34話 組合システム
帰路の間、結さんは終始無言だった。何の役にも立たなかった事を、少しは反省していたのかもしれない。こちらとしては、黙っていてくれた方が快適で良かったけどね。
組合には昼前に到着した。登録手続きをしていれば、昼食の時間になるだろう。
『意外と早く終わって良かったよ』
『早く終わって良かったじゃない。あんな事があったにしては、大した怪我もしてないし。まあ、あんなのに苦戦しているようじゃ、まだまだね』
『……精進します』
誤算があるとすれば、結さんが大して役に立たなかった事だ。秋の【爆炎玉】が無かったら、どうなっていたか分からない。本当、無事で良かった。
組合に入り魅香さんに討伐試験の報告に行く。
「あら、早かったのね。もう終わったのかしら?」
「はい、ちょっと予想外の出来事がありましたけど、何とか終わりました」
「何があったか気になるところだけど、先に結さんの報告を聞きましょうか」
全員で登録受付まで移動し、魅香さんは結さんの報告を聞いている。ただ、結さんは大分話を盛っていて、訂正しながらの報告は余計な時間が掛かっていた。
「試験に合格したのは分かったから、もう行っていいわ。後は、美奈さん達から聞いたほうが早そうね」
結さんの報告に、魅華さんは呆れ果て途中で切り上げる。そして、結さんは付き添いの報酬を受け取り去っていった。
「一人でもどうにか出来たはずだから、置いてきても良かったんじゃないかしら?」
「そんな実力があるようには見えませんでしたけど」
「死にそうになったらどうにかすると思うわよ。そんなことより、《大粘液生物》を倒したって聞いた時はびっくりしたけど、無事で良かったわ」
「そんなに驚くようなことですか?」
「ええ、だって魔法が使えないパーティでしょう? まあ、そのための付添人ではあったんだけど、それを魔法の援護なしに倒しちゃうんだもの」
魅香さんが唇を少しだけ横に広げるようにして微笑んでいた。
それにしても、魔法を使えないパーティって、何故知っていたのだろうか?
知っていて《粘液性物》の討伐を依頼するのも、酷いとも思ったが。
「偶々運が良かっただけです。それより、早く登録手続きをして下さい」
「あら、ごめんなさい。じゃあ、登録するから左手を出して」
僕達は言われるままに左手を差し出した。
「痛いのは最初だけよ」
魅香さんは差し出した左手を手に取り、取り出した印章を手の甲に押印した。チクっとした痛みがすると、幾何学模様の印影が光り出し熱くなっていく。それから、身体の中に何かが流れ込んでくる感じがした。やがて、左手の光が収まると熱も引いていく。左手を見ると押された幾何学模様が消えていた。
「ウフフ。今どんな気分かしら?」
妖しい目をする魅香さんが尋ねる。
「別に何も変わらないと思いますけど……」
特に身体に異常も見当たらないし、気分もいつもどおりだ。
「あら、割と淡白なのね。力が漲る~的なものがあるかと思ったのに」
魅香さんはつまらないという感じで、髪の毛しきりに触っている。
「まあ、良いわ。説明は後からすることにして、早く終わらせましょう」
八尋と秋にも同じ様に印章を押印していく。八尋と秋は「うわぁ」「はぁぁ」とか呻いて、魅華さんはその反応を楽しんでいたようだった。
「ウフフ。これで、全員の登録が終わったわ。それから、冒険者カードを渡しておくわね」
名刺大の金属板をそれぞれ渡される。何の金属で出来ているか分からないが、名前と紋章が彫られている以外は変わったところはない。
「冒険者カードは身分証としても、料金の支払いにも使えるから無くさないようにね。無くしても本人にしか使えないから安心しても良いけど、再発行にはお金が掛かるわよ」
「支払いに使えるなら便利ですね」
はっきり言ってクレカと一緒だった。お金を持って歩かないでいいのは、かなり便利だろう。
「でも、口座を開かないと使えないから、説明している間にやっておくわね。秋津さんは商工組合に持っているでしょうから、口座はそちらにしておくわ」
秋は「ありがとうございます」とお礼を言っていた。
「さあ、これから組合について説明するけど覚悟は良いかしら?」
説明だけで覚悟をしなきゃいけないことなのだろうか?
『長くなりそうだし任せるわ』
『はいはい。後は任せて良いよ』
美奈は早々に説明を聞くのを諦めた。そういうの苦手そうだししょうがない。
八尋と秋の二人と顔を見合わせて、覚悟を決めて頷いた。
「とりあえず、今渡した冒険者カードを持っていれば、東京での通行料は無料になるわ」
東京での通行料が無料になるのは懐に優しい。
「さっき、口座があればカードでの支払いが可能と言ったけど、現金しか使えない所もあるから注意してね。勿論、口座にお金は入れておく事」
「「はーい」」
魅華さんの説明を聞いていると、組合に鐘の音が響き渡る。
「あら、もうお昼なの。最初の報告に時間が掛かり過ぎたわね。後は説明するだけだから、昼食でも取りながら話しましょうか?」
役に立たなかった人の所為で、時間が掛かったのは間違いない。四人で昼食を取る事になった。
「休憩所に行きましょう。今の時間なら空いている筈よ」
「分かりました」
休憩所に移動すると確かに空いている。今の時間だと冒険者が少ないようだ。昼食を頼み空いているテーブルに着く。昼食が運ばれるまで一旦休憩だ。




