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28話 受付嬢

 秋葉原から日本橋までの通りを歩く。今歩いているところは神田辺りか。秋葉原は商店が多かったが、この付近は職人街といった感じで武器、防具等の装備品の店が多い。

 ちょっと各店を覗きたい衝動に駆られたが、グッと堪えて組合への道を急ぐ。八尋を見ると、同じく店に興味があるのかキョロキョロとして忙しない。


「今は組合に行くが優先よ。時間があったら帰りに少し寄りましょう」

「分かったよ」


 八尋の気持ちも分かるので、帰りに寄り道していく事にした。

 しばらく通りを歩き、橋を渡った先の十字路に目指す冒険者組合が建っていた。組合は他の建物と比べてかなり大きい。高崎の組合と比べて高さは変わらないが、一回りか二回りほど広くなっている。


「大っきいわ」


 組合の前で建物を見上げながら呟くと、「そうだね」と八尋が相槌を打った。建物が大き過ぎて入るのに躊躇してしまう。ただ、見上げるだけではしょうがないし、意を決して組合の中に入った。

 組合の中は夕方近いのもあって、かなりの人で賑わっていた。それぞれ、依頼の報告や素材の買取で忙しそうにしている。


「他の組合と比べて、かなり人が多いわね」

「まあ、規模が違うからね」


 驚いてばかりもいられないし、さっさ用事を済ませよう。組合に入って直ぐ右側に立派な受付カウンターがあり、二人の受付嬢が座っている。どうしようかと迷っている間に、八尋は受付嬢と話していた。素早い動きに一瞬唖然としたが、そのまま八尋に任せる。


「ねえ、オイラ達冒険者の登録がしたいんだけど、どうしたら良いのか教えてよ」


 背が高い方の受付嬢が微笑み、八尋に対応してくれた。しかし、僕達を見ている細いつり目の奥が怪しく光っている……ような気がする。値踏みされているのかもしれない。


「ウフフ。そうねぇ、まず討伐試験があるから合格しないとダメね。今日はもう遅いから明日いらっしゃい」


 科を作りながら話す様子がとても妖艶に思えた。八尋の様子を見ると、頬を赤らめながらも彼女をしっかり見つめている。そんな八尋を見た美奈が一言。


『だらしない顔してるわね』

『まあ、男ならしょうがないよ』

『そういうものなの? でも、貴方は平気みたいじゃない』

『う~ん? 何かあの目が気になってね』

『あら、奇遇ね。私も値踏みされてるようで、ちょっと嫌だったのよ』

『へぇ~そうなんだ』


 どっちかというと美奈の感情が流れこんできた可能性があるけど。

 そんな話をしているとは露知らず、八尋は話を続けていた。


「討伐試験があるのは知ってるよ。どんな内容なのか知りたいんだけど」

「あら、そうだったの。でも、そんなに難しい試験でもないから、二人なら大丈夫じゃないかしら?」


 彼女は僕達を上から下まで眺めながらそう言った。

 冒険者組合の受付という仕事柄から、相手の実力が分かるというのだろうか?

 不思議に思いながら何も言わずにおいた。


「う~ん? それなら良いんだけど」


 八尋も不思議に思ったのか首を傾げている。


「ウフフ。明日また色々教えてあげるわ。なら、今日はこれでおしまいかしら?」

「うん。それじゃあバイバイ。また明日」

「ええ。また明日ね」


 お辞儀をしてその場を後にした。それにしても、あんな視線をする彼女が、ただの受付嬢とは思えない。注意しておいた方が良い気がする。まあ、組合の中だし命の危険はないと思う。


「登録も明日になったし、これからどうしようか?」


 八尋が問いかけてきた。


「組合の中を見て回って、職人街に寄って帰りましょうか」

「うん。それでいいよ」


 八尋も同意したので、早速組合を見て回る。先ずは、掲示板を見に行く。他の街の組合とは依頼の数と種類が雲泥の差だったが、取り立てて目につく依頼は無い。

 気になったのは案内板の方で、地下鍛錬場と二階の書庫が目についた。ただ、予想通り関係者以外立入禁止となっていたので、組合員にならないと使えない。色々と調べたいこともあるし、書庫は早めに行っておきたいところだけど。

 まあ、全ては明日の討伐試験の結果次第だし、とりあえず帰ろう。

 気になる施設もなく直ぐに組合を出てきた。長居した所為か日が落ちかかっている。

 少し走るか。昨日から座ってばかりで運動不足だし、ちょうど良い。


「八尋、職人街まで走るわよ!」


 言い終わるか終わらないうちにすでに走りだしていた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 八尋の声がしたけど、待たない。慌てて駆け出しているに違いない。


 多少息切れしたが、あっという間に職人街に到着した。八尋も少し遅れて到着する。


「はぁ……はぁ……ちょ、なんで急に走るのさ」

「強いて言えば、運動不足解消のため?」


 自分でもよく分からず、首を傾け答えた。


「いや、何で聞くのさ? あーもういいや、聞いても無駄な気がする」


 八尋の肩に手を置きウンウンと頷くと、何も言わなかった。


 そんな馬鹿なやりとりをしながら、職人街を見て回る。工房と店舗が一体になっている所が結構あり、素材を渡せば装備を作ってくれそうだ。


「目ぼしいものはないわね」

「そんな簡単に良い物は見つからないでしょ」

「でも、こんなにお店があるんだから、見つかっても良さそうなんだけど」

「じゃあ最後に、この『大山武具店』に寄ってみる?」


 目の前には二階建ての建物で、工房と店舗が一体になっている店がある。


「そうね。ちょっとだけ見て行きましょうか」


 帰りが遅くなってもいけない。お店には悪いけど、冷やかしがてら見ていこう。


「いらっしゃいませなのだ」


 店に入ると正面のカウンターから、顔だけ出した少女に出迎えられた。他に店の人がいないので手伝いだろう。冷やかしだから声は掛けないでおこう。

 店の中を見て回ると中々良さげな物が置いてある。


『へぇ~、品質良さそうな物置いてあるわね』

『うん。でも値段がね……』


 この店の商品は全体的に値段が高い。今の手持ちで買うのはかなり厳しい。今のところ装備は間に合っているし、お金を貯めてからまた来るとしよう。


「そろそろ秋の所に行きましょう」


 大体見て回ったので八尋に問いかける。


「うん。行こう」


 八尋も満足したようなので、秋葉への道を急ぐことにした。


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