。しばらく進んでいると、気になるものを見つけた。かなり広い範囲で、明らかに周りよりも窪んでいる場所があった。見える範囲全体が窪んでいるので、非常に分かりづらかったけど。


『何か見つかったの?』

『ん? あの辺ってクレーターじゃないのかなって思ってね』

『クレーター?』

『えーっと、〈王隕鉄〉が在りそうな場所ってこと』

『ふーん、そうなんだ』


 美奈はクレーターを知らないのか。クレーターという知識そのものが無いのか、ただ知らないだけか分からないが。

 まあ、それは置いといて、窪みの中心地を指差し二人に思いついたことを提案してみる。


「あの辺りにあるかも知れないわ。行ってみない?」

「見つからないから、試しに行ってみるのだ」

「当てがあるわけでも無いし、良いかもね」


 中心地に移動したものの、特に石らしいものは見当たらない。


「見当たらないのだ。今日はダメかもしれないのだ」


 残念そうに項垂れる三っちゃんを見て、絶対見つけて帰るという気持ちになりその辺を掘り返す。意外と地面は柔らかく、木刀でも簡単に掘り返すことが出来る。しばらく掘り返していると、ガツンと硬いものに当たった。感触があった周辺を掘り返すと、黒い石の塊が出てきた。


「おー、すごいのだ! 見つかったのだ!」


 三っちゃんは小躍りして喜んでいる。その喜んでいる姿が見れて、疲れも吹き飛んだ。美奈も見つかったことに感心していた。


「地面に埋まってたんだ。見つからないわけだ」

「長い間に埋まったんでしょ。森の中だしね」


 柔らかい土は腐葉土だと思う。この辺りを掘り返せば、まだあるかもしれない。


「その辺り掘り返せば、まだあるかもしれないわ。探してみる?」

「おー、探してみるのだ。掘るのは得意なのだ。これを使えば楽に掘れるのだ」


 三っちゃんはツルハシを取り出し渡して来た。流石、山の民ドワーフといったところで、良い物を持っている。


「これなら楽に掘れそうね。でも、一人は魔物の警戒をした方が良いわ」

「それはオイラがやるよ。力仕事は向いてないからね」

「確かに力は無いわね」

「美奈は馬鹿力だけどね」

「何か言った?」


 バッチリ聞こえたけど、聞かなかったことにした。美奈は怒っていたが、馬鹿力なのは間違いないし、ここでもめるのも面倒だ。


「話は終わり、早く探し出して帰りましょう」

「そうだね」


 八尋が見張りをして、僕と三っちゃんで地面を掘り返す作業を行う。山の民だからだろうか、三っちゃんは戦鎚の鉤爪部分で器用に掘り返していく。しかも、恐ろしく早い。負けじと掘り返していくが、とても敵わない。粗方、周囲を掘り返して石を集めてみると、大小合わせて二十個の〈王隕鉄〉が見つかった。


「おー、こんなに見つかるとは思わなかったのだ。ありがとうなのだ」

「一番頑張ったのは三っちゃんだしね」

「そうそう、オイラ達は手伝っただけだよ」


 そうやってお互いに労っていたけど、掘り返すのに大分時間が掛かっていた。帰りの時間を考えると拙いかもしれない。


「掘り返すのに時間が掛かったけど大丈夫かしら?」

「う~ん……。急いで帰らないと、暗くなるかもなのだ」

「そっか。じゃあ、急いで帰らないとね」


 発見した〈王隕鉄〉を道具箱にしまい、警戒しつつ急いで来た道を戻る。

 辺りがやけに静かだ。魔物の気配がしなくなっている。


「ヒーヒッヒ! ヒーヒッヒッヒ!」


 突然、不気味な笑い声が辺りに響き渡った。


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