表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/60

43話 死闘

 冷た!!

 液体が肌に染み入る感覚で目が覚める。一瞬気を失っていたらしい。目が覚めると頭からびしょ濡れになっていた。


「美奈しっかり! 今、回復させたから!」


 八尋の手にポーションの容器が握られている。

 火球の直撃の後にポーションで回復させたらしい。びしょ濡れになっているのはその所為だ。


「もう大丈夫よ! それよりあれは何?」


 燃え盛る赤鼠について聞いた。


「燃えている姿で思い出した。あれは《火鼠》。火属性は無効化されるよ」

「そっか、《火弾ファイアボルト》が裏目に出たってことね」


 火属性が効かないとなると、あまり攻撃手段が残っていない。しかも、燃え盛る《火鼠》の熱で容易に近づけない。八尋の弩も致命傷には至らないだろう。万策尽きそうだ。


「熱いわね」


 額に汗が滲む。狭い階段が熱を持ち始めていた。こうなると、狭い階段が逆に不利になる。


「階段から離れましょう」

「そうだね」


 《火鼠》が階段を上るのに合わせ、同じ分だけ階段を上る。階段を上りきったところで再び火球が飛んで来る。間一髪広場に移動して躱し、目の前を通った火球が天井に当たった。天井に爆炎が巻き起こる。


『見物している場合じゃ無さそうね』


 美奈が身体の中に入って来る。


『美奈、ありがとう』

『あんまり当てにしないこと。それより、あの火球を何とかしないとダメね』


 何か無いかと頭をフル回転させる。ふと自分の身体を見ると、ある一点に視線が留まる。全身煤だらけのはずなのに、小太刀だけが綺麗なままだった。

 【小太刀:霧月】母様から貰った護り刀。刀を納め、代わりに【霧月】を抜く。抜いた瞬間周りの温度が下がった気がした。


『【霧月】! これならいけるわ!』


「八尋! 近付くから援護して!」


 【霧月】をかざして八尋に指示する。意図を汲んだ八尋は短く答える。


「了解!」


 《火属性抵抗ファイアレジスト》を使用して、階段を上って来る《火鼠》を待ち構える。上りきった《火鼠》の姿を確認すると、脱兎の如き勢いで接近。火球を放とうと口を開けた瞬間、《火鼠》の口の中に矢が命中した。かすり傷程度だったが火球を中断させる。その隙に一気に間合いを詰めた。《火属性抵抗》と【霧月】の効果で何とか近寄れる。


 近付くと《火鼠》の異様さがよく分かる。見上げる程の高さと、《巨大溝鼠》を二回り程大きくした体躯、それから腕の長さほどもある体毛。それに加えて燃え盛る炎と、今まで戦ってきた魔物とは格が違っていた。恐ろしいが倒さなければ生き残れない。恐怖を捨て《火鼠》を倒すことに集中する。


 炎を纏った右の引掻きを回避し、牽制の胴払いで頭を下げさせる。頭が下がった瞬間、喉元に《強撃》の突きを放つ。威力を増した突きは、【霧月】の刀身を根本まで埋める。


「ギィィァァ――!!」


 醜い悲鳴を上げてもしぶとく生きている《火鼠》は、こちらの動きが止まったところを狙い噛み付こうとする。《強撃》を使用した蹴りを胴体に繰り出し、強引に【霧月】を引き抜く。後ろに倒れながらも噛み付きを躱す。転がりながら直ぐに起き上がり体勢を立て直した。《火鼠》は火球を放とうとするが、喉の傷から炎が漏れ不発に終わる。


『これで火球は封じたわね。火球がなければただの大きな鼠よ!』

『行くよ!!』


 勝機を見出し、果敢に攻める。左右の大振りをしゃがんで回避し、体重を支える右足を斬る。体勢を崩したところに、勝る敏捷さで右へ回り左足の健を断つ。


「ギャッ――!!」


 倒れ込みながら滅多矢鱈に振り回される攻撃を、大きく間合いを取ることで回避する。更に燃え上がった炎は、残った命を燃やしているようだ。離れていても熱気が伝わる。

 やがて疲れが見えた《火鼠》に、最後の攻撃を仕掛ける。

 【霧月】を両手で腰に構え、力の限り足を蹴り出し突進する。最後の力を振り絞り立ち上がった《火鼠》の、大口から覗く巨大な歯牙が迫る。更に加速し歯牙が身体に届く前に両手を突き出しスキルを放つ。


「ヤァァァ――――!!」


《捨身》――防御を捨て攻撃を倍加させる――の突きが《火鼠》の胸の中心に深々と刺さる。勢い余って体当たりをかまし《火鼠》と一緒に倒れこんだ。何とか立ち上がって《火鼠》から離れる。

 すでに満身創痍の状態だ。スキルの使い過ぎで気分は最悪、身体のあちこちには水膨れが出来ている。だがしかし、《火鼠》はしぶとく起き上がろうとしていた。


『しぶといわね! 大人しく倒れなさい!』


 美奈の言葉が今の気持ちを代弁する。やがて、言葉が通じたのか燃え盛っていた炎が消え《火鼠》は事切れた。完全に動きが停止したのを確認して【霧月】を回収する。


『私の出番は無かったわね。中々動けるようになってるけど、私の身体を傷物にしないでよね』

『ごめん、気を付けるよ。でも、もうダメ動けない……』


 僕は限界がきてその場でへたり込んだ。八尋が近寄ってポーションを差し出してくる。


「無事で良かった。無茶ばかりして、死ぬんじゃないかと気が気じゃなかったよ」


 ポーションを受け取り一気に飲み干す。身体中の痛みが薄れ、怪我が回復していくのが分かった。


「この【霧月】が無かったら、死んでいたかもね」

「そうかも知れないね」


 実際【霧月】が無かったら倒せていたのかどうかも分からない。【霧月】に付いている血を拭って鞘に納めた。


『母様に感謝しなさいよ』

『分かってるって』


 記憶の中の母様(綾さん)に改めて感謝する。


「こいつはどうしようか?」


 《火鼠》を指して八尋が言った。

 普通に【素材剥取人形】で剥ぎ取っても良いけど、よく分からない。素材以外は全部無くなるからな、【素材剥取人形】。


「道具箱に入ったら、そのまま持って帰りましょう」

「りょーかい。試してみるよ」


 八尋が道具箱に入れられるか試みると、あっさり入った。何となく入るんじゃないかとは思ったけど。

 《火鼠》も丸ごと持って帰れそうだし、これからどうするか。すでに依頼達成の条件は満たしたので、もう地下街跡を探索する必要はない。それに、防具がボロボロで戦う気力も尽きている。

 

「もう帰りましょうか。今日はこれ以上戦いたくないわ」


 地下街跡を脱出し地上へと戻る。辺りは夕暮れに染まっていた。


 ふり返ると、今回は反省することが多かった。魔物の危険性を甘く見ていた事で死にかけた。色々と強化する必要がありそうだ。

 それに、元の世界に帰る方法も探さなくてはいけない。やることはいっぱいある。だがその結果、この未来さきどんなことが待っているのだろうか。未だ不透明すぎて未来さきは見えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ