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45話 大山武具店

 朝食を取り、少し遅い時間に家を出る。遅い時間なのは、早く行っても店が開いてなければ意味が無いからだ。

 歩いて十分程で『大山武具店』に到着した。確かに来たことがある店だ。開店しているので中に入ってみる。


「いらっしゃいませなのだ」


 前来た時と同じように、少女が店番をしている。店舗内に他に誰も居ないので、少女に尋ねた。


「えーと、貴女一人だけなのかな? 他に誰か居ないの?」

「父ちゃんは工房の方に居るのだ。何か用なら、あたしが聞くのだ」


 エヘンと胸を張り少女は答えた。背伸びして大人の真似をしている様が微笑ましい。


「そうなんだ。じゃあねえ、これで防具を作って欲しいんだけど大丈夫かな」


 〈火鼠の毛皮〉を取り出し、少女に渡した。少女は毛皮を手に取り品定めをしているが、毛皮が大きいので苦労している。


「珍しい素材だけど、この大きさなら二人分くらい余裕で出来そうなのだ。どういう防具にするかは、父ちゃんと話をすると良いのだ。他に用がないなら、父ちゃんを呼んでくるのだ」

「後ね、『天海屋』の秋津さんから、〈山犬の毛皮〉の加工品を受け取るように言われたんだけど」

「秋ちゃんのやつなら出来てるのだ。秋ちゃんの知り合いなのか?」

「隣に住んでいるのよ。それに、毛皮の加工は秋にお願いしておいたものなの」

「おぉ、そうなのかー。でも、受け取るなら身分証を見せないとダメなのだ」


 冒険者カードを渡すと、少女はカードに書いてある名前を確認し、カウンターに置いてあった四角い物にカードを触れさせた。少女は四角い物で何かを確認した後、カードを返してくる。


「はい、確認したから冒険者カードは返しておくのだ。じゃあ、工房に行ってくるから、ちょっと待っているのだ」


 少女はそう言うと、店の奥に入っていった。

 待っている間暇なので、店内を見てまわる。


「何か良い物ある?」

「前来た時と同じだね。お金に余裕があれば何か買いたいところなんだけどね」

「お金ね……」


 予算が心許無いので買うのは無理だ。しばらく商品を見ていると、刀が置いてある場所で気になるものを見つけた。少し黒っぽい刀身に細かい網目状の模様が入って美しい。


『あれは……。手にとって良く見せて!』

『はいはい』


 美奈に言われ刀を手に取る。装飾刀かと思ったが、ずっしりとした重みに切れ味鋭い刃で実用刀だという事が分かる。


『これ欲しい! 買って!』

『えー。お金が無いよ』

『じゃあ、稼いできて。色々我慢しているんだから、このくらいのお願い聞きなさいよ』


 美奈には色々我慢させて悪いから、買ってやりたいのは山々なんだけどな。

 この刀「天鉄刀」はかなり高額で、買うと準備してきたお金が余裕で飛んで行く。刀を持ったまま、その場でどうしようか悩んでいた。


「それを手に取るとは、中々見る目があるじゃないか」


 突然、背後から掛けられた声に、驚いて思わず振り返ると、少女の隣に髭モジャの中年男性が立っていた。少女も身長が低いとは思ったが、中年男性も少女より拳一つ分高いだけで、僕の胸辺りしか無い。男性を見て思い当たる事がある。

 山の民ドワーフだ。低身長に髭という特徴が一致しているので間違いない。


「えーと、和多志わたじさんですか?」

「そうだ。儂が店主の『大山 和多志(おおやま わたじ)』だ。ときに、嬢ちゃんが手に持ってる刀は買うつもりなのかね?」

「残念ながらお金が無いので、今はちょっと無理ですね」

「そうか、金が無いんじゃしょうが無いな。それで、今日は防具だけで良いのかね?」

「はい、防具だけでお願いします」

「良し、じゃあ見積もるとしようか」


 和多志さんは〈火鼠の毛皮〉を手に取り考え込んでいる。その様子を見ながら、予算内に収まることを祈っていた。

 毛皮の使途が決まったのか、和多志さんが顔を上げる。


「この〈火鼠の毛皮〉、このままじゃ使えんから、加工しても良いかね?」


 唐突に言われた言葉の返答に困り、八尋の顔を見た。八尋が頷いたのを確認して和多志さんに返答する。


「ええ、それは構いませんけど、どうするんですか?」

「まず、体毛と皮を分ける。使うのは皮だけだから、分けた体毛で〈火浣布〉を作れば嬢ちゃん達も損はしないだろう」


 高値で売れる〈火浣布〉が残るなら確かに損はしない。逆に儲けが出る可能性もある。そう一瞬で判断し即答していた。


「それでお願いします!」

「お、おう。でだな、皮を加工して作れるのは三つぐらいか。お薦めとして、嬢ちゃんに革服、革ズボン、坊主には革鎧が良いだろうな」

「うーん? 良く分からないのでお任せします」


 装備の事は良く分からないので、専門家に任せたほうが良いだろう。


「分かった。後は、どんな「意匠」にするか希望は無いか? 無いならこっちで勝手に決めるぞ」


 聞きなれない「意匠」って言葉を疑問に思っていると、美奈が『見た目の事よ』と教えてくれた。美奈が「意匠」を知っていたことに驚いたけど。


「オイラは目立たない色にして貰えると良いかな」

「そのままだと赤いから、まあ目立つな。黒にしておくか?」

「うん。それで良いよ」

「黒だな。了解だ。で、嬢ちゃんはどうするんだ?」


 どういう見た目にするか、色々考えたがよく分からない。ダメ元でお気に入りだった服と同じに出来ないか聞いてみよう。ボロボロになった元防具を取り出した。


「これと同じように出来ませんか?」

「ん? やけにボロボロだな。出来なくはないが、全て同じとはいかないな」

「出来ればで良いです。色はそのまま赤でお願いします」

「赤だな。さて、ズボンはこっちで決めるとして、早速採寸するとしよう。坊主は儂が、嬢ちゃんは『三津乃(みつの)』だな」

「任せるのだ」


 三津乃と呼ばれた少女が返事をした。僕は「山犬の外套」を受け取り三津乃ちゃんに付いて行く。

 三津乃ちゃんの頭がお腹の辺りで揺れていた。茶色の髪が目の前でモコモコしていて触りたくなる。


「ねえ、頭撫でても良いかな」


 我慢できなくて聞いてしまった。


「撫でるだけなら別に構わないのだ。その間に採寸するから服を脱ぐと良いのだ」


 服を脱いで、採寸している間モコモコを堪能した。


『私も触りたい』


 現状では無理だから、また我慢してもらうしか無い。何か方法があれば良いんだけど。

 採寸を終えてカウンターに戻ってくると、八尋も採寸を終えていた。


「採寸も終わったし、後は料金だが……。そうだな、十五万でどうだ」


 予算よりは多いが払えなくはない。防具一つ分で五万だから妥当なのかもしれない。

 用意していた金貨十枚を支払う。


「とりあえず、十万払います、後は……」

「金が無いなら残りの分、安くしてもいいぞ」


 カードで支払おうとしたら、和多志さんが提案してきた。安くなるなら願ってもない。


「えーっと、どうすれば良いんですか?」

「何、簡単だ。儂から出す依頼を受けてくれればいい。上手くいったら成功報酬も考えるぞ」


 依頼を受けるだけで五万安くなれば、かなり得になる。おまけに成功報酬もあるなら、なおさらだ。八尋を見ると目で依頼を受けろと言っている気がする。


「分かりました、依頼を受けます。でも、どういう内容ですか?」

「内容は素材を拾ってくるだけだから難しくはない。目的地までは、三津乃に案内させるから心配しなくていいぞ」


 三津乃ちゃんに案内させるって、別の意味で心配なんだけど。目的地まで魔物が出ないのだろうか?


「三津乃ちゃん、子供なのに危険じゃないんですか?」

「ん、子供? 三津乃はもう成人しているぞ。確か今年で二十四歳だな」

「そうなのだ! 大人なのだ!」

「エェェェ――年上なの――!?」


 店内に僕の絶叫が響き渡った。


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