47話 百鬼の森
時間は昼過ぎ、目前の百鬼の森を眺めながら弁当を食べている。
『あれが百鬼の森なんだ。名前の通り、魔物が沢山出そうな雰囲気だね』
『呑気にお弁当食べながら言われてもね。この間みたいに油断しないでよ』
『分かってるって。でも、三人だからこの間より気楽だよ』
『全く……。自分のことは自分で対処しなさい。あんまり三っちゃんに負担かけちゃダメよ』
『りょーかい』
美奈に注意された事だし、森に入ったら気を引き締めよう。
百鬼の森は街道の脇にある割に、背が高い木が多く鬱蒼としている。森の奥の方では、陽の光が届くかすら怪しい。
「しっかりお弁当を食べて体力をつけておくのだ。森の中で休憩は取りにくいのだ」
「「はーい」」
あれだけ密集していると、開けた場所も少ないし、確かに休憩も取りにくい。魔物も出て来るだろうしな。
弁当を食べ終え馬車を道具箱にしまうと、装備を整える事にした。僕と八尋はいつもの刀と弩で、三っちゃんは自分身長よりも頭一つ分長い戦鎚を準備する。戦鎚の柄頭には、鎚頭ともう片方は鉤爪のように尖っている物が垂直に接合されていた。
「準備もできたし行きましょうか」
八尋を先頭に、三っちゃん、僕と続き森の中へ入っていく。森の中には頻繁に通るのか、細い道のようなものが出来ていた。
「道なりに進めば良いのよね?」
案内役の三っちゃんに確認する。
「うん。道なりで大丈夫なのだ」
「八尋お願いね」
「任せてよ」
街道が見えなくなる辺りまで進んだところで、八尋が立ち止まった。
「魔物が居るみたいだね」
「森に入ってちょっとしか進んでないのに、もう出たの?」
八尋が指し示した方を見ると、豚面のブヨブヨした肉体の人型の魔物が数匹、こちらの様子を窺っている。
「《豚面鬼》なのだ」
《豚面鬼》は今のところ襲ってくる気配はない。ただ、魔物に様子を見られるというのは不快な気分になる。
「後から面倒になる前に倒すのだ」
三っちゃんが戦鎚を構え戦いに備えている。
《豚面鬼》までは、まだ距離がある。
八尋が連射用の矢筒を弩に取り付け、《豚面鬼》に矢を放つ。
「ブヒィィィ!!」
様子を見ていた一体の目に突き刺さり、《豚面鬼》は断末魔の叫びを上げ倒れる。叫び声を切っ掛けに《豚面鬼》が一斉に襲いかかってきた。八尋は弩を山折りにして弦を張り、次々と矢を放っていく。二体が倒れ残った一体が三っちゃんと相対した。
「ドッカ~ン!!」
大きく振りかぶった戦鎚が《豚面鬼》の脳天目掛け打ち下ろされる。上からの圧力に頭は潰れ、《豚面鬼》は叫び声を上げる間もなく絶命した。
「楽勝なのだ」
戦鎚に付いた血を拭い三っちゃんが胸を張った。
「出番が無かったわ」
「偶には良いんじゃないの」
軽口を叩きながら《豚面鬼》の素材を回収する。今回、素材の回収が多そうなので、
【素材剥取人形】は出しっぱなしにすることにした。燃料切れも起こしそうに無いし、ついでにモフれるから都合がいい。三っちゃんは気に入ったのか、早速モフっていたけど。
《豚面鬼》を難なく倒し、森の奥へ奥へと進んでいく。段々と木が密集し、周りが薄暗くなると魔物の気配も増えてきた。
「また出たよ!」
「今度は《緑小鬼》!? さっきの《犬人鬼》といい、本当多いわね」
「《緑大鬼》と《緑小呪術師》も居るのだ。気を付けるのだ」
言われて気付いたけど体格が一回り大きい奴と、杖を持った奴が一体ずつ居る。全部で六体。かなりの密集隊形だ。あの魔法が使えるかもしれない。
「魔法を使ってみるわ。この場で待機してて」
二人に待機するよう指示を出し、魔法の準備を始める。その間にも《緑小鬼》達は近づいて来る。
「みんな眠れ! 《睡眠の雲》!」
補助魔法に分類される眠りの魔法が、敵の集団に襲いかかる。雲が《緑小鬼》達に纏わりつくと、バタバタと次々地面に倒れていく。《緑小鬼》は全て眠ったが、《緑大鬼》と《緑小呪術師》に魔法は効かず起きていた。《緑大鬼》は構わずこちらに突き進み、《緑小呪術師》は魔法を唱えようとしている。
三っちゃんはすかさず《緑大鬼》に突撃し、八尋は《緑小呪術師》に矢を放つ。
矢が《緑小呪術師》の肩に命中し、魔法を集中が途切れ中断させた。この隙を逃さず刀で空を斬り、スキル《飛撃》を放つ。飛ぶ斬撃が空気を切り裂き《緑小呪術師》に直撃。大きく胸を切り裂かれ、血を噴き出しながら倒れ伏す。
三っちゃんの様子を見ると、《緑大鬼》との戦いは三っちゃん優位で進んでいた。《緑大鬼》の棍棒の一撃を、戦鎚で余裕で受け止めている。
手助けは要らないようだし、寝ている《緑小鬼》に止めを刺して回る。止めを刺し終わった頃、戦況に変化があった。
《緑大鬼》の棍棒が破壊され、勢い殺さず一回転した戦鎚が《緑大鬼》のこめかみにめり込んだ。勝負は決した。《緑大鬼》の顔はひしゃげ、その場にぶっ倒れた。
「流石、三っちゃんは強いわね」
「魔法もすごかったのだ。あれで大分楽になったのだ」
素材を回収して少し休憩を取る。
森に入って一時間は経過していた。魔物と戦っている時間の方が、歩いている時間より長いくらいだ。
「後どのくらいで着きそうなの?」
「もうちょっと行けば道が無くなるから、その辺りから石を探していくのだ」
「そっか。りょーかい」
休憩を終了し、森の奥へ進もうとした矢先、八尋が周辺を警戒しだした。
「何か大きいのが来る!」
八尋の警告に全員で周囲を警戒していると、森の奥から大きな人影がノッシノッシと出現した。倍近い身長に大きな棍棒を持った姿は、正しく鬼と呼ぶのに相応しい。
「《食人鬼》なのだ」
「あれが……」
「血の匂いに誘われたのかも」
突然現れた巨躯に驚きはしたものの、直ぐに刀を構える。
「さてと、どうすればいいの?」
「正面は任せるのだ」
「オイラは弩で援護するしか無いね」
「じゃあ、側面か背後から斬り付けるわ」
作戦が決まったところで、《食人鬼》を待ち構えた。《食人鬼》がゆっくり近付いてくる。《食人鬼》は僕達を見て立ち止まり、突然吠えた。
「ウヲォォォォ――――!!」
《食人鬼》の咆哮が合図となり、戦いの幕が切って落とされる。




