39話 スキル
鍛錬場に続く階段を下りると、地下の案内図があった。男女別の更衣室(シャワー付き)、鍛錬場、休憩所、講義室、おまけにプールまであるようだ。
「へぇ~プールまであるみたいね。暑い時にでも来てみる?」
「そういう時は混むんじゃないの」
「あー確かに混みそうね」
外にプールなんて無いだろうし、暑くて我慢できなかったら来てみよう。
鍛錬場で人の気配がしたので覗くと、数名が指導を受けているだけで閑散としている。その中で暇そうにしていた厳つい風貌の初老男性に、覗いていたのが見つかった。
「おい! そこの覗いている奴。そんなとこに居ないで、こっちに来きたらどうだ」
いきなり声を掛けられ驚いたが、怒られる訳でもないし男性の側に行く。
「「おはようございます」」
「おう、おはよう。あんた達見ない顔だな。新人さんかい?」
「ええ、昨日登録したばかりです。担当から、ここでスキルを教えてもらえると聞いてきたんですけど」
「おう、指導しとるぞ。儂は指導員の『鹿島 建男(かしま たけお)』だ。宜しくな」
僕達も自己紹介をすると、建男さんは戦士職の指導員ということだった。八尋には教えることが無いということで、ここで別行動をとる事にした。
「で、何を覚えるか決めてきたのか?」
「いえ、何を覚えたらいいのか良く分からなくて」
「ふむ、ならまずあれを教えんとな。まず、前衛に必要なのは、敵の注意を惹きつける事というのは分かるな?」
「はい、分かります」
「よし、実際にやってみせるからよく見てるようにな」
建男さんは大きく息を吸い、大きな声で叫ぶ。
「気合だぁぁーー!!」
鼓膜がビリビリ震えるほどの大音響。しかし、何故か建男さんから目を離すことが出来ない。スキルの効果だろうか。叫び終わっても、しばらく目が離せなかった。
「どうだ、これが《挑発》だ」
「すごかったです。目が離せませんでした」
「そうだろう。しばらくの間敵の注意を惹き付ける効果があるからな。どうする覚えるか?」
「はい、お願いします」
建男さんからコツを教えてもらい《挑発》を試してみる。大きく息を吸い腹に力をためる。そして、ためた力を一気に開放した。
「気合だーー!!」
大きな声で叫ぶと、身体の中から何かが抜けたような感じがある。ただ、《挑発》が成功したのかどうか今一分からない。
「ふむ、初めてにしては中々だな。これなら、実戦でも使えるだろう。後、叫ぶ言葉は何でもいいぞ」
「あ、はい……」
《挑発》はうまく発動していたらしいけど、最後のは早めに言って欲しかった。おもいっきり叫んじゃったし。
『プッ。何やってんの。恥かしいわね』
『笑わないでよ。それに悪いのは僕じゃない。みんな世間が悪いんだー』
『何それ?』
恥ずかしいので訳の分からない事を言って誤魔化した。
それから、美奈と会話するのをやめ、訓練に意識を集中する。
「この調子なら早く終わりそうだな。次は飛ぶ斬撃《飛撃》でも覚えてみるか?」
「遠距離攻撃なら便利そうですね。お願いします」
「よし、あの的を狙ってみるからよく見ておくんだぞ」
建男さんは、十M程離れた所に埋まっている丸太を指差す。そして、剣を正面に構えた。「いくぞ!」建男さんがそう言うと、剣身が薄っすらと光り、何かの力が集まっている。剣身全体に力が集まりきったところで剣を振るうと、剣身から飛び出した刃が空気を切り裂き丸太に直撃。重い衝撃音とともに丸太が両断される。
「真っ二つ! すごいです!」
「剣身にマナをいかに集められるかが、成功する秘訣だな。上手くできれば魔法も覚えやすくなるぞ。さあ、やってみろ」
早速、刀を構え刀身にマナを集中させる。どうやればいいか分からなかったが、体の中の力を剣に流し込むように想像した。すると、刀身がボヤッと光り始める。しばらくして、刀身に力を流し込めなくなった感じがした。
「よし、そろそろ良いだろう。刀を振るってみろ」
丸太に狙いを定め刀を振るう。刀身から飛び出した刃が丸太に命中したものの、浅く斬りつけた跡が残るだけだった。
「浅い。全然斬れませんね」
「いや、飛ばせるだけでも大したもんだ。まあ、そんなこったろうとは思ったがな」
「え? どういう意味ですか?」
「何だ知らんのか。髪だよ、髪。髪の色でマナの扱いが上手いのは分かったのさ。何で自分の髪が紅いのか、不思議に思ったことはないか?」
日本人なのに髪が紅いので変だとは思った。そういえば、多種族の人は黒髪じゃない人もいたけど、人間で黒髪じゃないのは珍しかったな。
『父様以外皆紅いけど、遺伝じゃないの?』
『髪が紅いのは理由があるっぽいね』
気になり始めると答えが早く知りたくなる。建男さんに答えを急かす。
「遺伝かなと思いましたけど、何かあるなら気になります。早く教えて下さい」
「大した事じゃないから、そう慌てなさんな。マナの扱いに長けている者は身体的特徴があるんだ。分かりやすいのは髪の色とかだな。例にあげると森の民だが、魔石持ちの魔物も何らかの特徴があるな」
「へぇ~そうだったんですね」
「しかし、紅髪で「十六夜」って姓だと、嬢ちゃんあの道場の娘か?」
「ええ、そうです」
「ほう、やっぱりそうか。よし気に入った。何か困ったことがあったら、いつでも儂に相談に来い。力になるぞ」
「ありがとうございます。でも、家の道場ってそんなに有名なんですか?」
「まあ、この業界で知らん奴はいないだろうな」
美奈ん家の道場が有名だったなんて全然知らなかった。
『美奈ん家の道場って、すごかったんだね』
『知らなかったわ。でも、沢山通ってた人はいた気がするわね』
『そんな認識しか無いんだ』
『まあ、どうでもいいじゃない。道場が有名だからって今は関係無いでしょ』
そう言って、美奈は会話を終わりにした。確かに今道場の事は関係無い、スキルを覚えるのに集中しよう。
「まだ教えることはいっぱいあるからな、続けるぞ」
「はい、お願いします」
建男さんに色々なスキルを教わったが、《飛撃》よりは簡単に覚えられた。意外と早く終わったので、実戦で試せる時間があるかもしれない。ただ、スキルを使いすぎると倒れることもある、と念入りに注意された。
「基本的なことは教えたが、後は要練習だな。他に何かすることがあるのか?」
「ええ、魔法を覚えたいのですが、どうすればいいのか分からなくて」
「それなら、講義室に行ってみるといい。魔法職の指導員が誰かしら居るはずだぞ」
「分かりました。今日は色々とありがとうございました」
「おう、また何か教えてもらいたかったら、儂んとこに来い」
建男さんと別れて講義室に向かう。
念願の魔法が覚えられると思い、期待で胸が膨らんでいた。




