表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

33話 粘液生物(スライム)

 大鳥居をくぐると池があり、浮島との間に太鼓橋が掛かっている。池は濁っていてよく見えない。


「いかにも何か潜んでいますって感じの池だわ」

「うん。でも、不意打ちに注意しておけば大丈夫だよ。それに、《粘液生物スライム》に出てもらわないと、来た意味が無いよ」

「まあ、そうだけど」


 八尋と話しながら太鼓橋を渡り一つ目の浮島に着いた。浮島には本殿に真っ直ぐ続く道と、右へ行く道とに分かれている。とりあえず、真っ直ぐ進み浮島と浮島を繋ぐ平橋に差し掛かる。すると突然、風も無いのに水面が微かに揺れた。


「八尋!」


 小声で言うと、八尋が頷き先頭を交代する。八尋達をその場で待たせ、先行して橋に踏み入る。一歩踏み出した瞬間、ザバッ!! と水面が盛上がり、緑の物体が飛び出した。みるみるうちに橋が緑の物体で埋め尽くされ、行く手を阻まれる。


『気持ち悪くなる位多いわね』

『相手をするのは僕なんだけど』


 ざっと数えて七、八体。一人で相手をするのはキツイが、橋が広くないため、一度に相手をするのは二、三体で良い。不幸中の幸いというやつだ。


「炎よ宿れ!」


 合言葉を唱え火札を起動させると、札が燃え上がり木刀が炎に包まれた。見た目は炎だが熱くない。効果の程に疑問を感じるが、傍にいた《粘液生物》を縦横の連撃で叩き斬る。腰まであった粘液質の形が崩れドロドロの液体になった。ちゃんと火札の効果が出ているようだ。

 《粘液生物》は、動きが遅く的が大きいため当てやすい。おまけに、攻撃の動作が丸分かりで、よく見ていれば余裕で回避できる。その代わり、しぶとくて一撃で倒せない。時間は掛かりそうだが、一人でも何とかなりそうだ。


「手伝わなくて平気?」

「大丈夫。時間は掛かるけど何とかなりそうよ。一応、周りを警戒しておいて」


 八尋に答えながら、また一体倒す。空いた場所に《粘液生物》が詰めてくる。目の前に二体の《粘液生物》。右の《粘液生物》が攻撃のため身体を縮める。すかさず、振り下ろしの一撃で《粘液生物》の攻撃を中断する。続けて大きく横に払い二体同時に斬る。右の《粘液生物》の形がドロドロに崩れた。


『一撃で倒せるか、まとめて倒せれば楽なんだけど』

『魔法なら倒せるんじゃない? まあ、良い経験だと思えば良いわ』


 少しは戦いに慣れ余裕が出来たのか、美奈と話しながら一体倒す。数えると残りは四体になっていた。

 空いた場所に後ろのやつが詰めてくる。詰め寄る瞬間、十字を切るような軌跡を描き《粘液生物》を斬り裂く。

 倒した攻撃の隙を突き別の《粘液生物》が、ブワッ! と身体を広げ飛び掛かる。広がった身体に、渾身の力を込め木刀を一閃。《粘液生物》が真っ二つになって千切れ飛ぶ。直ぐに身構え隙を無くし、慎重に一体葬った。

 残り一体となり《粘液生物》を観察する余裕が生まれた。よく見ると身体の中に核の様なものがある。試しに突きを入れてみると一撃で崩れ落ちた。核が弱点になっているようだ。

 《粘液生物》を全滅させ辺りを警戒したが、他に魔物の気配はない。


「やっと終わったわ。一人で倒したけど試験は全員合格で良いの?」


 僕以外は何もしていないし、試験の結果はどうなるのだろうか?


「そうッスね。パーティでの試験なんで皆合格になると思うッスよ」

「それなら良いわ」


 全員合格ということで、とりあえず安心した。

 八尋に頼んで素材を回収してもらう。回収できたのは、魔石の欠片八個と《粘液生物》の核七個だ。


「それにしても、やけに大量に出てきたわね。こんなに一杯いるものなの?」

「さあ? 多過ぎる気もするッスけど、後で俺ッチから組合に報告しておくッス」


 何となく釈然としない気分だが、試験も終わったことだし早く帰ろう。


「試験も終わったし帰りましょうか」

「すぐ帰るのもいいッスけど、ここまで来たんだし参拝していかないッスか。この神社荒れてるッスけど、御利益があるって噂ッスよ」


 参拝か、神社だから分からなくもない。


「別に構わないけど、また魔物が出たら手伝ってもらうわ」

「オイラも別にいいよ」

「私も美奈に任せます」


 特に反対意見もなかったので参拝することになった。決して、御利益があるから参拝する訳ではない。

 警戒しながら二つ目の太鼓橋を渡り本殿へ向かう。本殿は思っていたほど朽ちてなく、神聖な雰囲気を醸し出している。二拝二拍手一礼で参拝を済ますと、何となく良い事がありそうな気がしてきた。


「御利益がありそうな気がするわ」

「ん? 別に変わらないと思うけど」


 八尋に冷静に突っ込まれた。こういうのは、その場の雰囲気ってものがあるのデスヨ。

 全員で参拝して良い気分になったところで来た道を引き返す。ふと見ると橋の前に緑色の巨大な物体が道を塞いでいた。


『大きいわね。人なんて軽く飲み込めそう』

『デカすぎるって!』

『でも、倒さないと帰れないわよ。覚悟しなさい』


 橋への道を軽く塞ぎ、頭二つ分程高い物体を見つめる。二、三人は軽く飲み込める大きさだ。大量に居た《粘液生物》の主なのかもしれない。


「何でこんな所に《大粘液生物メガスライム》が……。聞いてないッスよ……」

「道を塞いでるし、倒さないと帰れないでしょ! しっかりしなさい!」


 呆然と《大粘液生物》を見つめ、戦意を喪失しかかっている結さんを叱咤する。自分にも言い聞かせるため強めに言い覚悟を決めた。


「前に出るわ! 八尋は援護、結さんは魔法で攻撃!」


 まだ火札の効果が残っている木刀を構え《大粘液生物》に突撃した。

 「炎よ宿れ」と八尋の声が響き、《大粘液生物》に矢が突き刺さる。核を狙ったはずの一撃は分厚い粘液に阻まれていた。

 その間に接近し、対峙した《大粘液生物》を真一文字に斬りつける。しかし、切りつけた箇所がすぐに復元し、逆にこっちに覆いかぶさってきた。


『避けて!!』


 美奈の声でとっさに左へ大きく跳び、転がりながらも何とか躱す。《大粘液生物》の体勢が整う前に、起き上がって木刀を構える。

 美奈の声が無かったら危なかったが、チマチマ攻撃しても倒せそうにない。


『核か魔石を狙わないとダメそうね』


 確かに言うとおりだが、粘液が厚すぎて木刀が届きそうにない。何か手段が必要だ。


「結さん! あの分厚い粘液をどうにかして!」


 腰が引けて何もしていない結さんに頼む。あまり期待できないが、可能性としては一番ありそうだ。その間にも《大粘液生物》の攻撃を躱し続けていた。


「きゅ、急にそんなこと言われても無理ッスよ!」


 期待してなかったとはいえ、あっさり言われると腹が立つ。「役立たず!」と叫びたかったが、そんな暇はない。

 こうなったら相打ち覚悟で核を狙うしかない。少し間を取り《大粘液生物》の隙を伺う。


「離れて!!」


 八尋の声と同時に手の平大の球体が、《大粘液生物》目がけ矢のような早さで飛んで来る。それを見て大きく後ろに飛び退く。

 球体が《大粘液生物》に命中し体内に取り込まれる。刹那、鼓膜を震わす轟音とともに《大粘液生物》が爆発し炎が舞う。三分の一程吹き飛び核が露出したが、まだしぶとく生きている。


「ヤァァァ――!!」


 この隙を逃さず、全身を槍と化し突貫する。再生が間に合わず露出したままの核に、突き出した切先が迫る。


「ブチィィィ――――!!」


 弾力のあるものを貫いた感触。《大粘液生物》の核は貫かれ水が抜けるように潰れる。

 やがて、《大粘液生物》は核を失った身体を維持できず、ドロドロに溶け出した。


『まだまだね。もっと鍛える必要がありそうだわ』


 恐ろしい事を聞いた気がしたが、疲れていたので聞かなかったことにしよう。


 大きく息を吐く。


「フーッ、どうにか倒せたわね。八尋ありがと。それにしても、さっき投げたのは何だったの?」

「あれは【爆炎玉】だよ。秋から貰ったんだ」

「そっか。秋ありがとう、助かったわ」

「いえ、念の為に持っていたのが、役に立って良かったです」


 秋には助けられてばかりで頭が上がらないな。

 三人で労っていると、バツが悪そうな顔をした人物が拾った魔石を渡してくる。


「落ちてたから拾っておいたッス。いや~あれを倒すなんて、美奈ッチははすごいッスね」

「ありがとうございます」


 特に話すこともなかったので、お礼だけは言っておいた。


「もう少ししたら、俺ッチの《火球ファイアーボール》が火を噴いたッスけどね」

「……また出るかもしれないので、早く帰りませんか?」


 あんまり話したい気分でもなく、疲れて早く帰りたかったので提案してみた。


「そ、そうッスね。早く帰るッス」


 強張った結さんを先頭に神社を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ