32話 付与
都合により短めになっています
街の東に川があり、川を渡ると農業地域になっている。家屋は数える程しか無く、辺り一面田畑だった。
「それで、《粘液生物》はどの辺りに居るの?」
「最新の目撃情報だと神社付近に居るみたいッスね」
「神社?」
「ここから一時間ほどで着くッスよ。でも、あんまり人が来ないんで寂れてるッスね」
「ふーん」
必要なことを聞いたら話すこともない。早く試験を終わらせて帰ろう。
「じゃあ、神社まで案内お願いしますね」
「オッケー。しっかり俺ッチの後に付いて来るッスよ」
結さんの後に付いて神社を目指す。しかし、道中の結さんの質問攻めには辟易した。秋は商売上強く出れないようで、一番の被害者になっている。秋を助けるため質問して気を逸らそう。
「結さん、《粘液性物》って武器で倒し難いのよね。どうやって倒したら良いの?」
「魔法で倒すのが楽ッスけど、《魔力付与》をかければ武器でも簡単に倒せるッス。何だったら食事に一回付き合ってもらえればかけるッスよ」
食事になんか付き合いたくないが、《魔力付与》をかけてもらわないと一苦労しそうだし悩む。
『私は嫌よ。そんな事なら、かけてもらわなくて良いわ』
『僕も食事に行く気はないよ』
美奈の反対もあるし、かけてもらわない事にしよう。倒すのに苦労しそうだが、食事に行くよりマシだ。
「美奈、【属性付与札】があるから大丈夫だよ」
「あ、そういえば買ったわね」
八尋の指摘で【属性付与札】を買ったのを思い出す。悩む必要はなかった。ただ、少し問題がある。
「使い方がよく分からないのよね」
取り出して説明書を見ると、合言葉を唱えると書いてあるだけだ。試しに使ってみるのも少し勿体無い。
「【属性付与札】なら付与させる装備品に貼り付けて、合言葉を唱えれば一時間は効果が続きますよ。美奈が持ってるのは火札ですから、合言葉は「炎よ宿れ」ですね」
さすが秋、使い方を丁寧に説明してくれた。
「秋、説明ありがと。これで《粘液性物》はばっちりね。という訳で、《魔力付与》は要りません」
面倒臭いけど結さんにお断りの言葉を告げておいた。非常に残念がる様子が可笑しい。
結さんについてあんまり聞きたくもないけど、好奇心には勝てなかった。
「結さんって魔法使いなんですか?」
「よく聞いてくれたッス。使えるのは付与魔法だけじゃ無いッスよ。攻撃魔法から回復魔法だって使えるし、もちろん前に出て戦うッスよ」
「へぇ~すごいですね」
適当に相槌を打ったけど、あまりのドヤ顔に眉間にしわがよる。所謂、器用貧乏ってやつだろう。短い付き合いだけど、あちこち手を出しそうな性格してるのは分かる。
「でも、そんなに沢山魔法って覚えられるものなの?」
「美奈ッチは魔法に興味があるッスか? でも、それは試験に合格してからのお楽しみッスね。まあ、頑張れば沢山覚えられるようになるって事だけは言っておくッス」
一番聞きたいことを誤魔化された。それから、結さんの魔法自慢が始まったが適当に聞き流した。かなりの種類の魔法が使えるらしく、一人パーティにいれば便利そうではあったけど。
しばらくして、《粘液生物》が生息しているという神社に到着した。約一時間、結さんの話を聞き続けるのは辛いものがあったが、秋が助かったようなので良しとしよう。
「ここが目的の神社なの?」
鳥居があるので神社というのは分かる。しかし、境内は木が生い茂っていて、人が管理しているようには見えない。
「そうッスよ。《粘液生物》が中にいるか分からないッスけど、戦いの準備はしておいた方がいいッスよ。俺ッチは付き添いなんで、手は出さないッス」
結さんに言われ準備を整える。火札は話し合った結果、木刀に付与することにした。理由は物理攻撃はあまり効果が無いので、木刀でもいいだろうということだった。火札を木刀に貼り付ける。出番は殆ど無いけど、念の為に八尋にも火札を渡しておく。秋には戦わせる気も無いので後方に待機してもらう。
「準備万端よ」
「じゃあ、お先にどうぞッス。俺ッチは後からついて行くッスよ」
試験ということで、結さんは手出ししない事を徹底するようだ。まあ、殿を努めてくれるだけで助かるけどね。
八尋、僕、秋の順に、結さんが殿を努めた隊列で神社に入っていく。
さあ、討伐試験の始まりだ。




