41話 討伐依頼
昼食を取り休憩した事で、体調は回復していた。
休憩所は段々と人が増えてきたが、席を空ける程でもない。ガヤガヤと騒がしくなり、食休みの暇つぶしに何か面白い話が無いか聞き耳を立ててみた。
「あの紅い髪の娘可愛いな、新人さんかな」
「え? どの娘だよ」
「馬鹿、あんまりキョロキョロするな」
「アキバの方にスイーツの美味しいお店が出来たみたいよ」
「へぇ~、美味しいなら今度行ってみようかな」
「行こう行こう。私も行ってみたいし」
「最近、またアレが増えてるみたいだぞ」
「えー、また増えてるの? あー嫌だ。考えただけで寒気がしてきたわ。早くどうにかしてよ」
「俺に言われてもな。その内、討伐依頼が出るだろ」
「またボヤ騒ぎがあったらしい」
「最近、多くねーか? 放火とかか?」
「分からん。原因不明らしい」
役に立つのか分からないが色々な話が聞けた。アキバのスイーツは気になったので、家も近いし調べてみるかな。後、美奈のことを言ってた気もする。
まだ家に帰るには早いし、すぐ終わりそうな依頼がないか探してこよう。
「帰るにはまだ早いし、スキルと魔法の試し撃ちに何か依頼でも受ける?」
「夕方までに終わりそうなら、受けても良いかもね。でも、その前に受付に行かないと」
「あ! すっかり忘れていたわ。すぐに行きましょう!」
魅香さんに終わったら来るように言われたのを、すっかり忘れていた。慌てて受付に向かう。
「すいません遅くなりました!」
「外に出なければ遅くても構わないわ。それで、もう用事は済んだの?」
「はい。終わりました」
八尋も頷いている。怒られなくて良かった。
「そう、終わったならまた鍵を掛けるわね」
そう言って魅香さんは鍵を取り出し、左手の魔法印を施錠した。
「これで良いわ、お疲れ様。ところで、今から時間あるかしら?」
「依頼を受けてから、出かけようとしてましたけど、何かあるんですか?」
「あら、ちょうど良いわ。ちょっとした依頼があったのよ」
どんな依頼だろうか?
時間もあるし話だけなら聞いても良いかな。
「話だけなら良いですよ。受けるかどうかは別ですけど」
「ええ、それで良いわ。ここでは何だから移動しましょう」
魅香さんに付いて依頼受付まで移動した。カウンターを挟み席に着く。
「さて、依頼の中身なんだけど、ちょっとした魔物退治をして欲しいの」
「魔物退治ですか?」
わざわざ頼んでくるんだから、普通の魔物退治じゃ無さそうな気がする。
『何かありそうね』
『そうかもしれないけど、話だけは聞いておかないとね』
ヤバそうな依頼なら断ろう。ただ、断れるかどうかは別の話だ。
「最近、魔物が増えてきたから、緊急に退治して欲しいのよ」
「緊急? どんな魔物何ですか?」
僕の質問に魅香さんは言い淀んだあと、小声で魔物の名前を言った。
「……《巨大溝鼠》」
「……。溝鼠ってあの溝鼠ですか?」
「どの溝鼠か分からないけど、多分間違ってないわ。因みに、《巨大溝鼠》の体長は一M以上あるわよ」
ワーオオキイ、出来れば遠慮したい。『私も嫌よ』と、美奈も同じ気持ちのようだ。
「えーっと……。受けなくても良いですか?」
「被害が大きくなってからでは遅いし、出来れば断らないで欲しいのよね」
話しぶりからすると、すでに被害が出ているらしく断り辛い。美奈には謝って、依頼を受けることにした。
「はぁ……。話も聞いてしまったし、しょうがないですね。八尋もそれで良い?」
「オイラは別に良いけど、何かおまけしてもらえるなら嬉しいかな」
「ウフフ。ありがと。良いわ、報酬におまけをしておくからお願いね」
「分かりました。おまけに期待します」
「依頼内容はこれよ。見ておいてね」
依頼内容が書かれた紙を渡された。
【《巨大溝鼠》の討伐】
種別:組合依頼
条件;何体でも討伐可
報酬:四千マナ
《巨大溝鼠》一体につき¥二百
報酬の欄を見て首を傾げる。
「報酬にマナってありますけど、これは何ですか?」
「あっそういえば、まだ登録してから組合依頼を受けたことが無いわね。組合依頼の報酬は、討伐系はマナ、納品系はお金がもらえるのよ。討伐依頼の方は多少のお金も手に入るけどね」
「へぇ~そうなんですね」
「じゃあ、ササッと手続きを済ますから、依頼用紙の魔法印に左手を置いて頂戴」
気にしていなかったが、依頼用紙を見ると魔法印が書いてあった。言われたとおりに左手を置くと、用紙の魔法印が光り、しばらくすると消える。八尋も同じように左手を置いていた。
「はい、手続き終わり。受けた依頼は「依頼画面」で確認できるわ。画面の出し方は言わなくても分かるわよね」
ステータス画面と同じ要領で依頼画面を出す。画面には依頼用紙の内容が書かれていた。
「こんなことも出来たんですね」
技術の高さに正直驚いた。
「組合員じゃないと出来ないけどね。依頼が達成されたり、何体倒したかは画面に出るから、確認作業がすごく楽になったわよ」
「確かに楽そうですね」
討伐部位を集めなくて良いし、冒険者の方も楽だろうな。
「それは良いとして、そろそろ出かけないと暗くなる前に帰って来れないわよ」
「行きたいのは山々なんですが、場所を聞いてませんし」
「あら、言ってなかった? ごめんなさい。場所は組合から南に五、六分行った所にある地下街跡よ」
やけに近い。五、六分だとまだ街の中だ。
近いのにそんなに時間が掛かるものなのだろうか。
「ん? もしかして街の中にあるんですか?」
「そうよ。だから、困ってるのよ。出入口は封鎖しているはずなんだけど、何処からか出て来るのよね」
「でも、街の中なら暗くなるまでに帰って来れるような?」
「《巨大溝鼠》って弱い割に数だけはいるのよ。殲滅とまではいかなくても、ある程度討伐して欲しいしね。それに、覚えたてのスキル等を試すのに良いんじゃない?」
魔物に試そうとは思ってたけど、完全に見透かされてる。そういう事なら、場所も聞いたし早く行って帰ってこよう。
「地下……。八尋、明かりって持ってた?」
「一応持ってるけど、予備がないね。買いに行く?」
「あら、明かりくらい貸すわ。ちょっと待ってて」
魅香さんは棚を探して、腰に下げられるランタンを渡してきた。魔石で明るくしているので落としても安全らしい。
「はい。これで夕方位までは持つと思うわよ」
「ありがとうございます」
「地下街跡の出入口に人がいると思うから、話して地下に入れてもらってね。二十体位は倒してもらえると助かるわ」
「……分かりました。行ってきます」
何かノルマを課せられた気がするが、それだけの数がいるという事が分かってしまった。
まあ、受けてしまったものはしょうがない。暗いところでの戦闘もいい経験になるだろうしな。
『結構な数、倒さないといけないのね。頑張って倒すのよ』
『怪我しない程度に頑張るよ』
まあ、危なくなったら逃げる気満々なんだけど。鼠に殺されたくないしね。
「八尋、何かごめんね。断りきれなかったわ」
「報酬も貰えるし、良いんじゃない。近いからすぐ帰って来れるしね」
組合を出て地下街跡まで着くと、地下への階段を下りて行った。




