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36話 モフモフ

 受付まで移動し、使用料を払って『携帯道具箱アイテムボックス』付けてもらう。


「道具箱には五十種類入るようになってるわ。容量を増やしたい時は、追加料金が必要よ――」


 説明によると道具箱の仕様は、重さに関係なく五十種類、生きている物は入らない、入れている間は時間が停止している、の三点だ。

 使い勝手はどんなものだろうか、物は試し使ってみる。左手の魔法印を操作して、道具箱の画面を起動する。ステータス画面もそうだが、慣れれば思っただけで起動出来るらしい。道具箱の画面が現れると同時に、目の前の空間に厚みのない黒い穴が現れた。


「あら、早速使ってるのね。試しに何か入れてみたらどうかしら?」


 言われて気付いたが、黒い穴は他の人にも見えているらしい。とりあえず、木刀を黒い穴に入れる。すると、木刀が吸い込まれるように消え、画面の方に「樫の木刀」と表示されていた。


『へぇ~、すごいわね!』

『確かにすごいけど……』


 調子に乗って色々入れてみたが、取り出し方が分からない。穴の中に手を入れれば取り出せるかもしれないが、間違っていたらと思うと手が出ない。どうして良いか分からず「う~ん」と唸っている姿が可笑しかったのか、魅香さんが微笑んでいた。


「ウフフ。もしかしたら、取り出し方が分からないのかしら?」

「……はい」


 図星を突かれて物凄く恥ずかしい。顔が赤くなっているのが、見なくても分かる。


「手を入れても食べられたりはしないから、試しにやってみて」


 恐る恐る穴の中に手を入れたが、穴の中は暗くて見えない。手探りで探したところ、何かを掴んだ感触があり引き出すと手に木刀を持っていた。


「中が見えないので取り出すのが大変ですね」

「出したい物を意識すれば手の中に収まるけど、慣れが必要ね。後は、画面に表示してある道具を二回押すか、押したまま画面外に出せば穴から出てくるわ」


 早速やってみると言われたとおりに出てくる。それに、複数ある物は個数指定が出来るようだ。因みに、八尋と秋も色々試していた。


「道具箱、便利過ぎて手放せないかも」

「まあ、そのために登録しようとする人がいるくらいだしね。だから、討伐試験が必要になるのだけれど」

「なるほど」


 これだけ便利で、月額一万なら安いだろう。道具箱を使いたいだけの人間を、制限するのも頷ける。

 大体の説明を聞き終え席を立とうとすると、魅香さんに止められた。


「美奈さん「急いては事を仕損じる」って諺知ってる? 良い物を貸してあげるから、ちょっと待ちなさい」


 言われて再び席に着くと、魅香さんが席を立ち、何か丸い物体を持ってくる。


「そのモフモフ・・・・は何ですか?」


 モフモフの物体が気になって、魅香さんが話すより早く聞いていた。


「やっぱり気になるわよね。そんな貴女に、この【素材剥取人形】を貸してあげるわ。今なら月額で金貨一枚よ」


 ドヤ顔で言われてみたものの、モフモフの球にしか見えない。ただ、思わず返事をしてしまいそうになるほど興味はある。


『此処は即答でしょ!』

『言いたい事は分かるけど、先ずは性能を聞かないと』


 美奈にはそう言ったものの、名前だけで大体想像できるし即答でもいいけどね。


「えーっとですね。少し説明してもらえるとありがたいのですが」

「即決するかと思ったけど意外と冷静ね。それなら、起動してみましょうか。ここの突起を押してみて頂戴」


 指示された突起を押すと、モフモフの球が光り出し変化する。やがて、光が収まると四足の小動物が現れた。


「……「わんこ」ですね」

「ウフフ。そうよ、このモフモフ感が良いでしょ」


 魅香さんは、モフモフわんこを撫で回し感触を存分に楽しんでいる。目の前の光景に、思わず手が出たが、触れる寸前で止められた。


「あら、まだ契約していないから、お触りは厳禁よ」


 ぐぬぬ。ここでお預けを食らうとは、汚いなさすが魅香さん汚い。


「契約しますから、早く触らせて下さい!」


 金貨一枚を支払いモフモフわんこを触らせて貰う。毛並みのモフモフ感が素晴らしくずっと触っていたい。それと、ゴム毬みたいな弾力のある身体が気持ち良い。秋も興味がありそうな顔をしていたので、渡してみると夢中になって触り始めた。


「夢中になるのは分かるわ。でも、少しだけ説明を聞いてね。【素材剥取人形】は魔物を食べさせると素材だけ取り出してくれるの。素材以外の部分は動力源として使うから、稼働させる時は定期的に食べさせてね。まあ、使わない時は道具箱に入れておけばいいのだけれどね」

「へぇ~道具箱に入れられるんですか」


 秋がモフモフしているわんこを借りて道具箱に入れてみた。なるほど、画面の方に【素材剥取人形】と表示されている。わんこを取り出しまた秋に渡した。


「自律型だから愛玩用に使ってる人も居るけど、壊したら買取してもらうから気を付けて頂戴ね」

「えっ! いくら位するんですか?」

「月額に零が二つ付くくらいね。でも、頑丈にできてるから、そう滅多なことでは壊れないし安心して良いわ」

「!?」


 馬鹿高い買取額に驚いたけど、モフモフするくらいでは壊れないようなので安心した。

 そろそろ話も終わりと思っていたが、魅香さんの話はまだ続くようだ。


「最後に言っておくけど、ステータスを上げる時は担当の私を通す事。それと、一応ノルマもあるから気を付けて」

「ノルマがあるんですか?」


 僕と八尋はノルマがあっても平気だけど、秋はどうするのかが問題だ。秋を見てみると不安げな顔をしている。


「貴方達のランクなら月に二回の依頼達成になるわね。まあ、達成できなくても奉仕活動してもらうだけだから大丈夫よ」


 月二回くらいなら、手伝えば秋でも達成出来そうだ。秋もホッとした表情もしているし、大丈夫だろう。


「分かりました。色々とありがとうございます」

「どう致しまして。これも仕事だし気にしなくて良いわ。――半分は趣味みたいなものなのだし」


 最後の言葉は囁くように言っていたので、どういう意図かよく分からなかった。


 帰り際、口座の開設のため預けていた冒険者カードと、職技能についての冊子を貰うと、口座に入金するように言われた。道具箱と【素材剥取人形】の料金は、次から自動で引き落とされるようだ。明日入金しておこう。


「やっと登録が終わったわね。二人共お疲れ様」


 二人に労いの言葉を掛ける。何だか、討伐試験より時間が掛かった気がする。


「お疲れ」

「お疲れ様でした」


 二人共登録が終わったことでホッとしたようだ。秋は、今だにモフモフしているけどね。


「入金とかステ上げは明日で良いんだけど、これからどうしようか?」

「一先ず私の家に行きましょうか?」


 秋の提案に乗ることにした。他に案が無かったのもあるし、《粘液性物》との戦いで汚れたのもある。


「そうと決まれば早く帰りましょう」


 秋の家がある秋葉原へ向けて歩き出した。


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