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37話 家(拠点)

 帰って来て早々、シャワーを借りさっぱりさせてもらった。現在、秋の部屋にて紅茶を飲んで寛ぎ、これからの事を考える。

 冒険者登録も終わり、一番に考えることは宿のことだ。今夜は宿屋でいいとして、長期的に考えて何処かに家を借りた方が良い。今から探せば十分探す時間がある。ただ、土地勘が無いので何処を探していいのか分からない。知っていそうな秋に聞いてみよう。


「ねえ秋、今夜の宿が探せる場所と、何処か借りれそうな家を知らないかしら?」

「宿と家ですか……。宿は場所を教えますけど、借りる家の希望は何かありますか?」


 希望か……どんな所が良いのだろう。


『八尋と二人で住むなら広い所でしょ。後は、組合に近い方が良いわ』

『りょーかい。後は家賃次第というところだね』


 美奈の希望を伝えると、秋は「う~ん……」と考え込んでいる。条件が厳しかったのかな、と思っていると、秋の顔にパッと花が咲いた。


「あります! 条件にぴったりの物件が!」

「え!?」


 バンッとテーブルを叩き、身を乗り出した秋に圧倒され怯む。驚いて二の句が継げない僕を見て秋は言った。


「ここですよ! 五階の空き部屋が条件にピッタリなんです!」


 話によると四階と五階は従業員優先になっているものの、他の人にも貸し出しているとの事。四階は単身者用、五階は家族用になっていて、四階は空きが無いようだ。五階は賃料が高いため空きがあるらしい。

 因みに管理しているのは、女中の『稲田 命(いなだ みこと)』さんだ。


「秋の部屋にもすぐ行けるし、立地は最高よね。でも問題は、賃料がいくらなのか? ね」

「そうですね……。美奈さん達ですから特別に、一月金貨十枚でどうでしょうか?」


 金貨十枚が高いのか安いのかさっぱり分からない。


「う~ん? 因みにで良いんだけど、四階の賃料はいくらなの?」

「四階ですか? 金貨八枚ですね」


 元がいくらか知らないが、差額が金貨二枚だとかなり安くなっている。


『ここで決まりでしょ』

『文句無しだね。まあ問題があるとすれば、結構稼がないといけない事くらいかな』


 家賃に道具箱の使用料、食費と支払うものが結構ある。こんな事だと生活が落ち着くまで、書庫での調べ物は出来そうにないな。


「かなり安くしてもらってるみたいだし、借りることにするわ。秋、ありがとね」

「いいえ、空いているよりは使ってもらった方が良いですからね。早速、部屋を見に行きますか?」

「ええ、お願い。もう決めちゃったけど八尋も良いよね?」

「オイラも良い物件だと思うし、良いんじゃない。探したとしても他に良い物件があるとは思えないしね」


 八尋に許可も貰ったし、直ぐに部屋を見に行った。隣の部屋だったので、すぐに着いたけど。


「隣の部屋なんだ」

「そうですね。何故かこの部屋は借り手がいなくて、いつも空いてます」


 意図的なものを感じるけど気のせいだろうな。

 部屋に入るとまずトイレと脱衣所兼洗面所が有り、奥はキッチンとダイニングとなっていた。残りの二部屋は、僕と八尋でそれぞれ使うことにした。二人で暮らすには十分な広さだと思う。


「良い部屋ね。貸してくれてありがとう」

「喜んでもらえて私も嬉しいです」


 秋の手を取り感謝すると、秋の顔が赤い。可愛いのでしばらく握っておいた。


 住む家が決まったので、次に必要なのが生活用品だ。大抵のものは『天海屋』で買ったが、家具は秋の知り合いの高級家具店で買った。買い物が終わると、金貨十枚が軽く飛んでいた。今日だけで手持ちの半分以上は使っている。


「……お金、大分減ったわね」

「うん、明日から稼がないとダメだね」


 八尋と二人で沈んだ気持ちで話していたところに、秋の明るい声が届く。


「元気を出してください。まだ、茸の代金も払っていませんし、護衛の報酬だってあります。美奈達が良ければ、護衛の報酬は今月の家賃って事にしておきますよ」

「良いの? 秋が良ければそうしてもらえると助かるわ」

「それでは、家賃は来月から支払って貰いますね。それから、後で茸の代金を渡します」

「ありがとう、秋」


 今は月初だから、今月は何とかなる目処が付いた訳だけど、まだ重要な問題があった。八尋に目線を送り意思の疎通を図る。お互いに頷きあったことで意思の疎通は出来たと思う。


「秋にとても大事なお願いがあるの」


 八尋と二人神妙な面持ちをしている事で、秋も真剣な表情をして聞く体制を整えている。


「何でしょうか?」

「ええ、お願いというのは――――朝食と夕食だけで良いから、秋のところで食べさせてもらいたいの! 勿論、お金もちゃんと払うわ。簡単なものなら私達でも作れるけど、やっぱりちゃんとしたものを食べたいし、頼れるのは秋だけなの、お願い!」


 捲し立てるように言って拝む。秋はしばらく呆けていたが、やがて声をたてて笑い出した。


「フフフ。もう、びっくりさせないで下さい。大事なお願いって言うから、どんなものかと思ったじゃないですか」

「あら、食事の有無は深刻な問題だと思うわ。ねえ、八尋もそう思うでしょ?」

「うんうん、食事は大事だよ、秋」

「もう、そこまで言われたらしょうがないですね。食事の件は分かりました。そうなると、食事代は……魔物の肉が手に入ったら提供するという事でどうでしょうか?」

「オッケーよ。それなら、食べられる魔物を倒すようにしないとね」

「それじゃあ、今日の夕食からということで、用意ができたら呼びに来ますね」

「ええ、色々ありがとう。さーて、後は部屋をどうにかしないとね」

「夕食前にはどうにかなるんじゃない」


 荷物運びが楽なので、八尋の言うとおり夕食前までに終わるだろう。僕達は夕食まで部屋の片付けに専念した。


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