38話 職技能
部屋の片付けが終わり、秋の家で夕食を取っている。急な事とはいえ、ちゃんと人数分の食事が用意してあったのは流石だと思った。
『稲田 命』さん、秋の家の女中さん兼、居住区管理人。かなり優秀な人らしい。これから先とてもお世話になるので、改めてきちんと挨拶をしておいた。
美味しい夕食を終えて、貰ってきた冊子について話し合う。
「この冊子に書いてある職技能ってどれを取ったらいいと思う?」
「う~ん? 戦闘関係だと基本四職しか取れ無いし、好きなので良いんじゃない」
「そうだよね」
冊子によると基本四職とは、戦士・盗賊・僧侶・魔法士の事で、その他の物は副技能と呼ばれている。最大レベルの10まで上げれば上位技能が習得できるが、とりあえず今は関係無い。
「八尋と秋はどうするの?」
「オイラは盗賊だけだったから、そのまま盗賊のレベルを上げていくよ」
「私はとりあえず保留ですね。魔法に興味はありますけど」
「あ、分かる。魔法って使ってみたいよね。それに、今日の《粘液性物》みたいな相手だと、魔法の必要性を実感するわね」
この世界の魔法は誰でも使える技術で、習えさえすれば使える。元々は魔物が使っていた技術らしいけど、色々研究され誰でも使えるようになっていた。
「うん、確かに必要だと思った。そうなると、オイラが覚えようか?」
「いいえ、魔法は使ってみたいから覚えるわ。八尋は自分の好きなようにして良いわよ」
「そういうことなら好きにするけど、大丈夫なの? 覚えるの苦手だよね」
ニヤリとからかうように八尋は言った。
『おやぁ、もしかして私、馬鹿にされてるのかしら?』
『かもしれないね』
まあ、魔法を覚えるのは僕だし、多分覚えられると思うけどな。でも、美奈の手前、一応釘は刺しておく。
「覚えるのは大丈夫よ。でも、その言い方はないわね」
ビシッ! 軽くデコピンをしたつもりが、思ったよりいい音がする。
「痛! ごめん。ごめんってば」
相当痛かったのか、おでこを抑え涙目になっていた。美奈の力が強い所為か、力加減が難しい。
「まあ、良いわ。明日は職技能を上げたら、色々スキルを習いに行きましょう。それから、時間があったら依頼を受けるって事で良い?」
「うん、良いよ。早く終わった方が休憩所で待つって事にしよう」
明日の予定も決まったところで、秋が話しかけてきた。
「美奈、今の内に茸の代金を渡しておきますね。中に金貨が二十枚ずつ入っています」
秋は二つの小袋を取り出し、僕と八尋にそれぞれ渡してきた。受け取った小袋を道具箱に入れる。
「確かに受け取ったわ。ありがと。じゃあ、部屋に戻るわね」
「ついでですから、お風呂もどうですか?」
秋の言葉に甘えてお風呂もいただいた。秋の家のお風呂は広いからしょうがない。
お風呂を済ませ、自分たちの部屋に戻ってきた。
「部屋も借りちゃったし、明日から稼がないといけないわね」
「そうだね。行き当たりばったりで、これから先どうなるかさっぱり分からないけどね」
八尋の言うとおり、これから先の事は分からない。一つ一つ問題を解決していくしか無い。『元に戻る方法を優先して』と美奈は言っていたが、ここまで来たら焦らなくても良いんじゃないか、とも思う。
「元に戻る方法も探さないといけないし、忙しくなるわね。まあ、今日のところは早く寝ましょう」
明日の用意をしてベットに入ると、新品の気持ちよさにあっという間に眠ってしまった。
朝の支度を終え、秋の家で朝食を済ませる。
「じゃあ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」
今の秋とのやりとりは夫婦っぽい、と思いながら家を出た。
朝の空気が新鮮だ。朝早いこともあり、人の通りも少ない。人混みは好きじゃないので、こういうのはすごく気分がいい。
上機嫌のまま組合に着いた。こんな時は何か良いことがありそうな予感がする。
組合の中には、あまり人が居ない。もう少し遅い時間なら混んでくるのだろうか。
先に口座の入金を済ませることにする。昨日受け取った金貨を十枚ずつ入金した。
「入金も終わったし、受付に行きましょう」
受付に移動すると、今日も変わらず魅香さんが座っている。
「「魅香さん、おはようございます」」
「あら、おはよう。今日は、どんな用事なのかしら?」
「はい、今日は職技能を上げるのと、スキルを覚えたくて」
「そう。それなら、移動しましょうか」
移動した先で魔法印を見せるように言われ、僕達は魔法印を浮かび上がらせた。
「今から制限を解除するわね」
魅香さんは鍵の様なものを取り出し魔法印に押し当てる。すると、不思議なことに魔法印の中に鍵が埋まり、解錠するように回して魔法印から引き抜いた。
「ステータス画面を見てもらえるかしら?」
ステータス画面を開くと能力値と職技能に上下の矢印が付いて、上げられるようになっていた。
「しばらく解除しておくから終わったら言いに来て頂戴。そのまま帰ったらダメだからね。それと、スキルを覚えるつもりなら鍛錬場に行きなさい」
魅香さんはそう言って受付に戻っていった。
『戦士と魔法士を上げて良いんだよね?』
『良いわよ。早く終わらせて鍛錬場に行きましょう』
美奈に確認してから戦士と魔法士のレベルを上げる。八尋も何かの操作していたので盗賊の技能を上げたのだろう。
「八尋、もう終わった? そろそろ鍛錬場に行こうか?」
「うん、こっちも終わったから行こう」
鍛錬場はどんな所なのか、期待と不安を膨らませながら、地下に下りて行った。




