31話 試験内容
冒険者組合の前までやって来た。中に入ると討伐試験を受けることになる。ここまで来て何故か緊張してしまう僕がいた。
「入らないの?」
八尋が中々中に入らない僕を見て、不思議そうに聞いてくる。
「入るわよ。でも、もう少し待って」
緊張を解すために深呼吸をする。
「美奈でも緊張するんですね」
クスクスと秋が笑っている。
『ここまで来て緊張するなんて情けないわね』
『初めての時は何でも緊張するものだよ』
会話したことで少しだけ緊張が和らぎ、今度こそ組合に入る。昨日言われたとおり受付で話を聞く事にする。受付に行くと、昨日話しをした受付嬢が僕達に気付いた。
「あら、おはよう。今日は三人なのね」
「おはようございます。ええ、そうなんです」
僕に続き二人も挨拶をする。相変わらず値踏みするような視線を感じたが、満足したのか彼女は微笑んだ。
「それで、今日は討伐試験を受けに来たということで良いのかしら?」
「はい。今日は試験受けられますよね?」
「ええ、大丈夫よ。じゃあちょっと移動しましょうか」
四人で登録受付に移動すると、彼女が担当の人に何かを言って席を譲ってもらっていた。
「さあ、こちらへ座って」
席を勧められテーブル越しの椅子に腰掛ける。
「ウフフ。討伐試験と言っても簡単だから、そんなに緊張しなくても良いのよ」
緊張していたのを見破られ恥ずかしい。赤面した僕を見て、彼女は笑みを受けべながら話を進めた。
「試験の説明の前に、自己紹介しておくわね。『加賀瀬 魅香(かがせ みか)』よ。合格したら担当になると思うから、よろしくね」
僕達も自己紹介したところで、試験の説明をしてもらう。
「試験の内容は簡単な冒険者依頼を達成するだけよ。詳しくはこの紙を見てね」
何かが書かれた紙を渡された。確認してみると依頼内容が書かれている。
【《粘液生物》の討伐】
種別:組合依頼
条件;五体討伐
報酬:達成後に組合にて明示
《粘液生物》は何となく分かるけど、報酬が謎だ。紙を他の二人に渡し、内容を確認してもらう。
秋は何も言わなかったが、八尋は「《粘液生物》か……」と呟いていた。名前を見る限り強そうに思えないが、厄介な魔物なのだろうか。
『ブヨブヨして斬り難いのよ』
『そうなの?』
『倒せなくもないけど面倒ね。魔法だと楽に倒せるらしいわ』
《粘液生物》は物理だと倒し難いのか、確かに面倒臭そうだ。ゲームだと雑魚モンスターなんだけどな。
《粘液生物》の事が分かったところで魅香さんの話を聞く。
「依頼内容を確認してもらったところで説明するわね。街の東の農業地域に《粘液生物》が増えて困っているから討伐して欲しいの。貴方達なら簡単に倒せるんじゃないかしら」
「ん? それって普通の依頼ですよね」
「そうね。でも、試験の中身なんてそんなものよ」
試験はついでという事らしい。そんな簡単に《粘液生物》を倒せるのか疑問だけど、受けないと始まらない。
「まあ、受けないと登録できませんしね」
魅香さんに向かってそう言うと、彼女はクスッと笑った。
「そうよね。でも、安心して良いわ。危なくなったら付き添いに任せればいいから」
「良いんですか?」
「ええ。そのための付き添いでもあるしね。実力もないのに試験を受ける輩が多いから、安全のためよ」
安全が確保されているのは良いことだと思う。これなら秋も連れていけそうだ。でも、試験ごとに付き添うのも手間が掛かるだろうな。
「大変ですね」
「最近は多少減ったからまだ良いわ。多かった時は、付き添いの人選が大変だったのよ。それから――」
仕事の愚痴が始まってしまった。話が長くなりそうだ。しかし、最初の印象とは違い良い人だなと思った。あの値踏みするような視線は杞憂だったのか。きっと、あの視線は受付という職業柄なんだろう。
そんな事を考えていたら、そろそろ愚痴が終わりそうだった。
「話が逸れてしまったわ、ごめんなさい。試験の説明は終わりよ。受けるならその紙に署名すること」
試験に問題はないので、僕達は依頼内容が書かれた紙に署名した。秋は多少躊躇していたけど。
魅香さんは、僕達が署名したのを確認すると立ち上がる。
「署名もしてもらったし、早速行ってもらうわね。休憩所で付き添い人を紹介するから移動しましょう」
魅香さんに付いて休憩所に行くと若い男の前にやってきた。
僕達に気付いたのか男は立ち上がり挨拶をしてくる。
「ドォーモ、魅香姐さん。彼女達が試験を受けるんスか?」
「そうよ。本当は貴方に頼みたくないんだけど、他に誰も居ないからしょうがないのよね……」
「そんなこと言わないでくださいッス。彼女達に誤解されるじゃないっスか」
男は心外とでも言うように肩を竦める。二人の会話から察すると男は問題がある人物のようだ。
「嫌だけど紹介するわね。この軽そうな人は『和久 結(わく むすぶ)』。危なくなったら全部押し付けて置いてきても良いわよ。いえ、むしろ置いてきて」
「ちょっと! 何言ってるんっスか。いくら、魅香姐さんでも言って良いこと悪い事があるっスよ」
「あら、何か文句でもあるのかしら?」
その細い目が微かに開き、和久さんを人睨みすると、蛇に睨まれた蛙の様に固まっている。
「……いえ、何でもありませんッス」
やっとのことで言葉を発した和久さんは大量の汗が吹き出ていた。
魅香さんは怒らせるとコワイ人物のようだ。なるべく怒らせないようにしよう。
何とか立ち直った和久さんは僕達に挨拶をしてくる。
「ドォーモ、はじめまして、結ッス。よろしくッス」
結さんが握手を求めてきたので渋々応じた。秋にも同様に握手を求めている。
見た目から薄々思ってたけど、軽い、軽すぎる。俗に言うチャラ男って奴だ。魅香さんが嫌がっていた理由が何となく分かった。
一応自己紹介はしたものの、八尋の時は聞いていないようだった。
「美奈ッチと秋ッチね、もう覚えたッス。こんな美人二人とお知り合いになるなんて、今日はツイてるっスね」
小躍りしそうなほど喜んでいる。見ているこっちはドン引きですが。それから、色々質問されたり、自慢話を聞かされたりで段々ウザくなってきた。
『とりあえず、殴ってもいい?』
『僕も殴れるなら殴りたいけど、今は我慢しようよ』
これ以上話が続くなら思わず手が出そうになる所で、魅香さんが見かねて言った。
「貴方のどうでもいい話で時間が勿体無いから、早く出かけて頂戴。美奈さん達も早く試験を終わらせたいでしょう?」
僕達はウンウンと大袈裟に頷く。
言葉に怒気をはらんでいたのが伝わったのか、結さんもさすがに話を止める。
「そ、それじゃあチャッチャッと出かけるッスかね」
魅香さんがよほど怖いのか、組合をすぐに出ていこうとした。こちらとしては有り難いので、魅華さんにお礼を言って組合を出る。
「俺ッチが《粘液生物》の居るところまで案内するっスよ。任せるっス」
案内を任せ試験を達成する事だけ考えよう。秋の安全も確保出来そうだし、安心して魔物に集中出来る。ワクワクした気持ちを抑えきれない。
結さんの案内で《粘液生物》が生息している場所に向かった




